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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第34話 大切な教え子

 「ぐお! ぶ、無事か! みんな!!!」


 気絶していたオレは、目覚めたと同時に叫んだ。

 起きたばかりで見た天井は見慣れた景色。

 ここは、師匠の部屋だ。


 「・・・がっ・・・痛てえ。ヤバいな」


 全身の痛みを我慢して起き上がる。

 すると、オレのそばには、師匠じゃなくて三人がいた。

 フレデリカ、ジャック、クルス。

 この三人が、仲良く並んでうたた寝していた。

 この光景は、お昼寝している可愛らしい子供のようだった。


 「はっ。オレを心配してたのかよ。こいつら」


 可愛い寝顔をオレに見せてくれて、体は回復してないけど、心が少し元気になった。


 「お! 起きたか。ルル」


 部屋の入り口付近のソファーから声が聞こえた。


 「師匠。すみません。師匠のベッド、オレが占領しましたね」

 「気にすんな。お前はさ。昔はこっちに寝てたろ。立場、交換だぜ!」


 ソファーに寝ていた師匠は、オレが恐縮しないように冗談を言った。

 相変わらずのぶっきらぼうな優しさである。


 「にしてもお前、一週間もぶっ続けで寝てたぞ。大賢者の時よりも寝たな……お前、何をしたんだ? 俺らが下に降りた時。先生がクルスを回復させたんだってガキどもが騒いでいてよ。マジで何をしたんだ? 意味が分からん。奇跡が起こってたし」


 師匠がオレの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。


 「え。い、一週間も!?」

 「ああ。まったく起きなかったわ。あんな弱ってたのにお前ってよく生きてんな。丈夫に生まれてよかったな。ご両親に感謝しないとな」

 「ええ。そうですね・・・オレって親父の頑丈さを受け継ぎましたかね」

 「お前の親父さん。ずいぶん頑強な人だな」

 「ええ。いつか紹介したいくらいですよ。化け物なんで」

 「そうか。会ってみたいな。お前を真っ直ぐ育てたんだ。その人も真っ直ぐなんだろうぜ」

 「ええ。真っ直ぐというか・・・何があっても曲がらないというか。とにかく強引な人ですよ。オレの親父って。変人です」


 親父で思い出すとなると、すぐに思いつくことは、風邪一つ引かない丈夫な体である事だ。

 なにかで寝込んだところを見たことがない。

 オレのドアを蹴破るくらいにいつも元気満々だ。

 

 正直、あれはやめてほしい。

 オレの部屋のドア。

 あれで立て付けが悪くなった気がするんだよ。

 なんか、まともに閉まらなくなったと思う。

 

 「・・・で? 今回は何したんだ?」

 「まあ。聖女の力をですね。ちょっと使っちゃいましてね」


 笑って答えると、呆れられた。


 「はぁ!? 聖女だと!?」

 「はい。普段なら使えなかったでしょうけど、この子らの事を思っていたらですね。スキルが発動できましてね。ついでに魔法も最高クラスのものを使用したので死にかけましたよ」

 「わ。笑い事じゃねえ。心臓に悪い弟子を持ったものだ。疲れるぜぇ。やめてくれよ~。俺より先に死ぬんじゃねえぞ。ったく」


 そう言って師匠はソファーに深く腰掛けて、天井を見て、「馬鹿者が」を何回も繰り返していた。

 その後、気を取り直した師匠が話す。


 「お前、聖女の最高クラスの魔法ってなんだ?」

 「ああ。それは初期の聖光(ヒール)から派生する完全聖光(フルオーバーヒール)ですね。レッドラインよりもブラックに近い。瀕死状態からでも完全に回復させてあげることが出来る究極の回復魔法です。これはエルだったら、一日三回まで、使いこなせるんですが、オレは一回で限界でしたね。てか、使えたのが奇跡でした」


 発動したのが奇跡。

 オレはそう思っている。

 だって、もう一回やれと言われても、たぶんできないと思う。


 「マジかお前、常識を超えたバケモノにドンドン近づいてんじゃねぇかよ」

 「またまた、オレは化け物じゃないですって」

 「いや。もう十分バケモノだな・・・だってお前、四人の英雄職のスキルを使えるって事だろ。無敵じゃないか」

 「でも制限が掛かってるんですよ。無敵じゃないですって」

 「制限あっても無敵だわ。常識外れの馬鹿弟子!」

 「なにも、そんな言い方しなくても・・・」


 師匠が何に怒っているのか。

 オレにはよく分からない。

 うんうん。

 なんか腹立つことがあったんだろう。リョージさん関係でね。

 そういう事にしておこう。

 

