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最終話 ありがとう


 色々と面倒な手続きを済ませ、クラリッサがサージスにやって来た。ここから一年間の婚約期間を設け、挙式となる。こっちでマリーという友人も出来、俺と居るよりも楽しそうに暮らしている。



 そして今日は俺のアルコール初挑戦日。


 数え年なので一月に年は取っているが、まだシルヴェリスから貰ったお酒は飲んでいなかった。婚約騒動が落ち着いたので漸く飲める。


 今日の夕食はお酒に合う物を出してもらった。初めてなのでまずはシルヴェリスおススメの度数弱めの果実酒から。オリヴァーとオブシディアン、ルナール、サンとヒリュウにも付き合ってもらい、前世含めて三十五年の人生初の晩酌開始。





 そして、コップ一杯目からの記憶が全く無い。


――――――――――――――――――――


「フェリーチェ……まさかこんなに酒に弱いなんて。ほら、これ飲んで」

「んー……」


 オリヴァーはポヤポヤしているフェリーチェの肩を抱き、水の入ったコップを渡す。エクレシアの騎士も酒に弱かったが、エクレシア出身の人間に例外なんて無かったのだ、というのが今の正直な感想である。


 オブシディアンとルナールは相変わらず顔色一つ変えずに二本目の瓶を空にし、ヒリュウも少し顔を赤くしているものの、正気を保っている。


 問題はフェリーチェとサンだ。サンもエクレシアの人間。度数が弱く、ほぼジュースなお酒数杯で酔い潰れ、ヒリュウの膝枕で眠りこけている。



 気絶させようかと迷っているオリヴァーの耳元で、フェリーチェが「理久……」と囁く。酔って自分を誰かと勘違いしているらしいと判断したオリヴァーは少々の恐怖を感じ、迷いを捨てて思いっきり手刀を食らわせた。


 小さく呻いたフェリーチェはそのまま気絶。オリヴァーは布団を敷いて寝かせた。




「それにしても、リクさんって誰なんでしょう……皆さんの知り合いでしょうか?」

「ボクは知らない。聞いたこともない。少なくとも竜ヶ丘とサージスの魔族ではないかな」


「俺の知り合いにもいません。サンは?」

「知らない方です。ですが、フェリーチェ様にとってすごく大切な方なんだろう、とは思います」


「やっぱり直接聞くのが一番良いんだろうな……。本人はさっき気絶させちゃったし、明日にでも聞いてみるよ」



 おつまみを食べながら三杯目の果実酒を口に運ぶ。オリヴァーはエクレシアでは珍しい酒豪であり、度数が強い酒も一人で一本開けたにも関わらず、いつもと様子が変わらない。


 自分の限界を心得ているヒリュウは既に水で酔いを醒ましており、オブシディアン達から竜ヶ丘の話を聞いていた。



(ヒリュウさんも酔いつぶれちゃわなくて良かった。魔王とその片腕に介抱させるわけにはいかないからね)


 今度から、間違ってもフェリーチェには酒を飲ませないようにしよう。そう固く決意した夜だった。


――――――――――――――――――――


 昨日の記憶が全く無い俺は、オリヴァーとヒリュウに事情を聞き、悲しみに暮れていた。前にエクレシアの騎士にザルは居ないのか、と思ったことが有るが、ザルじゃない代表がここに居た。



 酔っぱらってオリヴァーに気絶させられたらしい。なんとお間抜けな。


「そういえば、昨日リクって名前呼んでたけど、誰の事?」


 オリヴァーの部屋に書類を届けたついでに昨日の話をしていたのだが、その言葉で俺は激しく動揺する。書類を持っていたら何枚かは真っ二つになって再発行を余儀なくされていただろう。



 オリヴァーには全幅の信頼を置いているし、この部屋には他にルナ、サン、ヒリュウ、マオしか居ない。前半の三人は絶対口外しない。マオは普段の態度から口が軽そうな印象を受けるが実際は逆。

