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周りが英雄職なのに俺だけが無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第25話 大王の器と従者の誓約

 クルスは一人。

 校舎を歩く。


 彼の歩行の様子を音で表すと、『テトテト』

 こんな感じで、オレの目には可愛らしく映る。


 彼は、独特の歩行をしていた。

 左足が前に出て、次に右足が前に出る。

 それが普通の事だけど、この間が少し変わっている。

 上半身が揺れ動くのだ。

 それも出した足の逆に体が曲がる。

 左足を出したら、上半身が大きく右に傾いて、右足を出したら、上半身が大きく左に傾く。


 この不思議な歩行は、オレにとってだと、全然気にならなくて、むしろ可愛いなと思うのだが、子供にとってだと、不気味でカッコ悪いらしい。


 

 ◇


 実習棟と校舎の間の廊下。

 少年の大声が響いた。

 その声の方に振り返ったら、クルスが廊下の中央にいて、他のクラスの生徒らと対面していた。

 オレは実習棟側の廊下の影から見守ることにした。


 「気持ち悪いんだよ」

 「む!?」


 一生懸命に廊下を歩いていたクルスが、他のクラスの生徒たちに突き飛ばされる。

 不思議な歩行は真横からの攻撃にとても弱い。

 クルスが派手に転んだ。


 「そうよ。歩き方もだけど。話せないのも気味が悪いわ。あなた、なんで話さないの」

 「むむ!!!」


 尻餅をついても、クルスはすぐに立ち上がって、三人の生徒にガンを飛ばした。

 なかなか気概がある。

 負けないぞと意思表示を示した事にオレは感心した。


 「なんか喋ってみろよ」

 「おい。おい。それは無理だろ。こいつ、「む」しか言えないんだぞ。ム坊主なんだぞ」

 

 クルスには、変なあだ名がついていた。

 ム坊主!

 そのまんまじゃん。坊主頭だしさ。

 なんかもうちょっと捻りないのかよ。


 とオレは思いながら、まだ見守っておく。



 この学校の方針として、子供たちの事は子供たちで解決すること。

 それが日曜学校の暗黙の掟となっている。

 オレも、あんな風に絡まれて、馬鹿にされたりしても、先生たちは助けてくれなかった。

 というよりも、オレは助けがいらないくらいに心が強かった。

 マイハートは鋼鉄である。

 『こいつらって馬鹿なガキだよな』

 と、数段上からの高みの見物を決め込んでいた当時の心境。

 馬鹿にしてくる生徒を逆に蔑んで見ていたのがオレだ。

 若かりし頃の苦い思い出だ。

 まあ、若気の至りである。


 「む!!!」


 クルスは、オレが教えた棒術の防御の構えを無手で作ろうとした。

 両手を前に出して、相手の攻撃をいなす形だ。

 でも相手が三人だ。

 横からの攻撃が同時に来るので、すぐに拘束されてしまった。


 「ほらほら。何か喋って見ろよ。そうだな。犬の真似でも、してもらおうかな。ワンワンてさ」


 クルスの背後から羽交い絞めにした少年が言う。


 「話せないからね。動物の真似はいいかもね」


 正面に立つ少女は口を尖らせ、犬の遠吠えの形を真似て、クルスを馬鹿にした。


 「わおーんって言ってみろよ」


 その隣の少年はクルスの口を指で摘まんだ。


 「「「 はははは 」」」


 三人に笑われて少し泣きそうな顔をしたクルス。


 そろそろ限界か・・・。

 俺がいくか。

 っと思った瞬間。


 校舎側からフレデリカが鬼の形相で走って来た。

 現場に登場して。


 「おやめなさい! あなたたち!」


 廊下中に通る声でいじめを止めようとした。


 「なんだお前は」

 「寄ってたかって、弱い者いじめなど恥ずかしくないのですか。しかも一対三ですわ。やるなら一対一ですわ。決闘をしなさい。今すぐ!」


 フレデリカの正論である。

 あなた、姫様だけどその意見。

 正しく騎士のようだぞ。

 カッコいいわ!


