第7話 大丈夫まだ間に合う
ミノタウロスと戦ってから三週間が経過した頃。
アマルの訓練を変化させて、対人模擬戦闘にして、経験を積ませていた。
オレが無手で、アマルが刀である。
「よし。だいぶいいな。良くなってきたぞ」
「・・・ほんとうか!」
「ああ、あとは勇気だけだな。あと一歩、踏み込む勇気だな」
「・・・そ、そうか・・・」
アマルは少しずつオレの言う事を聞くようになった。
オレが魅せた。
ミノタウロス戦が、良い影響を与えたらしい。
自分の将来があれほどの強さになるのかと、期待感がある感じに見えた。
実際は、オレよりももっと強くなるはずだから、強さの像はオレよりも、自分の将来をもっと期待してもいいと思う。
「そんじゃ、ゴブリンジェネラルとの再戦をしよう。今のお前ならきっと倒せる。自分を信じろ」
「え・・わかった。拙者、やってみる」
アマルが前向きになったので、前回と同じようにゴブリンジェネラルを呼び出した。
なんか単純にご近所さんに会いに行くみたいにゴブリンを呼び出してるけど。
普通に考えて、変だよね。
モンスターに。
『ごめんなさい、お休みの所悪いんですけど、ちょっと玄関先まで出てきてくれませんか~~」
って言ってるみたいだよな。
しかも倒される前提で連れ出されるって・・・・・オレ、酷くね。
修行の生贄になるゴブリンジェネラルさんは、オレの手引きでアマルの前に立った。
◇
「よしアマル! 戦ってみろ。たぶん倒せるぞ。お前はもう二級くらいの実力はある!」
「本当か! やってみる」
「おう。自分を信じろ」
アマルは前とは少し違い、姿勢を前傾に保っていた。
本当は桜花流ならば、自然体で直立になるべきだが、今はまあいい。
前回はのけ反ってビビっていたから、今はそのビビりが消えただけでも良しとしよう。
「うわああああああああああああああ」
声は情けなかった。
まあしょうがない。それは慣れである。
今回のゴブリンジェネラルは、斧ではなくダガーを持っていた。
持ち替えたのか?
それとも別の武器を元々持っていた?
オレはどうでもいい疑問を持って、アマルの戦いを見守った。
◇
アマルの剣筋は本当によくなった。
縦にも横にもブレが無くなり、綺麗な線を描けるようになっている。
ただ、速度がない。
ゴブリンジェネラルが彼の攻撃をしっかり防いでいる。
短い射程の刃しかないダガーで、刀の受け止めがきちんとなされていた。
「う~ん。そうだな。威力はいいぞ。しかしな、決め手に欠けるな」
「・・・くっ。防御が固い」
「アマル。やはり懐に入れ。相手の射程外から戦うのもアリだが、中に入ってあえて敵との距離を縮めて戦え。相手の土俵に立ちながら相手を圧倒するんだよ。出来るぞ。やってみ」
「・・・う。うむ」
顔色が良くない。
やってみたいがやれない。
そんな顔をしていて、実際に体が前へと行かない。
中間距離を保ちながら、敵のダガーを警戒し続けていた。
なぜこんなにもこいつはビビりなんだ。
オレは悩みながら、戦いを見守った。
◇
アマル対ゴブリンジェネラルの数分間の戦闘。
なのだが、アマルにとっては、もっと長く感じているみたいだ。
息が荒くなり、肩が激しく動いている。
刀を握る手の握力も無くなり始めていた。
そんな疲労をするような戦いをまだしていないのに。
「う~ん。よし。アマル。決めろ! 一撃に力を込めるんだ。思いっきり振って、渾身の攻撃をしろ。それでオレが見極める」
「ん?」
「いってこい! ドンと一撃だ。怪我してもオレがいるから治療は出来る」
「・・・うむ」
アマルは頷き。
意を決した表情をして、刀を引いた。
左に引いて、走り出す。
「あああああああああああ。お、桜花流 一分咲き」
右に体を捻りながら一直線。
全身全霊の一撃を繰り出し、ゴブリンジェネラルに一撃当てた。
だが、アマルは、そのままバランスを崩していく。
文字通りに全ての力を使ったらしい。
体を正常なバランスに保てなかった。
全身を投げうって出した攻撃は、さっきよりも数段上の速度であった。
だから、ゴブリンジェネラルはその変化した速度に対応できずに、肩にアマルの一撃をもらった。
「ごおお。ご!」
肩を大きく損傷させたが、敵を倒すまではいかない。
敵が肩を押さえてアマルを睨んだので、ここでオレが助け舟を出した。
こいつの態勢が、アマルよりもいいからだ。
「ちょいと悪いな。次の再戦まで待ってくれ。後でオレがノックするから、今は巣穴に帰りな!」
バランスを崩して倒れそうになるアマルを担ぎ、ゴブリンジェネラルを洞窟の方まで蹴っ飛ばす。
「ばいばい! また会おう!」
勝手に呼び出しておいて、勝手に帰宅させたのだった。
オレって酷いな。
と自分でも思った。
