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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
侍の里 剣聖の師は無職

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第2話 侍の里

 ジョー大陸にある王都サーカンドは、北の方角以外の三方を山で囲われている大都市。

 遠くに見える山々は、連なる山脈となり聳え立っている。

 この地域は、よく雲が出て、雨が降るらしい。

 しかし本日は良い感じの晴れ。

 雲一つない空で、絶好の捜索日和だ。


 「えっと。聞き込みすればいいのか?・・・あれ???」


 王都にあるお城が見える都市中央。

 こじんまりとした可愛い感じのお城が見えながら、オレの目には立て札も見えた。


 『サクラノはこっち。いいな、こっちだ。間違えるな』

 「は?」


 待て待て。

 なんで立札で案内があるんだ。

 ルナさんの故郷ってさ。

 秘境って話だったよね。

 卑怯とかじゃないよね。

 秘密という意味での秘境だよね。 

 これ、秘密じゃないじゃん!!!

 誰にでも場所を開示してるの?

 それって秘境じゃないよね。



 オレの頭の中は、これの繰り返しになっている。

 秘境と秘密がせめぎ合って、パンクしていた。

 

 頭が痛い中で、立て札を確認すると、矢印は東を指している。

 ならばと、案内してくれる方向に進むと、しばらくして。



 『サクラノはこっちだ! いいな。こっちだぞ』


 なんで? 

 これ一定間隔であるの?

 それにさ、なんか強めの口調だよね。

 なんか間違えるんじゃねえぞッという意図が見えるわ。



 とりあえずオレは、書かれている方向に進んでいった。

 またしばらくすると立札があって、その先もずっと立て札がある。

 

 道案内の言う通りにどんどん進んでいき、都市を抜けてたとして、立て札は存在していた。

 しかも、山脈に入ってからもだった。


 それで、オレは、ここでルナさんを思い出したのである。



 ――――


 軍の訓練施設の屋上で、一人で自主練していた時。

 自分のスキルの動きをチェックし終えた後。

 ひとまず休憩を取ろうと、屋上入り口に戻った時に偶然ルナさんが屋上の扉を開けた。

 彼女は施設全体が見える位置にまで歩き、凛々しい顔で訓練場を見渡した。

 

 「ルナさん。どうしたんです? こんなところに何の用ですか?」

 「ん! あれ、ルルですか。拙者、お風呂に行きたいのです。しかし、お風呂場はどこへと消えてしまったのやら・・・はて・・・何処に・・」


 彼女は屋上から、お風呂を探した。

 オレは言葉を出せなかった。


 「・・・・・・・」


 凛とした立ち姿。

 それに振り向く時も綺麗な所作であったのに。

 言っていることはポンコツそのもの。

 屋上にお風呂なんてあるわけがない!

 軍の施設に露天風呂があるとでも思ってるのか!!!

 

 「ルナさん。また迷ったんですか。この間も迷ってましたよね?」

 「ん。拙者は迷っていないです。た、たまたまこちらに来ただけであります。たまたまなんですよ。あとちょっと歩けば、お風呂場に行けたのです」

 「その先、道ないですよ」


 ルナさんがそこから歩いたら、屋上から落ちます。


 「そうですね」


 この人・・・だめだこりゃ。


 「はぁ。ほら、ルナさん。お風呂に行きたいんですよね。オレがそこまで連れて行ってあげますよ」

 

 右手に持った桶の中にタオルとかその他諸々のお風呂セットを持っている彼女の反対の手を握る。

 オレが、手を引いて連れて行ってあげないとまた迷うのだ。


 「ルナさんは、目を離せばすぐにどこかに行っちゃいますからね。手を繋いでいきましょうね」

 「ん!!! そんなことはない。ルル、拙者は子供ではない。馬鹿にしないでください」

 「それじゃあ、ここから一人でお風呂に行けますか?」

 「・・・・・行けません」

 「それなら言う事を聞いてくださいよ」

 「・・・・はぁい」


 とポンコツなのに、戦うと超絶優秀なのが、ルナさんという侍である。


 ――――

 

 「もしや……これは、ルナさんが里に帰れるようにしてあげる為に、この立札があるのか? それとも、その里であっても道に迷うから。もしこっちまで来ても、お家に帰れるようにか?」


 オレはサーカンド山脈の奥でそう思った。

 あと、看板が建てられている間隔が徐々に短くなっているように思う。

 山の木々の多さによって方向感覚を失いそうになるからかもしれない。 

 彼女だったら絶対に迷うぞ!