 「うるせえな。ブス」

 「黙ってろよ。お前」


 フレデリカは、こちら側に来る予定であったのだろう。

 オレから見て反対側の廊下から走って来たので、念のためにオレは向こうの奥を見た。

 するとあっち側の廊下で気配を消しているホッさんがいた。

 なんか嫌な予感がするので、オレは仙人のスキルを一瞬だけ解放して、ホッさんの後ろに爆速移動して立った。


 「ホッさん。タンマ!!! ちょい待ち」

 「ぬ。ルル! 何をする」

 

 スキル『束縛』の鎖でホッさんをグルグル巻きにした。


 「あんたこそ、何する気だったんだよ。その槍に手をかけんなよ」

 「あの無礼者を成敗しなければ・・・倒さねば」


 子供相手に、過激派だよ。

 このおじさん!!!


 「やっぱそうなってんじゃんか。馬鹿か。あの子らは子供だぞ。大人が勝手にあそこに入るな。ややこしくなる」

 「何を悠長な……二度と逆らえないようにしてやるわ」

 「いいからいいから。ホッさんは冷静になってくれ」


 オレとホッさんの無駄なやり取りの間。 

 あちらの話が数歩分進んでいた。

 

 「邪魔よ。離れなさいよ」


 女の子がフレデリカを突き飛ばした。

 フレデリカが盛大に転ぶ。

 それを見たホッさんが鎖を引きちぎろうとして暴れる。

 オレがそれを止める。


 正直言ってめんどくさい。

 ただ普通に彼らを見守りたいのに、でっかい大人を見守らないといけないのが面倒だ。


 なんて思った瞬間に、クルスが拘束された状態から、自らの力だけで拘束を解き、倒れた彼女の前に立った。

 仁王立ちになり、彼女を守ろうとする気概を見せたんだ。

 その時の動きが、まるで別人のようだった。

 常人並みの動きだ。


 「む!!! むむむ!!!!」

 

 『この人に手を出すな。もし手を出すなら僕を倒してからだ』って言っていた。

 なぜか、オレは何となくだが、クルスが言いたいことが分かるのである。

 これは、もしかしたらだけど、オレがイージスの事を理解しているから、たぶん言葉を話せずとも、あいつに似ているクルスの思いが分かるのかもしれない。

 

 「なんだよ。こいつ。いっちょ前にナイトのつもりか。お姫様のナイト様ってか」

 「ははは。こんな碌に喋ることも出来ない奴をお供にするわけないだろ。それにそこの女もお姫様じゃないしな」

 「「「 ははははは 」」」


 その人、お姫様です!

 大国のお姫様でありますよ。

 それに、国を建国できるほどの大器の器を持つ大王様であられますよ。

 無礼ですよ。そこの少年少女。

 ここが彼女の国だったら、あなたたちの首は、今繋がっておりません。

 よかったですね。ここがジャコウ大陸で!

 

 「むむむ、む!!!! う!」


 貴様ら、馬鹿にするな。

 フレデリカ様は僕の主君だ!

 とオレには聞こえた。


 まさか、クルスが、こんなにも従者らしい行動をするのかと、オレは今。

 とても感動している。

 でも今すぐに、大切な事を言ってあげたい。

 おい。クルス。

 フレデリカ様って言えてないけど、言っちゃってるよ!!!

 事情を知らない人以外の時は、彼女の本名は、伏せろってさ。

 オレはクルスとジャックに教えていたよね。

 はぁ。でもよかったよ。『う』で終わってるからさ。

 まったく、あぶねえ。 

 

 

 「なんだよこいつ。こいつからやっちまうぞ」

 「おお」「ええ」


 立ちはだかったクルスに向かって、少年少女三人組が襲い掛かる。

 その時。


 「おやめなさい! ワタクシの大切な・・おとも・・だちに何をしようというのですか」


 お供というのをギリギリでキャンセルした。 

 彼女は、恥ずかしそうにお友達と言った。

 

