第8話 西を開拓
ここに来てから二日が経つ。
オレはより一層この人が変わっている事を知った。
招待をしておいて、接待をしないのよ。
ディディさんは、オレたちを野放しにしているのさ。
好きな所で、好きな事をしていいよ。
こんな感じで自由にさせてくれる変人がディディさん。
なのでオレは、アマルたちにも自由時間を与えて、自由行動に出ていた。
ディディさんと、ヨルガさんは二人で何かのボードゲームをしているようで、真剣に戦っていたので、邪魔するのも悪いと思って、オレは知識を増やそうと調査に出た。
◇
お屋敷にて。
メイド長のリコウさんと世間話をする。
リコウさんは、三つ編みが綺麗な人で、お肌もすべすべ、美容がしっかり行き届いている感じがした。
ここは山奥なのに、彼女はどこで、そういうのを用意するんだろう。
「あのリコウさん」
「はい」
「ディディさん。変わってますよね?」
「はい」
即答だった。
主に対して、失礼だろ。
と思うのは、彼を知らない素人。
彼を知れば知る程、変人は褒め言葉だろう。
「あの普段って。皆さんはどんな仕事をされてるんですか。メイドさんだと、執事さんよりかは仕事があると思いましてね。聞いてみました」
「執事のブリストンさんはですね。ほとんど仕事が無くてですね。困ってるんですよ。主がああいう方なんで、お世話も出来ないですから」
自由奔放過ぎて、お世話できないんだよね。
たぶん。
「それで、ディディ様の注文をたまに聞くくらいが仕事になっています」
「注文を聞くですか。どこでです?」
「はい。どちらかというと王都で仕事をしちゃうのがディディ様でして。こっちの西側の都市。ルントに行くのが、ブリストンさんの仕事です」
「ルントですか。なるほどね」
ルントは、交易都市と呼ばれる小さめの都市だ。
ジョー大陸の西側と東側を繋ぐ役割をしていて、王都よりも情報が集まりやすい場所。
だから、細かい情報を得るために、ブリストンさんがお仕事をしているのだろう。
山で過ごしていれば、世間に疎くなるからだ。
「はい。情報を聞いてきて、不便に思う事の中に山関連の事があれば、ディディ様が出て行きます」
「山関連?」
「はい。例えば、都市に炭が足りないとか。木が足りないとかですね。あとは山菜かな」
「ああ、なるほど。確かに山関連か。ここらの物を販売しているんですね」
「そうです」
山の神だもんな。
確かに木で商売するには、うってつけか。
「皆さんもどうなんです。お仕事って?」
「はい。することがありません!」
「ですよね」
「ええ。だから、暇です」
リコウさんが、がっくり肩を落とした。
よほど暇なんだろう。
「でもでも、ルルロア様や王子。アマル様が来てくれて、嬉しいですね。お客様が来るとお仕事が出来ますから。たまに来てくれるヨルガ様のおかげで何とか仕事がある感じになってます」
「あらま・・・そうでしたか」
それもそれで可哀想だな。
「はい!」
誰かの世話をしたいのに、誰の世話も出来ないのが、ここのメイドさんたちってことか。
これはある意味で、ディディさんが悪いか。
「あの、皆さんって、なんでお肌が綺麗なんですか」
「え?」
「いや、皆さん綺麗だなって思ったんですよ」
「そんな事ありませんって、お世辞ですよね」
「いやいや、明らかに皆さんがお綺麗で・・・」
特段褒めているわけじゃないのだが、リコウさんと、その近くにたまたまいたメイドさんたち六名が。
「またまた」「またまた」「あら」「優しいですね」「本気にしちゃいますよ」
「ん!」
オレの体をバシバシに叩いて来た。
「あだだだ。いやいや、皆さんは何かしてるのかなって聞きたくて・・・」
「あら。そうでしたか。私たちを口説くためにじゃなくて」
「え、ここでナンパですか。それはさすがに、ディディさんに失礼かと」
いつのまにかレオンみたいになってしまった。
これは気を付けないといけないな。
