五十話 魔法具一世
エテルニオンとの玄関口として国際空港を作る事が決定した。工事は春になって雪が溶けてからになるが、デザインは既にいくつか出始めた。
そしてもう一つ。クリスタルおばさんが派遣してくれた魔法具職人の助けを受け、サージス初の魔法具が完成した。
少し前から魔鉱石の採掘を始め、魔力階級を計る魔法具を一台、神社に設置したのだ。あと数台国内に作ったら輸出用にも作っていく予定だ。
俺達幹部の階級は全部出た。
俺は特級、オリヴァーとルナは二級、サンは一級、マリーは四級だった。
魔族は数字ではなくアルファベット。ヒリュウとシノが上から四番目のAランク、ヴェルザードがその二つ下のBランク、リヴがそこから更に下のCランク。
ハナエはB+ランクだった。Bよりは強くて、Aよりは弱い。
俺が驚いたのはヒリュウの上に三階級分あるという事実。オブシディアンが一番高いSSランクだが、その下のSランクは居なかったし、更に一つ下のA+ランクはルナールだけだった。
曰く、一度強くなってしまうと一定レベルから伸び悩み、滅多な事が無い限りはそこから強くならないらしい。
オブシディアンの師匠は弟子達の強さを何度も最低ラインまで落として上げての鍛錬を短期間に繰り返させていたらしいのでランクが高いのだという。ゲームの周回みたい。
弟子はルナールとオブシディアンの二人。
ルナールの方はSSランクにカンストする前に師匠が居なくなった為、A+ランク止まりなのらしい。
今後は国民全員の階級を計るのは巫女のルミナ達に任せる事になる。
ということで、新たな魔法具を作る事に決まった。給水機を作ろうかとも思っていたが、それは水属性の魔鉱石に自分の魔力を込めて反応させれば誰でも使える。
魔法具にして効率化を図るのは後でも良いだろう。今作れないかと画策しているのは結界を俺以外が使える様にする魔法具。無限収納は誰にでも使える様にするのは簡単。
転移は無理、となると、守護者の固有魔法で残っているのは結界のみ。
この魔法具が作れたら、護衛隊や竜騎士達に持たせたい。万一の事故も起こって欲しくないから。欲を言えば小さなトラブルすらあって欲しくないが、それは欲張りというもの。
命やその他活動に大きく影響しない程度のトラブルは常に起きているものと思おう。
魔法具を作るには属性に合った魔鉱石を用意しなければならない。だが、俺の能力は普通の魔鉱石には無い属性だ。
そのため魔鉱山の浅い場所から取ることが出来る、無属性の魔鉱石を使う事になる。
魔鉱石に空間属性の魔力を込めるのだが、これがまーーーあ難しい。同じ属性に込めるのは得意なんだけどなあ。まだ俺自身、魔力の扱いっていうのに慣れてないのかもしれない。
その証拠にオリヴァーは無属性の魔鉱石に治癒属性を難なく込めていた。こっちの世界に来てから十一年経つけど、こういうのはまだまだだな。
これからは自分の仕事にプラスして魔鉱石に魔力を込める練習をする事になる。早めに出来ると良いんだけど。まあ、無限牢獄とか三百回くらい試行したから期待は出来ないけどな。
転生モノって大体こういうの一発目で出来て、「何かやっちゃった?」とか言うのがお約束なのにさ。俺、転生の才能無いんかな。
オリヴァーは「初めから出来るよりも試行を重ねて出来る様にする方が人間味が有って好き」って言ってくれるけども。
俺だって全部とは言わないけど、何か一つくらい努力無しで出来るのが有って良いと思うんだよ。現実はそんな甘くないってか。
等と時折無駄な考えが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え。漸く、満を持して一つ目が成功したのは雪も溶けた春。この大陸に来た初夏のあの日から、半年以上が経ってからだった。
俺以外の進捗で言うと、クリスタルおばさんの別荘と、サージス城が完成した。国際空港の着工もサージスとエテルニオン両国共に、二週間程前から始まっている。
どんどん進んでいくプロジェクトから置き去りにされている様で、最近は少し苛々する事が増えていた。誰かに当たったり、周りに迷惑を掛ける前に成功して良かった。
――――――――――――――――――――
「シル。お前、やったな」
「何のことかな。ルーク」