 「うるさい。この女。お前からにする」


 一人の男の子が標的を変えて、フレデリカに殴りかかろうとした所。

 すぐさまクルスが移動して、身を差し出した。

 男の子の拳が、クルスの顔面に入るその時に、とんでもない力を感じた。

 その力の波動は、遠目にいるオレの場所までやって来た。


 「おやめなさいと! ワタクシはそう言いました。いいかげんにしなさい」


 彼女の言葉と共に、廊下中にとある力が伝わった。

 それは語気から出る力の波動。

 気迫のこもった声に、力があるんだ。

 手を出そうとした男の子が止まり、恐怖に震えていく。

 後ろで控える二人も足がすくんでいた。


 オレはここで気付いた。

 今のは、あの大王のスキル『大王の器』の王魂(おうこん)であると。

 

 声に王の魂が入り、相手を威圧するスキルだ。

 王魂は、王のスキルにもあるが、大王のスキルとなると威力は絶大。

 相手を畏怖させる。

 彼女の力は、まだ大人をそこまでには至らせないが、相手が子供であったので十分に効いたようだ。

 動きが止まった三人の表情がその恐怖の中にいた。


 「ここから去りなさい! あなたたち。直ちに去りなさい!」


 続けての王魂。

 それは彼らを引き下がらせるのに、十分な攻撃だ。


 「は・・・はひ」

 「わあああああ」

 「うわああああ」


 三人を帰らせたフレデリカは、クルスと話す。


 「クルス……怖かったでしょう。ワタクシがいながら、あなたを一人にしたのが間違いでしたわ。ほら、一緒に行きましょう」

 「む・・・・・むむ」


 申し訳ありません。フレデリカ様。

 

 クルスはそう言って泣いた。

 ポロポロと泣いて、悔しさをあらわにしていた。

 自分が守るはずの大切な主君に、守るどころか守られたことによって、彼は自分が情けないとでも思ったのだろう。 

 

 「いいんですよ。あなたが無事であれば。ワタクシはそれで十分です。ほら、実習棟でホンナー先生の授業を受けましょう」

 「・・・む・・・う・・・うう」


 はい。申し訳ありません。今度は守ります。守ってみせます。


 と言ったクルスは、彼女に支えられて、授業に向かっていった。


 

 ◇


 二人が去った後。


 「今のは、大王のスキルだな・・・・」


 オレが言った後、ホッさんは。


 「す、素晴らしい。あれがフレデリカ様。アリス様とレックス様にも似て、曲がったことがお嫌いなようだ。ああ、従者にまでお優しいなんて・・・」

  

 感動し過ぎて、ボロ泣きした。

 ホッさんの中で泣くのが流行ってんの。

 なんて野暮な事は言わない。

 ひたすら目頭を押さえるホッさんであった。


 「クルスのあの最後の動き。あれは明らかに普段よりも動きが良かった。そうだな。あいつの才能って確か、誓約。あれの効果は。誓いを立てることだったな。もしかして、あいつ。言葉を犠牲にして、フレデリカに全てを賭けているのか!?」


 誓約。

 誓いを守ろうとすると能力が向上する。

 守る際に代償が発生していると、能力は大幅に上昇する。


 クルスの歩行のおかしさ。

 訓練時の不器用さ。

 オレは思う。

 あれはもしかしたら、クルスっていう男の子は、元々体を上手く動かせない人間なんじゃないか。

 彼は、誓約の力で、体を強引に動かしているのかもしれない。

 

 代償は、おそらく言葉だ。

 言葉を話さない代わりに、身体が動かせるようになったんじゃないか。

 それで彼女の為にひたすら特訓している。

 だとしたら、とんでもない忠誠心だぞ。

 

 「凄いなあいつ。あの若さで・・・12だろ。覚悟が違うな。そんじょそこらのガキじゃない。あれは、漢だぞ」


 フレデリカは10。クルスは12。ジャックは11。

 それぞれ歳は違えど、何らかの繋がりで三人は強固に結びついているようだ。


 

 

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