第8話 レミさん?
休息日二日目。
昨日。
「親子でゆったりとした時間を過ごしてください」とブランさんに告げておいた。
アマルの休息は心がメインで、親父さんの愛を受けてもらう事が重要だとして帰って来た。
オレの事であるが、オレは、あの意味不明な親父から愛を受けたと思っている。
正直、話の半分以上は意味不明。でも、親父が愛してくれているのは明確に分かる。
それだけはね。
わかるんだ。なんとなくだけどね。
それにアマルは母親がいないから、父親からの愛情をたくさん受けて育ってほしい。
ちなみに爺さんにも愛情を貰おうと思ったが、爺さんは王都での仕事があるらしく、今はいないので全てをブランさんに託した。
ということで、オレは、ルナさんと一緒に休憩に入った。
里長である爺さんの大屋敷に居候する形になったオレは、二人で台所に立った。
「ルル、必要な用具はこれですか?」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ、少し待っててください!」
「はぁ??? 拙者は作らなくてもよいので?」
「ええ。オレが作りますよ。とっておきのものを出しますからね」
「そうですか。では、待っていましょう!」
と言ってルナさんは、台所の隣の部屋のちゃぶ台の前に正座して座った。
スキル料理を発動させ、高速でパンケーキの準備をする。
マジックボックスから具材を取り出して、手際よく小麦と卵と牛乳を出していく。
もちろん、これらは、二か月前に買ったからって腐ってませんよ。
マジックボックスは、何故か物が腐らないのです。
これは証明済みなんです!!
だから便利道具なんですよ。
ルナさん、お腹の心配はしないでくださいよ。
次にオレはふわふわに焼くために火の加減に神経を使い。丁寧に焼く。
良い香りと気泡がぷつぷつと湧いてきたら、ひっくり返すチャンス!
オレはパタンとパンケーキをひっくり返した。
それで次々と焼き上げていって、皿にふわふわのパンケーキ三枚を重ねて盛って、その上に特製のクリームを置いた。
モリモリと山のようにクリームを入れて、周りにフルーツをちょちょっと盛り付ける。
これにて、ギンドールさんのお店の特製パンケーキの完成である。
「よし、できた」
オレは、特製パンケーキを隣の部屋に持っていった。
◇
「どうです! ルナさん! これがルナさんの食べたかったものでしょ!」
「ぬ・・・・なんですこれ?」
「え、パンケーキですけど」
「え!? どこに?」
「いや、ここにあるんですけど・・・」
ちゃぶ台に乗っけたパンケーキ。
何故かルナさんにはそれに見えないらしい。
「・・・これはケーキじゃないのですか?」
「え?」
「生クリームですよね。これ、あとイチゴとか」
「いえいえ。ケーキじゃないですよ。これが最新のパンケーキらしいですよ。マーハバルで修業しましたからね」
「え・・・修行? 拙者の為にですか?」
「ええ。ルナさん食べたいってずっと泣いていたから!」
「泣いてませんよ!」
ルナさんは堂々と嘘を言った。
「ルナさん。毎回、おにぎりは嫌でしょ!」
「・・・そうですね」
「生ハムも食べさせてもらえてないですよね?」
「ええ。そうですね」
「だから、せめて、オレがパンケーキを食べさせてあげたいなと思いましてね。料理スキル持っているので、是非食べさせてあげたいなと」
「・・・おお。それは優しいですね。ルルは。グンナーさんと一緒ですね。どれどれ」
ルナさんが一口食べたら、フォークが口の中で止まって出てこない。
「うううううう。ううううううう」
フォークを口の中から取り出さずに呻いている。
苦しいのか。やばいのか!?
「う?」
「うわあああああああああああああああああんんんん」
大音量で泣き始めた。
「え、不味いの? なにこれ? どういう状況?」
オレは戸惑った。
「おいじいでず・・・・どでも美味しいでず・・・・ズビっ」
ルナさんは美味しすぎて鼻水を出したみたい。
「まあまあ。そんなに泣かないでも・・・ほらハンカチですよ」
「ありがとう・・・ルル。助かります」
本当にこの人は、世話の焼ける姉のような人だ。
でも喜んでくれたようでオレは嬉しかった。
「美味しいですね。これも。美味しいです。あの時のも美味しかったですが、同じくらいこれも・・・」
「あの時?」
「ええ。一度グンナーさんが奢ってくれた時に食べたパンケーキです。あの時は生クリームはありませんでしたが、それでも美味しかったですね。あれは、一緒にいた人の優しさが詰まっていたんですね。これもそうです。ルルの優しさが詰まってるのです。だから特別においしいんです。ありがとう。ルル」
「あ、はい。こんなに喜んでもらえて、嬉しいですよ」
「ええ。大事に食べます!!!」
と言って、ルナさんは三分で、三段のパンケーキをペロリと平らげた。
大事に食べるという言葉は・・・いったい、どこへいったの?
目をパチクリさせたオレは、満足そうに全てを食べきったルナさんに驚くばかりであった。
◇
お屋敷の中庭。
オレは縁側に座って庭を眺めていた。
これが庭園・・・。
王族でも何でもないオレにとって、砂利が敷き詰められているのに、整った形をしている庭なんて初めて見た。
盆栽とかいうものや、こんもりした木とか、実家では見たことが無いものがここにある。
でもわかる。
綺麗なんだ。
風情があると言った方がいいかもしれない。
とにかく心を落ち着かせるには、とてもいい場所である。
アマルの体と心を回復させるにはちょうどいいだろう。
「は~。こういう場所で育ったから、ルナさんは所作が綺麗なのかな」
オレはそんな独り言を言った。
直後、上から叫び声が聞こえた。
「なんでじゃ!? あの・・・・野郎・・・ムカつくのじゃ!!!」
は?
