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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第27話 フレデリカ誘拐事件

 この日のルルロアとホンナー、そして、ホイマンとフレデリカたちに、失態があったと決めつけることは出来ない。

 なぜなら、この事態は、ちょっとした間違いから始まっていたからだ。

 それはコップに出来ていた小さなひび割れをそのまま放置して、そこに水を注ぎ、いつの間にか机の上が水浸しになってしまったようなほんの小さな些細な事と同じで、結果として、机の上の漏れた水で慌てる羽目になったというお話だ。

 

 第一のちょっとした間違いは、ルルロアとホンナーが、ホイマンのみで三人の課外授業が出来ると判断してしまったことである。

 王国騎士団の騎士という肩書に絶大な信頼があったのが仇となった。


 第二のちょっとした間違いは、ホイマンとジャックが、フレデリカの事を『お嬢様』と呼んでいたことである。

 彼らが『フレン』と呼び捨てに出来なかったことが、この事件の呼び水となった。

 だから、フレデリカを守るためには、二人に呼び名の強制をして、フレンと呼ばせるように訓練すべきであったのだ。


 このようなちょっとした間違いが、事件に繋がっていくのである。



 

 ◇


 校舎を出た四人は、都市の中央の市場通りに出ていた。

 通りを行き交う買い物客が多い場所で、ホイマンがフレデリカに聞いた。


 「お嬢様。どちらへ行きましょうか」

 「ホルトさんは、見学する場所を知らないのですか? ワタクシたちはてっきり先生に目的の場所を聞いていたのかと思っておりましたわ」

 「ルルロアとホンナー先生は、三人が行きたい場所に連れて行ってあげなさいと言っていました」


 ホイマンが丁寧に話している。

 明らかに小さな子に対して使うような言葉じゃなかった。


 「そうですか。ジャック、クルス。行きたい場所ってありますか?」


 悩んだフレデリカはそばにいる従者の二人に聞いた。


 「私はどこでも。お嬢様が行きたい場所に行きます」

 「む!!! むんむん!!!」


 ジャックと同じ意見であるとクルスは首が取れる勢いで頷いた。


 「そうですか。行きたい場所・・・私にはありませんね。この都市の事を詳しく知りませんわ。ジャック、クルス。どうしたらよいでしょうか?」

 「では、前にルル先生に連れて行ってもらった屋台通りはどうでしょう?」

 「・・・そうね。そうしましょうか。そこがいいかもしれませんわね」


 ジャックの提案に乗ったフレデリカは、行き先を屋台通りとして、ホルスに護衛を頼んだのである。



 ◇

 

 さっきのは、言葉が丁寧な以外に何でもない普通の会話だった。

 だから、行き交う買い物客たちのように、すれ違いざまに会話を少し聞いたくらいだと、スルーするのが普通の人だろう。

 

 しかし、アンテナを張り巡らせている人間にとっては、それは大好物の会話だ。

 海のように透き通った青いペンダントを胸に装着する軍団。

 青の海岸(ブルーコースト)の面子にとっては、美味しい餌が目の前にちらついたのだ。

 お嬢様というパワーワード。

 賊共は、彼女らの近くで足を止めて、一般の買い物客に混じって、会話を聞いていた。

 

 フレデリカたちが移動を開始すると同時に、二人がその場で軽く話す。


 「ジャキロさん」

 「ああ。今の聞いたか? お嬢様だとよ」

 「聞きましたよ」

 「どこぞの貴族か大商人の子か。それとも豪農か。とにかくあれは金になりそうだな・・・やるか!」

 「分かりました。仕掛けます」


 フレデリカ誘拐事件は、彼女が大王だからで始まった訳じゃなかった。

 彼女たちが金持ちじゃないのかという話から始まったのである。



 ◇


 三人はルルロアに連れて来てもらった露店通りに、ホイマンと共にやって来た。

 

 「安いよ。串焼き。一本! 30Gだよ」

 「あの方は・・・」

 

