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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
ジョブは関係がない 無職と英雄たち

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第16話 ルルの切り札 諜報員エラル

 「騎士団の情報が欲しいのよ。どうなのよ?」

 「お前になんで必要なんだ? いち冒険者に必要のない知識だろ? 知ってどうすんだ?」


 おっさんの疑問は、当然である。 

 だけど、ここは押し通る!


 「んんん。まあ、情報ってさ。ないよりはあった方がいいだろ。だから欲しいんだ。理由はそれだけじゃ駄目か?」

 「……そうだな。それは正しい。俺も、この仕事に就いてから、身に染みて思うことの一つだ」


 おっさんはあの後も苦労したらしい。

 ため息が出ていた。


 「そうか。おっさん・・・今まで真面目に働いたんだな」

 「あれから無茶苦茶な事ばかりだったんだ。今なんてオリッサ騎士団にいるのを隠して、他の騎士団についても調べるなんて離れ業の最中だぞ。命懸けよ」

 「だよな。騎士団たちも馬鹿じゃない。さすがに表立って対立しているわけじゃないけど、裏ではバチバチしてそうだもんな」

 「旦那は、察しがいいぜ。実はさ、この国って結構やばいんだ。そういや旦那の名前は?」

 「ルルロアだ。ルルでいいぞ。おっさん」

 「そうか。ルルね。実はな・・・」


 おっさんの顔が真剣になった。

 それで、今から話すことが、真実であると確信する。

 

 でも思う事がある。

 このおっさんのタレントだけど。

 もしかしたら正直者とか真面目とか、そういう類のタレントかも知れない。

 なんでも顔に出やすいおっさんは、自分の職業とタレントが、真逆のものであるんだ。


 ジョブ『奇術師』

 嘘を生業とするはずのジョブ。

 手品じみたスキルがずらりと並ぶから、人を騙すことが中心となるはず。

 だから、全くこのおっさんに向いていないのである!!!



 話は続く。


 「まずはオリッサから、説明しよう。オリッサは名門貴族が中心となった最強騎士団だ」

 「へ~」


 爺さん先生が教えてくれた事と同じだ。


 「騎士団長はバージス・メーラ。彼が率いる超名門騎士団。幹部は貴族でないといけない決まりがある。ガチガチの貴族主義だわ」

 「へ~。ん? おっさん。貴族?」


 おっさんがここで働いてるなら、貴族かと思った。


 「いや、下っ端は一般人でもいいらしいんだ。だからこき使われてるのよ。ここは貴族と平民の扱いがはっきり分かれている騎士団でもある。差別も激しい」

 「ほう。なるほどね。そりゃあ、おっさんにはきつい現場だな。たぶんここの貴族たちは、クソ野郎が多いだろうからな。さっきの話を聞く限りな」

 「お。ルルは分かってくれるか。奴らの相手をするのはキツイんだわ」

 「ああ。だろうな・・・察するわ。オレもこの国の貴族をチラッとだけ見たけど、こっちの貴族たちの匂いや感じから、良い印象を受けない。特に王宮! あそこに入った時にそう感じたわ。ジョー大陸の王宮の人たちからは、武人の匂いがあったのにさ。ジョルバの王宮からは、性根が腐ったような匂いがしたぜ・・・って勘だけどな」

 「そうよ。よく分かるな。まあそんで、その貴族共に問題があるのよ。俺が得た情報の中で、ヤバいものがある」

 

 おっさんが、小声になった。

 

 「今回の武闘大会の後に晩餐会とか、他の色々な祝賀会が開かれるのを知ってるか?」

 「え? そうなの」

 「なんだよ。知らないのかよ。常識だと思ったのによ」

 「ああ。興味ないからな。知らんかった」


 晩餐会に祝賀会なんて、出たくないから、話を聞いてなかったのかも。


 「おいルル・・・情報が重要って言ってたやつのセリフか。アホ!」

 「ワリイ。んで、それのどこが重要なんだ」

 「ああ、それで今回。オリッサ騎士団が、何か仕掛ける気みたいだぞ。俺は下っ端だから、オリッサの情報だけが、完全に掴めないんだ。でも、何かする気だ。ジョー大陸の王にも関わることかもしれん」