と思ったオレは上を見た。
誰もいない。
なのに声は続く。
「たすけてくれ~~~なのじゃ~~~~。だれか~~~~。って余の声が、人間に聞こえるわけないのじゃ。デカい独り言になってるのじゃ~~~~~」
え、聞こえてるんだけど。
え、オレって人間じゃないの?
っと思ったことは内緒にしておこう。
「ほえ~~~~~ん。ぐえ!」
庭園の木に何かが突き刺さった。
「は? なんだ?」
◇
恐る恐る声の方に近づく。
位置を確認して、木を凝視してみると、枝に翼を絡めた薄紫の小鳥がいた。
逆立ちしたようになって、ぶら下がっている。
「ふえええええんんん。人間がいるのじゃ~~~。余を助けてくれなのじゃ~~~。ああ、でも、余の声、届かないのじゃ~~~~」
可愛らしい目に涙が溜まっていた。
かわいそうなので助けることにした。
「鳥だ。綺麗な小鳥だ・・・・つうか、何で話せるの?」
「それは余が、神鳥でじゃな・・・とっても立派な聖なる存在でじゃな・・・・え!? なんで、人間に声が聞こえてるのじゃ!」
「いや、あんた。さっきから独り言言ってたよね」
「うわ・・・恥ずかしいのじゃ。忘れてくれなのじゃ」
「ああ、いいよ。で、助けた方がいいの? あんた、逆さづりの状態だけど」
「おお。そうじゃそうじゃ。助けてくれなのじゃ~~~~」
「いいよ。ほら」
謎の小鳥を木から救ってやった。
あれだけの猛烈な勢いの落下で、不思議と怪我はなさそうなので、安心した。
「よかったな。あんた。怪我がなさそうじゃん」
「うむ。余を傷つける奴はそうそういないのじゃ。あいつくらいじゃな。イヴァンたちくらいじゃな」
「誰だよ。そいつ」
「知らんのじゃ? ってなんで、そちは余の言葉が分かるのじゃ!!!」
「いや、あんたが話してるし・・・」
「いや。そうだけど・・・人間なのに、何故余の声が・・・」
小鳥との会話が止まった。
小鳥は頭痛いみたいに、翼を上手に折りたたんで自分の頭を触っていた。
「ルル! 何を独り言を言ってるのですか。どうしました」
縁側にやってきたルナさんが、オレに声を掛けてくれた。
右手にしゃもじを持っている。
「え。ルナさん! こいつの声。聞こえないんですか?」
「こいつ? どいつ?」
「これです、これです」
オレは肩に乗った小鳥を見せた。
「ああ、小鳥さんですね・・・え? 話すわけないじゃないですか」
「ええ。どういうこと?」
「ほら。余の声。普通の人間には聞こえないのじゃ。なぜそちには声が聞こえるのじゃ」
「知らんよ。え。どういうこと」
「なにしてるんですか。ルル。そろそろ晩ご飯ですよ。食べましょう」
「あ、はい。ま、いっか」
とオレは納得して、ルナさんの後を追いかけるために、小鳥を地面にそっと置いて手放した。
鳥付きで、晩飯は駄目だろう。
「ほれ、飛び立っていけよ。無事でいろよな。元気でな!」
「うむ・・・って、何で手放そうとするのじゃ!!!」
「ぶべ!」
小鳥のキックを右の頬に食らった。
小鳥なのに体の芯に食らうような威力である。
「強ええ。何この小鳥」
「小鳥じゃない! レミ、あ・・・・真名は駄目じゃな。レミさんじゃ!」
「レミさん? 誰だよそいつ」
「余の事じゃ!」
「は? 名前が勝手についている小鳥って事?」
「うむ。そうじゃ」
「マジかよ。超レアじゃん。ってことで、そんなレアな子は危険なので、ほら、外に飛び立ちなさい」
「なんでそうなるのじゃ!」
「ぶげ」
またオレは小鳥のキックを、左の頬にもろに食らった。
両方が赤く腫れそう。
「何すんだよ。レミさん!」
「レミさんは、今大変なのじゃ。協力してくれじゃ、人間!」
「何を」
「力を取り戻したいのじゃ」
「は? どうやって?」
話を聞こうとしたら、奥の間から。
「ルル~。どうしました。もうみんなでご飯を食べますよ」
ルナさんからお呼びがかかった。
「は~い。ルナさんもう少し待っててください」
「わかりましたよ。早めに来てくださいね。ご飯冷めちゃいますよ」
ということで。
「そんじゃ、頑張ってレミさん!」
「なんでそうなるのじゃ! 激レア体験真っ最中じゃろが」
「そうだよ! オレだってな。この激レア体験のせいでめっちゃ頭混乱してるわ!!! あんた、オレの親父みたいに意味不明なんだよ」
「だから、もう少し、レミさんと会話せいということじゃ!!!」
「何回会話してもこの状況意味分からんわ。な~~んで鳥が言葉話してんのよ。オレ、頭おかしくなったか!!!」
「おかしくないのじゃ。余が話しかけているのじゃ」
「ああ、あんたという心の中のオレが話しかけてきてるんだな。やばいな……オレは相当疲れていたのかもしれないな。早めに風呂入って休もう」
「そうかもなのじゃな・・・って、ちゃんと余が、余の意思で話しかけているのじゃあああああ」
「ぶげ!」
また小鳥に蹴られたオレであった。