 フレデリカが、串焼きの店主を見つけた。

 以前と変わらぬ場所で、店主の楽しそうな声が響く。

 お客さんに声をかける姿も変わりなく元気だった。

 

 そして、店主の方も彼女たちに気付いた。

 

 「おお。嬢ちゃんらは……そうだ。値切りの兄ちゃんの時の子たちだな!」

 

 苦い思い出を思い出した店主は、苦笑いで答えた。

 ルルロアの完全勝利であったから、また負けてしまうぞと警戒して、引き連れている人間を見た。

 すると知らぬ男性で、店主はホッとする。


 「あの時はどうもですわ。美味しかったですわ」

 「おお。そうかい。嬉しいね! 今度も買っていくかい?」


 あいつがいないなら、ここが商売チャンス。

 店主は、少女たちに声をかけた。


 「え・・・そ、それは・・・」


 フレデリカがホイマンを見る。

 彼女の欲しそうな目に気づいたホイマンは『お任せを』と言って、財布を取り出した。

 ホイマンは日曜学校の警備員という形で仕事をしているので、お給料をちょっとだけ貰えているのだ。

 財布が少し緩い。


 「ではこちらを三本もらえますか。いくらで?」

 「90Gだよ」

 「そうですか…お金を用意します」


 ホイマンは言われたとおりの値段を出そうとすると。


 「あの! ホルトさんは、値切らないんですね。交渉しないんですか?」

 

 ジャックが澄んだ瞳でホイマンを見つめた。

 彼の心から出ている純粋な疑問に、ホイマンが焦る。


 「値切る? ど、どうやって?」

 「ルル先生は、おじさんと交渉しましたよ。子供価格って言ってました!!!」

 「こ、子供価格!?」


 子供価格に困ったホイマンは、三人の顔を見た。


 『値切らないの。安くしないの。ルルロアは出来たのに』


 三人は、そんな目をしていた。

 だからホイマンは、やったことのない価格交渉を試みた。

 商人じゃないのにと内心では、半分諦めている。


 「そ、それでは子供価格というのはいくらで」

 「え。そんなものはないぞ。30Gだ」

 「で、ですよねぇ・・・・でも20Gくらいには出来るという話で・・で・・・」

 「無理無理。旦那は甘いよ。商売ってさ。甘くないんだよね」

 「そ、そうですよね。ですが、あの・・・・」


 しどろもどろになっていくホイマン。

 価格交渉の技術など、竜騎士のホイマンが持っているわけがない。

 そもそも堅物で口下手なので、ホイマンのジョブが商人であっても難しい。

 それと、どんな分野でも適応できて、どんな問題も解決できてしまう。

 あの無職のルルロアが特別であるのだ。

 ホイマンが悪いわけじゃない。

 決して悪くない。ルルロアがおかしいのである。


 「いや、そこを何とか、子供たちの前ですし・・・・ってあれ!?」


 ホイマンが店主と話していた隙に三人が消えた。

 この間、一分も満たない出来事だった。

 

 「お嬢様!? ど、どこに!? 店主殿、三人を見ましたか」

 「え・・い、いや。い、いつのまに!?」


 ホイマンからすると、隣にいた子供たち。

 それで店主の方だと、子供たちは正面にいたはず。

 それなのに、彼すらもいなくなったことに気づいていなかった。


 だから、店主が三人の移動を見てないことで、ホイマンはこの事件が誘拐であると断定した。

 なぜなら、店主が消える瞬間を見ていないからだ。

 迷子ならいなくなる方角だって分かるし、そもそも声をかけてくれる。

 

 ホイマンは三人を探すために追跡を開始する。

 腐っても騎士団の一員だ。

 追跡技術だって勉強してある。


 「なに。足跡がない。ここからすでにない!? どういうことだ。まずい。お嬢様が・・・」


 彼らに落ち度があったとも思えない。

 僅かな油断が誘拐事件へと繋がっていったのであった。




 ◇


 目を覚ましたフレデリカは、椅子に縛られていることに気づく。

 後ろ手になった状態から、グルグル巻きで椅子に縛られていた。

 