 話すな、と言わなくても秘事であると判断し、絶対誰にも話さない。父親のエヴァンによく教育されていた。



 いつか話そうと思っていたことでもあったので、俺は前世の事、理久との関係性を話した。


 俺が何でクラリッサを含めた女性を恋愛対象として見られないのかも含めて全部。



「そうだったんだ……転落死……」

「フェリーチェ様にしては随分あっさりした死に方っすね」


「こら! マオ……!」

「まあ、魔法も無い平和ボケした国で育てば事故の死因なんてそんなもんだから」


 マオの若干失礼な発言を窘めるオリヴァーに俺はそう言った。




「問題はその理久なんだよ」

「フェリーチェ様の事が好き過ぎる、という……?」


「そう。前にヴィーネから、邪神メビウスについて聞いたんだ。どうやら人を探しているらしい」

「それがリクさんだと……?」


「アイツならやりかねないんだ……」



 既にメビウスは「人間が居なかった」という理由で一つの世界を滅ぼしているらしい。


「いつか、木谷和也がフェリーチェ・サージスだと突き止めて俺を殺しに来るかもしれない……」


 そしてきっと自分も「待っててね、今行くから」とか言うんだ……! 気持ちが友愛であったとしても、俺は既に婚約者が居る。それがバレたら俺に待ち受ける運命は一つ。無理心中だけだ。



「そ、そんなに怖い方なんですか……!?」

「理久は俺が絡むと倫理観が消し飛ぶから……」


 道徳の授業で習った事など丸めてポイだと言わんばかりに。神の座を乗っ取ったと考えても不思議ではない。でも、これに関しては一人で死んだ俺が全面的に悪い。


 そう言ったらオリヴァーには「フェリーチェもフェリーチェだね」と苦笑された。



「それなら何でフェリーチェ様って自分の周り男で固めてるんすか?」

「確かに……俺達は嬉しいですが、見られたら不味いですね」


 ヒリュウとオリヴァーにそう言われ、思わず立ち上がる。




「もし周りを女で固めてたら俺は…………妻帯者でありながら見目麗しい女性を侍らせてハーレムを築くクソ男にしか見えないだ……! それなら全員男で選ぼうと思った……俺が女なら護衛は女で固めてたし。それに理久には通じない。男だろうが女だろうが、俺に近付く奴には誰彼構わず噛み付くからな」


 もし相手が理久じゃなければ絶対好きになんてならない性格だ。




「よくそんな人好きだったっすねー……あだっ!」

「マオ!」


 耐えられなかったのか、オリヴァーがマオの頭を思いっきりチョップした。あれは痛いぞ……。



「俺さ、両親と上手くいってなかったんだ。女の子が欲しかった両親と、男で産まれた俺。すごい不仲でさ。よく理久の部屋に避難させてもらってたんだ。親から空気同然で扱われてた俺を愛してくれたのは理久だけ。だから俺は理久のリミッターがどれだけ壊れてても理久を愛しているんだ」 