 

 

 何個か立札を通過すると獣道のような細い道に出た。

 この場所の怪しさにオレの警戒度が上がる。

 木々の多さが日光を遮り、辺りは夜のような暗さになる。 

 

 「・・・ん!?」

 「立ち去れ!」


 オレの前に侍が現れた。

 袴に下駄。それに凛とした立ち姿で、構えに無駄がない。

 この人が、ルナさんと同じだと思った。


 「あ、あんたは、サクラノの侍か! オレは用があって来たんだ」

 「関係ない。よそ者は帰れ」

 「ある人に用があって、その人を迎えに来たんだ」

 「拙者らがよそ者に迎えられる? そんなことはありえん」

 「ルナさんだ。あんた知ってるか? ルナさんに会いに来たんだ」

 「・・・ルナだと・・・・斬る!」


 侍は鬼のような形相になり、刀を抜いて襲い掛かって来た。


 「なんでだ!? オレは戦う意思はないって」

 「関係なし、切り捨て御免!」

 「くそ!」


 オレは脇差を抜き、謎の侍に対抗した。

 ぶつかり合う武器が共鳴する。


 「結構、強えな。準一級くらいか」

 「ほう、初太刀を受け止めた・・・ん!? 貴様、この脇差は、花嵐……なぜ貴様が持っている」

 「こ、これか。これはオレがルナさんから貰ったんだ」


 鍔迫り合いをしている最中なのに侍は話しかけてきた。


 「…盗んだな。ルナがその脇差を誰かにやるわけがない。取り返す。貴様を殺す」

 「いや、話聞けよ。ルナさんから貰ったんだって」

 「ありえん! それは大事なものだ。桜花流 一分咲き」

 

 本気の太刀筋。

 この男はオレを殺す気でいるようだ。

 

 「チッ。オレもやるしかないのか。桜花流 満開」


 オレは侍の一分咲きに対して満開で対抗。


 桜花流の一分咲きは、横一文字の攻撃。

 満開は縦一閃の一刀両断の攻撃だ。


 オレと侍の攻撃が十字を描く。

 押し合いはオレが若干上だ。


 「貴様・・・なぜ・・よそ者の癖に桜花流を・・・」

 「だから、オレはこれをルナさんからもらったし、この技もルナさんから教えてもらって。なに!?」

 

 背後に人の気配を感じた。それも複数だ。


 「ついてきてもらおうか。そこの青年」


 明らかに段違いの実力者が、オレの背後にいる。

 その男の方を振り向いたら、周りの木々から、続々と侍が出てきた。

 形勢は完全に悪い。

 大人しく、この強者の言う事を聞くことにした。

 両手をあげて愚痴を言う。


 「はぁ。師匠。楽観的過ぎたんですよ。まったく、この人たち、人の話を聞いてくれないですよ・・・」


 なぜか、第一に脇差を取り上げられた。

 この人たちにとって、どうやらあの武器は重要らしい。

 

 ルナさん。

 なんでそんな大切なものをオレに?

 もしかして、里でも重要な武器なんじゃ。

 家宝とかじゃなくて、里の由緒ある武器とかか?


 そんな疑問を持ちながら、オレは後ろ手に縄で縛られて、この人たちに連行されていった。



 ◇


 侍の里 サクラノ。

 そこは山脈の奥地の谷底にあった。

 秘境と呼ぶにふさわしい場所である。

 

 山の斜面に見張り台。

 山の底には、瓦屋根の家がずらりっと並ぶ。

 里と聞かされていたからもっと小さな規模だと思っていたが、ここは町くらいに大きな里だった。

 着物のお店や、工房。お食事処や甘味処など。

 衣食住の衣食が豊かなのも、里や村の小規模感じゃないのを助長している。


 「それで、オレはどういう扱いなんですかね」

 「・・・・」

 「勝手に来たから、罪人なんすか」

 「・・・・」

 「でも、王都に看板あったすよ」

 「・・・・」

 「来ちゃいますよね。看板あったら」

 「黙って歩け。よそ者」


 オレと最初に戦った侍が答えてくれた。

 でもムスッとしている。不満たらたらだ。


 「よそ者ってね。だってね。ここに来るまでの間に、看板があるんでね。よそ者来ますよね。よそ者」


 よそ者攻撃をして見たが、返事が来ない。


 「・・・・」

 「そんなによそ者に来てほしくなかったら、何のために看板あるんですか?」

 「・・・・うるさい・・・口の減らない男だ」


 オレって、師匠の弟子だからね。

 口が減ったら師匠の弟子じゃないし。


 

 そして、オレは、里の奥にやってきた。

 やたらと長い階段を登り、奥の奥には大きな屋敷があった。

 ここで、オレの運命はどうなるのだろうか。

 自分の身柄の不安と、ルナさんに会えたりするのかなという期待。

 両方を持って、オレは建物に入った。

 

 

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