第7話 テレミア王国の天才
「ほいじょ。ルルさん。わのとこに、来るかい?」
「え。ディディさんのお家ですか?」
「そうそう。招待しようと思ったのよ。こっちに来た理由なんだば」
妹さんの事を話し終えると、いつもの彼に戻ったみたいで、訛りも帰って来た。
「オレを?」
「うん。君と、ヨルガをね。そうだ。ヨルガ、昨日が日曜だろ?」
突然話を振られても、ヨルガさんはお茶を飲んで頷いた。
マイペースだった。
「ええ。そうですよ」
「じゃあ、予報した?」
「ええ。しました」
「それじゃあ、遊ぶの大丈夫だろ?」
「ええ。大丈夫です。次の日曜までは暇ですね」
これ、どっちかっていうとヨルガさんの方が、閑職なんでは?
っと思った事は内緒にしておこう。
「それじゃあ、いこう。わのお家にさ」
「いいですよ」
二人が意気投合しているところ悪いけど、オレはそういかない。
「すみません。オレ、王子の指南役なんで。彼を置いて、王城から離れるのは・・・できないというか。なんというか」
「ああ。そうか。じゃあ、ゲルグ王子も連れて行こう。アマル君もさ」
「は?」
「わがね。王様に話をしてくるから、ちょっと待ってけれ」
と言ってフットワークの軽いディディさんが、部屋から消えていった。
その後。
王様の許可を得たので、オレたちは西の山脈へと向かう。
山の中に、ディディさんのお家があるらしく、そこに行くために登山から始まった。
麓にて。
「わが、ヨルガを連れていくから、ルル君はゲルグ王子を。アマル君は走れるよね」
ディディさんがヨルガさんをおんぶしている間に、オレもゲルグをおんぶした。
それで、フリーになるアマルは自力となった。
「ええ。大丈夫です。拙者、お師匠様にしごかれましたから、ついていけます」
「そうか。そうか。それはよかった。ほいじゃ、いくよん」
人を一人背負っている。
そんな状態で動くとなると遅くなるのが当たり前。
さらに、山を登っていくのだから、もっと遅くなるのが当たり前。
だけど、ディディさんの足の速度は異常だった。
この急な斜面を、平地以上の速度で走っている。
「ば、馬鹿な?!」「なんと!?」
オレとアマルが同時に驚くくらいに、彼の足が速かった。
「アマル。急ぐぞ。見失うかもしれん」
「はい」
英雄職『山の神』
主なスキルの中に、登山家のスキルがある。
豪脚とか、バランス感覚などの移動スキルもあるのだが、あれは違うと思う。
何か別なスキルが発動している気がする。
なにせ、オレたちが全然追いつかない。
背中が遠いんだ。
「アマル。あの動き、別次元だな」
「はい。木々が密集しても、足場が悪くなっても、全然速度が落ちませんね」
「ああ。登るだけじゃなくて、左右に移動しても、体幹が全くブレないもんな」
人を背負っているのに、ブレない上半身も異常だ。
さすがは英雄職だ。
のんびりした人だけど、こういう動きが出来るんだと感心した。
一つ目の山の頂上で、ディディさんは目指すのは向こうの山だと西の山を指差す。
「もうちょっと行った先だば」
「え。もうちょっとって・・・・・」
オレは彼が指差した先を見る。
山の先の先の先だった。
それもゴツゴツ岩の岩山を二つ超えて、最後の山も鋭利に尖った山だ。
それを超えた先??
「すみません。ディディさん。もうちょっととは、まさかですけど」
「うん」
「あの三つ先の山を越える感じですか」
「そう。四つ目との間の谷にあるんだわ」
「まさか・・・ここって、東側よりも厚みのある山脈地帯だったのか」
「そうだべ。南北には広がってないけど、東西には厚みがあるんだわ」
地図上では分からない。
山の難しさを知る。
「ほいじょ。一時間でいくよ」
「え!? 一時間??」
「ん。行けない?」
「いや、一時間って・・・さすがに、それは山の神ですね」
「そうだべか。これって普通かなって思ったんだけどね。だって、家から三十分あれば、王都までいけるからね」
「はい?」
ちょっと何を言っているんだろうか。
この人化け物だぞ。
山を四つ越えて、三十分で王都?
どんな速度で走ってるんだ?