 ◇


 しばらくして、フレデリカが起きた。

 最初だけが寝ぼけた様子で、すぐにいつもの彼女に戻った。


 「る、ルル先生・・・お、起きたのですね。ご無事なのですか」

 「おうフレデリカ。大丈夫だぞ。お前も元気になってよかったな。怪我もなさそうだし。ポーションでも飲んだか?」

 「は、はい。マインさんが、軍の支給品をくださいました」

 「そうか。それはよかった。三人とも無事でよかったな」

 「はい。ルル先生。クルスの足まで治していただいて、ありがとうございましたわ」

 「ん? 足が治った? え? どういうことだ?」


 もしかして、オレの魔法が、あいつの命どころか。足まで治したのか。

 ありえるのか・・・。

 オレは数秒、思考加速で考えた。

 そして予想として、完全聖光(フルオーバーヒール)の効果に副次効果があるのではないかとなった。

 瀕死状態を回復させる力はその他にも影響がある。

 これは、一度エルミナと話し合ってみないといけない。

 

 「先生。ですから、ワタクシはクルスの主として、あなた様にお礼を申し上げます。今のワタクシは、あなた様に何も返せるものがありませんが、ただ気持ちだけでも先に」


 フレデリカはオレのベッドの脇に立ち、深く感謝を示した。


 「テレスシア王国のフレデリカ・キーサーは、あなた様のその慈愛に満ちた行動に感謝いたしますわ。この度の件は、ありがとうございました。いつか、この御恩を必ずお返しします。ワタクシの大切な友人二人を守って下さり、ワタクシは・・・感謝の言葉しか出て来ません。本当にありがとうございました」


 とフレデリカは、頭を下げて、身体を深く沈めて貴族流の最大の敬意を示してくれた。

 

 「フレデリカ。別にそんなにしなくてもいいんだ。オレは大したことをしたわけじゃない。それにお前らの為にやったんじゃない。オレの為にやったんだ」

 「え? どういう意味でしょうか?」


 オレの発言を聞いて、フレデリカがビックリして顔を上げた。


 「いいか。オレの今の目標は、『お前らがこれからも一緒に生きていけるようにする!』なんだ。だから今回の件は、オレが勝手にやったことなんだぞ。お前がそんなに感謝を示さんでも、オレはこれからも勝手に守ってやるんだ。な! だから、いちいち感謝してたら、お前の感謝の言葉が足りなくなっちまうぞ。ほれ。フレデリカ、笑え。オレは感謝よりもお前たちが笑ってくれる方が幸せになる。ほれほれ」


 オレがフレデリカの両方のほっぺたを摘まんでグリグリした。

 お前たちの笑顔が、今のオレの一番の薬なんだ。

 感謝も嬉しいけど、そっちの方が嬉しいんだ。 


 「は、離してくださりますか!!! もう・・・せっかくワタクシが・・・もう!」


 ちょっとプリプリ怒ってしまった。

 やりすぎてしまった。


 「む・・・むむ! ルル先生」

 「おお。クルス。起きたか」

 「はい。起きました。あ、あの・・・ぼぼぼ僕、足が治ったんですよ。先生のおかげなんです」

 「よかったな。なんか、たまたまだけど。よかったな!!」


 そこまでの効果があるとはな。

 奇跡って凄いよね。

 と思ったのは内緒にしておこう。

 オレが狙って助けたんだとした方が、なんとなくカッコいいからさ。


 「はい。一生治らないものだと思っていたので、嬉しいです」

 「そうか。それじゃ、今度からはビシバシ鍛えてやるぞ。手加減しないからな。ここから頑張れ」

 「は、はい。お願いします」

 

 クルスの誓約の代償の効果は切れただろう。

 だから新たなものが必要であるとオレは思った。

 そこで。


 「クルス!」

 「はい。先生」

 「以前のお前の代償は言葉だったな」

 「はい。そうです。なぜそれを先生が!?」


 自分はお伝えしていないのにと、驚きの顔をしてきた。

 三人とも、その時の感情が、全部表情に出る。

 可愛らしい子たちだわ。


 「まあ、オレならば、そんなことは容易に推測できるのよ! まあ、そこは話の本流じゃないんで、置いてと。で、今のお前は代償が切れた。そこで新たなものを決めよう」

 「新たな代償ですか・・・また言葉でしょうか」

 「いや。オレはお前の代償を、戦う時の不殺にするべきだと思う」

 「不殺?」

 「ああ。お前の代償は敵を殺さない。だから、棒術を極めることで。敵との戦闘は叩きのめすか、捕縛することをメインにしよう。これを守れば上手く自分を成長させることが出来ると思う。お前のジョブは幸いにも祝詞神官だ。これも不殺と相性がいいと思う」

 「わ、わかりました。それを心に誓います!」

 「おう。頑張れ。オレは応援してるぞ! な!」


 クルスの頭に手を置くと、彼は嬉しそうにして笑った。

 オレが見たかったものをすぐに提示してくれるとは、良き生徒である。


 「よし。二人とも寝ろ。オレのことを心配せんでもほれ。動けるようになったからな。安心して寝るんだ。ジャックのようにな」

 「zzzzzzzzzzz」


 すやすやと眠るジャックは、起きてこなかった。

 彼は幸せそうな顔をしているので、オレも幸せな気分になっていた。


 「そ、そうですわね。眠ります」

 「・・・僕もそうします」


 少々戸惑った二人も、大人しく眠りについたのであった。



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