 「え!? な・・・え?」


 慌てていても周りを確認。

 地下牢のように、薄暗い部屋で、じめじめとした空気が天井からも出てきている。

 

 「ここはどこですか・・・え!?」


 フレデリカが前を向くと、ジャックとクルスが天井に吊るされていた。

  

 「ジャック!? クルス!?」

 「・・・お嬢様・・・・」

 「む! むむ!!」


 二人の体の傷はまだ浅い。

 返事をする元気が残っていた。


 「お! お目覚めかな。お嬢様とやら」


 ニヤリと笑う男性がフレデリカの前にやってきた。

 果物ナイフのようなサイズの刃を右手に持っている。


 「な、なんですの・・・あなたは!?」

 「俺か。俺はな。あんたを使って、ちょ~~~と、お金が欲しいんだよな」

 「・・・人質ですの」

 「あ? 違うよ。いや、待てよ。簡単にいやぁ。そうかぁ。まあそれはいい。お嬢ちゃんのお家はどこだい?」

 「あ、ありません」

 「お父さんとお母さんは?」

 「い。いませんわ・・・・し、死にました」


 フレデリカは、母親に言われていたことがある。

 それは、父と母は死んだことにしなさいと。

 それが生きるための唯一の方法であると。

 幼いながらに彼女はこの意味を理解していた。

 自分の命を守るために、親の名を伏せることが、自分が生き残れる道なのだと。


 「嘘は言っちゃダメだよ。ほらぁ」


 男はジャックの首元にナイフを突きつけた。


 「おやめなさい。その子たちに手を出したら許しません」

 「ほらほら。このナイフは特別に切れにくいんだぞ。一瞬で死ねないんだ。苦しいぞぉ」

 「やめなさい! ワタクシを殺せばよいでしょう」

 「それじゃあ、意味がない。お前を殺しちまえば、金をもらえないからな。でもこの男どもは違うだろ。お前の従者だろ? お嬢様とか言ってたしな」

 「違います。彼らは従者ではありませんわ」

 「嘘つけ。お嬢様って言ってたぞ」

 「そ、それは・・・あ・・・あだ名ですわ!」

 「くくく。お嬢様なんてあだ名の奴がいるか。嘘が下手だな」

 「・・・・」


 フレデリカは窮地に追い込まれていた。

 大切な二人を失いかけていた。


 「仕方ない。話してくれないなら、こいつをまずは、こうだぁ」


 切れにくいナイフが、ジャックの背中を斬る。


 「ぐっ」

 「痛いだろ。あれ、声がないな」


 傷は浅くとも痛みは来ている。

 ジャックの肩に二撃目が来た。

 

 「ぐっ」


 ジャックは、フレデリカに心配をかけまいとして、声を出さずに傷みを我慢した。

 それに、フレデリカの怒りが湧く。

 

 「おやめなさい!!! その二人は、ワタクシの大切な人たちであります!!!」


 ビリビリと部屋中に響く王魂。

 気迫ある声と共に力が解放された。

 今度の力は以前よりも少し強く、大人にも若干響いた。

 男は少しだけ後ろに下がった。


 「く・・こいつ・・・これは・・スキルか・・・なんのスキルだ。言葉だけで」


 男は言葉で相手を制するスキルを知らなかった。


 大王の器の王魂。

 王の器の王魂。

 英雄職『剣聖』『閃光』の威風。等々。

 これらのスキルは、相手を威圧できる滅多にお目にかかれない特殊なものであるために、裏の人間でもこの存在を知る者は少ない。

 

 「クソ、この女・・・・ならこっちを先に痛めつける。クソガキ共をな」


 男はナイフを投げ捨てて、自分の指を鳴らして拳を準備した。

 厄介なフレデリカを揺さぶるため、二人に対して、拷問が開始された。

 ジャックとクルス。

 二人の運命は・・・・・。


 

 

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