 オリッサにいるからこそ、オリッサの情報が手に入らない。

 おっさんの苦労は相当なものだ。


 「マジかよ・・・暗殺でもする気か?」

 「わからん。でもそうかもしれん。実はオリッサって、昔から拡大が目的らしい。領土拡大だ。それに権威も拡大したいらしい。それでまず手始めにジョー大陸を手中に収めようとしてるのかもしれんわ。そうすれば、のちのちジーバードもジャコウも手に入れることが出来るだろ」

 「はっ! マジかよ。それだったら王を殺す気満々じゃないか。いや、まさか別の手を・・・とにかくそれは許せねえな。黙ってやられるわけにはいかんわ」


 想像以上にまずい状況の場所に、オレは放り込まれたようだ。

 テレミア王国の王を殺す。

 または捕らえて何かしらの交渉をする。

 これが考えうる手だ。

 おっさんの話が正しければだが。


 「おっさん、その情報確実か?」

 「わからん。でも幹部の話には、今回の武闘大会がキーみたいな言い方だった。何かするなら大会中か? それとも大会終了直後か? またはその後の晩餐会か? とにかく、奴らは何かをする気だぞ。そんで、ここからさらにややこしい話となる。それが続きの話と繋がるんだ」

 

 おっさんの話は重要なものばかりである。


 「ヴィジャル騎士団について話すぞ。ここは一般人が中心の騎士団だ。それは何故かというと、騎士団長シャオラが平民の出であること。そしてそれを支える王族も平民の出であることから、完全に民間に寄り添う騎士団だ。今の支援者は、現王のいとこで継承権三位のディクソン・トーイという男が支援している騎士団で。それで、ここで全ての騎士団について、説明しておくと・・・」


 ヴィジャル騎士団団長シャオラ。

 それに対して支援している王位継承権者は三位のディクソン・トーイ。

 

 オリッサ騎士団団長バージス・メーラ。

 それに対して支援している王維継承権者は一位の第一王女イェスティ・メーラと二位の第二王子ゴルディ・メーラ。


 マールヴァー騎士団団長レックス・キーサ―。

 それに対して支援している者は現王である。


 三騎士団はそれぞれ国の重要人物に仕えて、微妙なバランスを保っている。



 「そうか……ん? 王の子供って、もっといたはずだよな? 他の王子や王女たちがいないが、どうなってんだ?」

 「ああ。実は裏で殺されているって噂がある」

 「な!?」

 「第一、第三王子。第四、第五王女。これらが死んでいて。第二と第三王女は貴族に嫁に行ったらしいな」

 「マジかよ。そんなに・・・四人も死んでんのか」


 オレはフレデリカの母親が正しいことを思い知った。

 彼女を逃がしていなければ、おそらく今頃は、あの世いきだろう。

 まさか、王族がこんなに死んでいるとは・・・。

 今更だが、フレデリカはとても苦労しているのだと思い知った。

 

 「そうだ。だからこの国・・・きな臭いだろ」

 「ああ、そうだな」

 「正直俺はレッドガーデンにいた方が楽だったわ。しかも人間関係もあっちの方が分かりやすかったぜ。偉い奴についていけば生き残れるしよ。だから、こっちの方が命の危険がありすぎて嫌になるわ。出て行きたいわ」

 「だろうな・・・あいつらは賊だからな。こっちは国・・・大変さはこちらの方が上だな」


 おっさんは、せっかく表舞台の方に出れたのに、今度は逆に難しい場所で生きていかないといけなくなっていた。

 運の悪いおっさんは、最悪の戦場の中に入りこんでしまったらしい。

 いくら卑怯者でも可哀そうだよな。うんうん。


 「それで話の続きだが、ヴィジャル騎士団は改革路線でな。打倒しようとしてるんだよ。貴族派閥をな」

 「・・ということは、オリッサ騎士団とぶつかるってことか」

 「そうだ。近いうちに必ずオリッサ騎士団とヴィジャル騎士団は激突する」

 「クソ・・・最悪だな」

 

 なんて場面に出くわしそうになってるんだオレは!!!

 お金。

 もうちょっとください。王様!