◇
「アマル。なかなかよかったぞ。最後」
「・・そ、そうか・・・しかし、倒せないのであれば。二級冒険者の実力もない」
「んんん。どうだろうな。実際はその位の実力はあると思うぞ」
「・・・本当か!」
「ああ、しかしお前は心に何かあるな。心技体で言えば、体が準一級。技が二級。心が四級。こんな感じだ。だから心さえ上がれば、お前はきっと準一まで残り半年でいける!」
「・・・む・・・こ、こころ・・・むずかしい・・・」
「そうか。なら、もっと頑張れると誓えるか? 少し修行を変えたい」
「・・・わかった。ついていこう!」
「よし。里に帰る!」
「え? 修行は?」
「無論、続ける! ただし、この間は心の修行だ」
「わかった」
「そんで、体を休めるぞ。帰ったら三日、休め」
「・・え」
「この間、刀を握るな」
「・・・わ、わかった」
納得いってなさそうなアマルだったが、とりあえずの休息が重要である。
外に居続けるという緊張感にさらされ続けた体を癒すこととした。
◇
「よし、長の所にいく。ブランさんとルナさんも呼ぼう」
「・・・うむ」
里に帰ってすぐにお屋敷に戻った。
玄関に入るとすぐのところに、着物姿のブランさんがいた。
「おお。ルルロア殿!」
「ブランさん。帰ってきましたよ。アマルを見てやってください。どうですか?」
「ち、父上」
「・・・・ぬ・・・」
家に来て緊張したのか。
遠慮したアマルは、オレの後ろに隠れた。
だから、オレはすかさず前に押し出して、ブランさんに突き出した。
彼は、全ての行動を止めたまま、息子を見ている。
「父上?」
「…そうか。それほど強くなったのか」
「父上!! 拙者、生きて帰ってこれました・・・何度も死ぬかと・・・おおおんんん」
アマルは、走馬灯のように今までの修行が頭の中でフラッシュバックしたのだろう。
表情に滲み出る今までの辛さが見える。
父親に抱き着いてから号泣した。
「そうかそうか。よくやったぞ」
褒めて、もっと褒めてやって。
とオレは口パクでブランさんに伝え、ブランさんはその意図を読んでくれて、彼の頭を撫でてねぎらった。
「ルル! アマル!」
奥からルナさんが出てきた。
「叔母上!」
アマルは、ルナさんにも抱き着こうと走る。
「拙者、おばさんじゃありません!!!」
「ぐわあ」
ルナさんの右手が唸りをあげる。
アッパーカットがアマルの顎を打ち抜いた。
「お、おばさんじゃなくて、お、叔母上・・・って言ってるのに・・・・拙者・・・・あ」
『バタン』
「おいおい・・・はぁ」
見事に玄関先でノックダウンしたアマルを見て、オレはため息をついた。
◇
アマルを自室に寝かせ、今までの疲れを取ってもらう間にオレは大切な話を二人にした。
まあ、実際は、アマルはルナさんによって寝かされたのだが・・・
これは内緒にしておこう。
「ブランさん。ルナさん。あいつの才能。なんですか?」
「・・・・ん?」
何故か、ブランさんが戸惑った。
言いたくないのかもしれない。
「どうしました?」
「…そうですね。ルルにはお話しした方がいいでしょう。兄上」
「そうだな。息子を育ててもらっているのだ。話そう・・・」
アマルの才能。
それは、『懐疑心』という才能である。
疑うものを決めてしまうと不安になる性質があるらしい。
それは心次第で乗り越えることが出来るらしいが。
「アマルは、幼い頃に母をなくしてな。だから、この才能の懐疑心が強く表に出ている。成長の邪魔になっているだろう」
「なるほどな。ビビりも不安からくるものか・・・それにしても珍しい。剣聖であれば、剣聖になれる才能になるはずなのに・・・レオンたちみたいにさ・・・」
オレは非常に珍しいタイプの英雄に出会った。
・・・というか、またオレは英雄に出会った。
オレの人生。
どこかで必ず英雄と出会う人生なんでしょうか。
普通の人ってこんなに出会うものなんでしょうか?
オレってただの無職だよ!!!
なんで天と地ほど違う人と出会う事になるのよ!!!
神様、そこんところどうなってるの。
「そうです。それで拙者が呼ばれたのです。母がいないアマルの代わりに拙者が・・・。あの子の人生の最後の二年かもしれないから、拙者が母親の役割を・・・」
二人ともアマルを心配し、暗い顔になっていた。
「そうですか……。でも、大丈夫ですよ。お二人とも暗い顔をしない!」
「「ん?」」
「あの子にね。二人が愛情を注いでくだされば、きっと大丈夫です。オレは、あの子を立派な剣聖にしてみせますからね。心配しないでください」
「ルル・・・」「・・・ルル殿・・・かたじけない」
オレがこう言った後、二人は頭を下げてくれた。
別にそんなことしなくていいのに、彼らは感謝をしたかったらしい。