 理久が俺で壊れるなら嬉しかった。まあ、客観的に見たら激ヤババイオレンスカップルだけど。



「そりゃあ、誰も対象として見られなくなるね」

「身を固めたのを褒めてあげたいくらいっす」

 手のひらクルクルだな、マオ。まあ、悪い奴ではないから許す。


「俺の惚気が聞きたければまだ話すけど」


「あ、それは間に合ってるっす」

「フェリーチェ様の性格上、胸焼けしてしまいそうな甘々なお話が聞けるのでしょうけど……」

「俺は命が惜しいので……」

「ごめん、今までのって惚気じゃなかったの?」


 と、断られた。残念。




 まあ何はともあれ。俺が転生者だと知っても尚、変わらないこの態度。俺はつくづく良い仲間に恵まれているな。


 が、転生してきた事で出た不満点はある。最初は理久に会えない事だけだったが、酒が飲めない、も追加だな。

 味すらわからないまま気絶させられたから。まあ、そこは日本に居ても考えられる事では有るから多めに見てやろう。


 俺は……大人だからね。



「なんか、悟ってる……?」

「出家っすか? 俗世抜けるのはフェリーチェ様にはちょっと早いっすよ」

「ちがぁーーーうっ!」

 前言撤回! マオ、お前だけはダメだ! 許さん。


 その声で何事かと駆け込んで来たクラリッサにぶくれている所を見られたが、そんな事はもう気にしない。今度は俺が説教する番になった。



 まあ、相手はあのマオ。待てど暮らせど全く反省の色は見えなかったが。仕方ない。マオだから……。


 そう言えば、出家ってこっちでも通じるんだな。仏教世界じゃないのに。ヴィーネは地球の神の一人と知り合いらしいし、そういうのが影響してたりするんだろうか。



 何はともあれ、俺の本当の出自も話せたし、心残りなく寿命を迎えられそうだ。


 そこから五年後。無事に婚約期間を終了し、俺達には双子ができた。現在三歳。数え年の俺と違って誕生日もハッキリしている。



 今の所は天真爛漫だけど俺には小生意気な姉と、クールだけど俺には甘えたな弟って感じだ。下の子にはエクレシアの方を任せるつもりなので、よく視察と称して転移で旅行に連れて行っている。

 家族で行く時は勿論竜飛車だ。船でも良いのだが、ヒリュウが拗ねてしまうので。



 ああそうだ。子守唄ならぬ子守曲をエテルニオン留学から帰国したセイに貰った。前に自分の作った曲を演奏して欲しいと言われていたので毎日子供達が寝る時間に合わせて弾いている。


 クラリッサからも好評で、自分も弾きたいと意気込んで時々セロに教えてもらっているらしい。セロは音楽隊のリーダーで忙しいが、その弟セイが学園の先輩だという男と何やら企んでいる様子。いつか音楽教室が出来る気がする。






 そして、十年かけたエクレシアの果樹農家の努力が身を結び、改良を重ねた果物は今や世界一とも称される程になった。ライムも驚く程の美味だ。


 例えばリンゴ。今までのリンゴはとても生では食べられず、生で食べるとボソボソの果実と青臭さを感じていた。


 だが、改良を重ねた今のリンゴは丸齧りしても甘く、瑞々しい。青森や長野には敵わないかもしれないが、いつかはそれに並ぶ日が来るはずだ。


 現在はお酒用の品種、ジャム用の品種なんかの開発が進んでいる。



 そのうちワインやリンゴ酒も飛躍的に進化するはず。弱いから俺は飲めないけど。採れたて一番搾りジュースで手を打ってやろう。


 そして、竜ヶ丘もこの十年でかなりの発展を遂げた。最初、二百人の群れだったのが懐かしいくらいだ。



 ラ・モールの森に居着いている野生の魔族は全員サージスか竜ヶ丘の国民として保護され、パトロール隊の報告では魔族の誘拐は行われていないとの事。他の王の協力も有り、定期的に貴族の屋敷には監査が入るのだが、ラセフ侯爵家の一件以降、魔族の兵器化は確認されていない。



 うんうん、良い感じだ。サージス本土も人口は十万程まで増えた。八百人から十万人まで。



 カップルが頑張ってくれたのもあるが、魔族含め移住者が結構多くて。セイが留学先で出会ったという先輩音楽家、テオ・アグレットも移住してくれた。



 今では毎月セイとテオのデュオコンサートが開かれているくらい。楽しそうで何よりだ。


 双子達も好きらしく、よく連れて行けとせがまれる。残念だが、コンサートだから六歳未満はお断りでね……。弟の方はアッサリ引いてくれて、俺の演奏で我慢してくれる様になった。妹の方は俺に全く懐いてないので……。クラリッサに丸投げだ。



 「フェリーチェ!」と呼び捨てにされているから、父とすら認識されていないのだと思う。別に良いけどさ。義務さえ果たしてくれれば何でも。


 そうして息子に慰められるまでがセットになりつつある。情けない。




「フェリーチェ、エヴァンさんが呼んでる」

「ああ、今行くよ」


 転生してから二十一年。理久への想いを捨て切れたわけではないが、少しは割り切れる様になった。


「なあ、オリヴァー」

「うん?」

「俺、オリヴァーに出会えて良かったよ」


「ふふ……ありがと。それ、皆にも言ってあげなね」

「ああ。今日は宴会にしよう」




 本当に。俺に出会ってくれた人達には、これからも精一杯の感謝を伝えたい。


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