「まあ、ここで喋りはっても、目的地には進んでないから、いくよん」
「は、はい」
彼が走り出した。
「あの。ディディさん。今、何のスキルを発動しているんですか」
「わ?」
「はい」
「なんも」
「え・・・・え?」
「なんも発動しとらんよ」
「マジすか」
今度は、自分の方の走るピッチを上げて並走してみた。
すると会話してくれるのは、ヨルガさんだった。
「ルルさん。スキルは発動していますよ」
「え。やっぱり」
ディディさんが嘘をついていたのか。でもなんでそんな嘘を・・・。
「ただ、パッシブです」
「パッシブ!?」
「ええ。山の神のパッシブスキル『八百万』ですね」
「八百万ですか・・・それって何のスキルで?」
初耳のスキルだった。
「はい。海の神。山の神。神系統の英雄職には、パッシブで発動する能力があります。常時発動するので、体に負担のない範囲で強化が施されるんです」
「強化。身体をですか?」
「ええ。山の神の場合は、持久力と脚力ですね。海の神の場合は、持久力と肺活量ですよ」
「なるほど。それで、ディディさんの足が異常に強いのか」
彼を見ると、ここまでかなり走ったのに息があがっていない。
まるで今から走るかのような感じで、平気な顔で山を下っているんだ。
「そうなんだば。わ、知らんかった」
「だと思いましたよ。ディは、天才肌ですからね」
「へえ・・・え??? わ、天才なの?」
「ええ。天才ですよ。この国で唯一無二の天才だ」
だろうな。
自分のスキル発動の自覚がないのに、スキルを完璧に使いこなしているんだ。
これは凡人じゃ無理だ。
それに、発動意識なくして、発動させている人なんて、見た事がない。
あのイージスでも、意識して発動させているんだぞ。
「ヨルガさん。この国で、他に英雄職がいるんですか」
「今は、二人ですね。ディとアマル君です」
「あ、そうか。アマルもか」
オレがアマルを見ると、必死に食らいついて走っていた。
これが普通だと思う。
オレは冒険者として鍛え上げているから、ディディさんについていけるけど、アマルはまだ成長途中の子だからな。
短期決戦だと、ベテラン冒険者にも負けないだろうけど、持久走になるとその差が出てしまう。
「アマル。大丈夫か」
声を掛けると。
「ま、まだいけます」
「わかった」
厳しそうだが、無理だと言わないので、続行だ。
アマルは自分に厳しくなったから、限界ギリギリまで訓練することを苦と思わなくなった。
それで本当の限界が訪れた時にオレに報告するようになったから、まだ大丈夫だろう。
「ルル殿」
「ん? どうしたゲルグ」
「私も走った方が・・・」
「いや、ゲルグは辞めよう。この速度はきつすぎる」
「そ。そうですか」
自分も修行した方が良いのではないか。
そんな言葉の続きがありそうだ。
だから、指摘してやる。
「そんなに不安に思うな。お前はどっちかというと、司令官に近い立場になるんだ。この持久走はさ。このレベルでこなさなくてもいい。それに、これは化け物の領域だ」
この速度で走って移動するなんて、化け物レベルだ。
ってよく考えたらその速度に、食らいついているオレもヤバいのか。
自分で言ってて、矛盾してるわ。
オレって化け物なのか?
「わかりました。我慢します」
「それが我慢になるのか。真面目だな。お前は。やっぱりいい王様になるぞ」
「いえ。真面目では・・・」
頑張りたがりの男の子。
ゲルグは次期国王。
オレはこの子が王に向いていると思う。
ジョブが重戦士だろうが、この子の心持ちは素敵だ。
立派な王様になるはずさ。
◇
ウォーキー家の邸宅は、二つあった。
一つはお屋敷。もう一つは丸太小屋だ。
そして、ディディさんが入っていったのは丸太小屋だ。
使用人さんたちは、お屋敷の方にいるのにだ。
オレの目には、彼らの顔が曇っているように見える。
『こっちに来ないのかな。こっちに来てほしいなぁ』
っていう顔に見えるんだけども、皆さんが寂しそうですよ。
ディディさん!
「これね。わが作ったんだ。どう。秘密基地!」
「え? ディディさんが?」
丸太小屋に入ってオレは、ゲルグを降ろした。
「ありがとうございました」と丁寧に挨拶するゲルグは、クソ真面目だよ。
もう本当にこの子は、良い子過ぎるんだ。
アマルの最初の頃とは比較できないくらいだわ。
「相変わらずですね。ディ。こんなものまで作ったんですね」
「うん。わ。仕事がさ。暇だからさ」
「仕事が暇って、ディディさんは何をしているんですか」
オレが疑問をぶつけた。
「わの仕事ね。連絡係なんだわ」
「連絡係?」
「うん。モンスターストームの発生時。移動する場所を予測する仕事なんだわ。発生して、予測して、王都に伝達する仕事だわ」
話を聞いた瞬間、目をぱちくりして、オレは黙ってしまった。
「・・・・・」
ディディさんのお仕事は、とんでもなく重要な仕事だった。
これのどこが閑職なんだよ。
あれか。
数年に一度しか仕事をしないからか。
極稀にしか働かないからか。
そんな事言ったってね。
重要だよね。未曽有の大災害の一つだぞ。
一応必ず起きるものなんだから、この人がいるといないとでは、国の被害把握とかで大きく違いが出ないか。
テレミア王国さんよ、絶対重要な人だよね。
王!
そうだよね。別に閑職って、王が言っているわけじゃないよな。
この人が勝手に閑職って思ってるだけだよな。
あの王って優秀だしさ。そこんところはしっかりしてるよな・・・。
ディディさんのお家に訪問したオレは、テレミア王国の天才を理解できずにいた。