「しらばっくれるな。竜飛車の件だ。クローシアではその存在すら一部の人間しか知らんというのに」
「エテルニオンでは国際空港を作る為、貴族も平民も、多くの者が知っている。それが不満なんだね」
エテルニオン王国、国王の執務室ではクローシア国の王、ルークがシルヴェリスに詰め寄っていた。
文句の内容は勿論、抜け駆けについてだ。一度乗った事の有るルークは、竜飛車がどれ程便利で快適かを知っている。
が、その後のゴタゴタのせいで自分の国にも、と提案する余裕が無かった。それをシルヴェリスはちゃっかり取り付け、既に着工も始めている。初めは国王同士の口約束、夏が本格化し始めてからは公式な文書を交わしての約束。何故こうなるまで気付かなかったのかとルークは唇を噛んだ。
「自分の方が先にサージスを見つけたのにって? 羨ましいなら手紙を出したら良いんじゃないの。ヴェルザードくん、ルークにくっ付いて来てるなら出ておいで」
シルヴェリスがルークの後ろの空間に声を掛けると、ヴェルザードは徐々にその姿を現した。ルークとフェリーチェを繋ぐ事が仕事なので、エテルニオンまで姿を消して着いて来ていたのだ。
ついでに護衛もしていた。
「悪いけど、ルークがフェリーチェくんに物申したいらしいんだ。手紙を届けてもらえるかな?」
ヴェルザードは黙って籠を差し出した。フェリーチェからルークに宛てて書かれた手紙、そしてシルヴェリスに宛てて書かれた手紙が入っている。
「手紙の内容とは関係有りませんが、フェリーチェ様からルーク様に、伝言です……。『竜飛車とエテルニオンの事、伝え忘れていました。すみません。国家間交流を円滑に行う為にクローシアにも国際線の竜飛車を通したいのですが、可能ですか?』との事です……」
「フェリーチェ……!」
ルークは先ほどまでとはうって変わり、水を得た魚のように生き生きとしだした。忘れられていたとかいう事は右から左に流れている。
ヴェルザードの言った通り、手紙の内容と伝言の関係性はほぼ無い。主な話題は魔法具について。
魔力の階級を計る魔法具の量産に成功し、白金貨と両替するだけの資金も集まったのでクリスタルが治める国、ヴァレンシアとの交易を開始したという事だ。
ヴァレンシアにもまだ竜飛車は離着陸出来ないので当分の間はフェリーチェが転移で売買を続ける事、そして魔力階級を計る魔法具をヴァレンシア以外でも売りたい旨が書かれている。
「魔力は階級が有る事はフェリーチェから聞いた事が有る。六段階で評価されるから、就職の際の面倒な試験が要らなくなるらしいな」
「ぼくも聞いた事が有るよ。今まではヴィーネ神しか分からなかった階級を魔法具で測れる様にするって」
「試供品を送るから検討して欲しい、か。ヴェルザード、今有るか?」
ヴェルザードは再び籠を漁り、七つの魔法具とその説明書を出した。クッションに固定された水晶で無色透明、何も知らなければただのガラス玉にしか見えない。
七つというのは、魔力属性の数。それぞれのクッションが属性に応じた色になっているので簡単に見分ける事が出来る。地属性が橙、火属性が赤、水属性が青、風属性が緑、強化属性が黒、光属性が黄、再生・治癒属性が白。この七つだ。
もう一つ、守護者固有の空間属性は無色だが、使用者が一人しか居ないので作ってはいなかった。
「これが……」
ルークが白いクッションの水晶に手を翳すと、数字が浮き出てくる。
「二級。この資料によると、上から三番目のようだな。欠損や重篤な病気は治せないが、それ以外なら問題無いらしい」
「じゃあぼくも……。一級だ」
青いクッションの水晶に手を翳したシルヴェリスは、自分の手の平を見てキョトンとした表情になる。
王族であるシルヴェリスは三十年以上生きてきて、その力を行使した事は殆ど無い。水属性は希少という訳では無いので、魔法が必要な場面は使用人が全てやってしまうからだ。
「水属性一級は……一回の行使で約千人の生活用水を最低限、確保出来るらしいな」
「という事は、ぼくは今まで宝の持ち腐れ状態だったって事だね」
「らしいな」
その後、面白くなった二人は城の使用人達で階級を計って周り、教会に設置する分の魔法具購入を決めた。
試供品として渡された魔法具は国王同士のジャンケン勝負にて、エテルニオンに留まる事も同日、決定した。