「私たちは、特別何かをしていません。ただ、炭でお風呂に入ってますよ。それで調子が良いのかもしれません」
「炭で?」
「はい。ディディ様がいると、炭が無限なので。消費の為にも、そちらを利用しています」
「炭が無限??? え、木が無限なんですか」
「ええ。まあ、ディディ様の山の神。あれは、木の成長を異次元にまで高めるんですよ。だいたい、二週間ほどで、植林したばかりの木が成熟した木になります」
「え? それじゃあ、たしかに。無限ですね」
「はい。スキル山の恵みです。成長促進の効果もあるみたいです」
山の神のスキル。
山の恵み。
山にあるものであれば、何にでも効果を発揮するスキル。
木であれば、木の成長に。
食材であれば、食材をよりおいしく出来て。
動物であれば、健康にと。
とにかく自然を守るためにあるスキルである。
「なるほど。それはディディさんのおかげですね」
「はい。でもディディ様って、お世話をする必要がなくて・・・」
「そうですね。暇になりますよね」
「はい。モンスターストームが発生した時くらいがお仕事のタイミングになっていますね。その時だけは、ディディ様は身の回りのことを私たちに任せてくれますから」
「ああ。なるほど。確かに、モンスターストームが発生したら、正直自分に集中できないですもんね」
「はい。寝る以外のお世話が出来ます」
この人たちが嬉しそうだわ。
よっぽどやる事がないんだよ。
「あの。ここって、観光地とかにならないんですか」
「観光地ですか? なにの?」
「例えばですよ。あちらの・・・」
オレがお屋敷から外に出て、リコウさんと共に庭に出た。
「あそこらへんを開拓しちゃって、宿にするのはどうです。そうだ。ほら、ディディさんの趣味で作った丸太小屋とか良いじゃないですか」
「宿? 丸太小屋で?」
「はい。それで、そこの周りに、花々とか、食べ物とか。菜園とかがいいのかな。あとは動物でもいいですし、色んな集客要素を散りばめて、最後に炭風呂でどうです。皆さんのお肌が綺麗になっているんで。炭を使って、商売を始めちゃえばいいんじゃないでしょうかね」
リコウさんの目が輝いている。
オレの話に頷いてくれていた。
「ほら、こっちの西側って。一つ山を越えればいいだけでしょ。王都から人を呼びこむのは難しいけど、あっちの都市からだったら、人を呼べますよ。あれです。えっとブリストンさんがツアーのガイドさんみたいな事をして、ここに来るんですよ」
「なるほど・・・」
「ここって、魔物の臭いもないんで、オレが確認済みなんですけど、西側ってモンスターの気配がほとんどないです」
これはたぶん、モンスターストームが、西から始まるから、西にはモンスターが住みにくいんだと思う。
それに反して、あっちの東側にモンスターが多いのは、避難の意味があるんだと思う。
モンスターたちがストームを恐れて、東に移動している。
だから、アマルたちの方が、結構厳しい環境にいるんだ。
「ルルロアさん!!!」
「え。あ、はい」
リコウさんが元気一杯にオレの名を呼んだ。
「ブリストンさんに相談してみます! いってきます!!!」
「はい。どうぞ」
と、この後話し合いをしたらしく、オレの所には三十分後に来た。
そこで、オレとメイドさんたちとも合流をして、色々アイディアを出し合って、最終的にはブリストンさんが計画を考えて、ディディさんに提出。
彼に許可を出してもらわないと、その事業が出来ないので、案を提出したのだ。
それで一通り目を通したディディさんは、二言で返事を返した。
「いいですね。皆さん頑張って!」
完全に関わる気がない!
人任せな感じが出ています!!
でも、オレは逆に思った事がある。
皆さんの目がやる気に満ちていたんだ。
そうだよな。
お世話できる人たちを外部から呼び込もうとする案は、どっちかというとディディさんよりも皆さんの方がやりがいがあるもんな。
これは成功するかもしれない。
オレは、そんな風に思ってこの人たちの頑張りを見ていた。