 ちょっとゲイン王、追加報酬を請求したいです。

 なんて思うばかりだった。


 「それでマールヴァー騎士団というのは中道派で、貴族と平民の両方が出世できる比較的良心的な騎士団なんだ。そこの騎士団は現王に仕えているから、今はその両方の騎士団の動きを察知して止めようと裏で動いているぞ。必死にな。なんせな……気持ちはわかる。内戦だけは避けたいと思ってんだよ。それにさ。他国の王を呼んでいる所での内戦なんてな! 愚の骨頂だよな? ひでえ国だ」

 「ああ。そうだ。おっさんの言う通りだ」


 全面賛成だと、オレは腕組みしながら頷いた。

 酷い状況だから、整理するとだ。


 マールヴァー騎士団は現王が管理していて、中道路線の為に戦争を回避しようとしている。


 オリッサ騎士団は、大貴族の家が管理しているから、権威と国土の両方で拡大路線を進みたくて、戦争をしようと動き出している。

 しかもジョー大陸のテレミア王国を落とそうとしているって事だ。


 そしてヴィジャル騎士団は一般人の出が多く、管理しているディクソン・トーイ自身も平民の出の母を持っているから、貴族を打倒しようと動き出しているってことか。

 絡み合う三騎士団により、どっかのタイミングで内戦が起きるってことかよ。



 「逃げ出す準備をせんといかん。ってとこだな!」

 「ルルはここから逃げることが出来るのか!? 外は厳重だぞ」

 「ん? まあな。情報を手に入れて、依頼をこなしたら、王たちと一緒に逃げるかな。ここに長くいる必要もないしな」

 「情報?」

 「ああ。図書館に行きたいのよ」

 「ここの図書館っていやぁ。ああ、歴史図書館か」

 「そう、あそこの情報が欲しいんだ」

 「あそこ・・・一般人は入れないぞ」

 「分かってる。でもツテで入れそうなんだ」

 「え!? ルルはこっちの王族と知り合いなのか?」

 「まあね。オレは今ジョーの王様のダチってことになってるからさ。そこからのツテで何とか入れそうなんだよ」

 「どんな人脈なんだよ。旦那はよ!!!」

 「自分でも思うわ」


 オレだってあり得ないと思っている。

 ただの冒険者の人脈にしては幅広いとね。


 「そうだ。おっさん。オレの仲間にならん?」

 「?」

 「おっさんさ。このままオリッサ騎士団にいてもやばいじゃん。このままだとさ、あの時のレッドガーデンの時と一緒だろ。絶対に政変に巻き込まれるぞ。下手したら死んじまう」

 「ああ、そうだよ。俺だって逃げ出したいけどよ。あの騎士団の締め付けが凄いんだよ。逃げ出す機会がなかなかない」

 「ほう。締め付けがあっても、中々って言うあたりがおっさんらしい。そうか……じゃあ、こいつ。オレのこのペンダントをもらってくれよ」


 緑の輝きを放つ石をおっさんにあげた。


 「ん?」

 「もし逃げられたらさ。その時に頼れる人を多く作っておいた方がいい。てことで、これを持ってれば、オレの師匠と先生があんたを救ってくれる!」

 「え?」

 「グンナーさんとホンナーさんていう人だ。ジャコウ大陸まで逃げれば、あんたを保護してくれる人だよ。ルルロアの紹介で来たと言えばさ。二人の内のどっちかが、おっさんを保護してくれるからさ」


 この小さな玉の欠片は、師匠と先生が保持している物と同じで。

 オレも、これをもらっていて、他にもいくつかある。

 二人と話して、何か困ったことがあったら、それを持つ奴は助けていこうと、三人で決めたのだ。


 「おお。旦那いいのか? オレなんかを助けても…」


 おっさんにしては遠慮していた。


 「ああ。なんか可哀想だからさ。おっさんが逃げられるように手伝うよ。でもさ、ちょっと危険だけど、まだ情報を探ってくれないか。もう少し詳しい情報が欲しいんだ。でも、無理だけはすんな。命の危機になったと思ったら、オレはまだこの大陸にいるんで、オレの所まで逃げてきてくれ。絶対に守ってやっからさ。あ! そうだ。ほら。残りもあげるけどさ。追加でも金やるよ。必要になったら言ってくれ」


 報酬の金をあげて、追加の依頼も口約束をした。


 「いいのか! 何から何までスマンな」

 「ああ、そのかわりもうちょい情報を探ってくれ」

 「・・・そうか、わかった。やってみよう」


 こうしてオレは新たな仲間を手に入れた???

 おっさんこと、卑怯者のエラル。

 嘘つきな職業を持っていて、正直者な密偵であるおっさんだ。

 色々矛盾していて、自分でも何言ってるか意味が分からなかった。

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