第4話 成長
「ぐっ!?」
ハイスマンの右膝にモンスターが噛みついてきた。
リケルド。
蛇型のモンスターで、体格がかなり小さい。
なので、こちらの攻撃命中率が格段に落ちてしまう厄介なモンスター。
ハイスマンの獲物が大斧なので、攻撃を当てる事がなおさら難しい。
「ヒール・・・・ビルロック」
ハイスマンの膝を治しつつ、噛みついてきたモンスターを岩の中に閉じ込めた。
癒しと攻撃魔法を同時に展開するスカナは、ルルロアの指導の前から自分を見つめ直して、しっかり土台を作り上げていた。
「ハイスマン。怪我は気にしないでいい。私が治す。そのまま近距離戦だ」
「スカナ。ありがたい。俺様はこいつを好きなだけ殴るぜ」
ジェンテミュールの宿敵『ナスルーラ』
ルルロアを苦しめた張本人で、ジェンテミュールの英雄たちの心を折りに来た悪女だ。
尊敬する英雄たちの補佐をしてきた彼らにとって、英雄たちとその支えになっていたルルロアを疎外したい事。それでルルロアを支えられなかった事が、後悔としてまだ胸に残っている。
しかし、それらの悔しさを糧に、あの反抗的だったハイスマンも大成長しているのだ。
「重打!」
「な!?」
ナスルーラの想像を超える速度での移動。
重打を繰り出すにしては、移動が速すぎる。
そして、その攻撃速度もだ。
「ハテル!」
亀形モンスター『ハテル』
甲羅が鋼鉄以上の性質を持つモンスター。
鉄壁の防御であるので、盾や防具の素材として取ってくると喜ばれる。
あと縁起もいいとされているので、冒険者らがこぞって収穫に行く。
だが、これまた激レアのモンスターなため、出会う事は少ない。
エンカウント低めのモンスターだ。
「そんなもの、今の俺様に無駄だ。意味なしだ!」
「ハイスマン! あなたの癖に、なんて速さなの」
ナスルーラの目の前で、ハテルの甲羅が割れる。
ハイスマンの斧の勢いは若干落ちても、そのままナスルーラに迫る。
「く。ソリティースレイ!」
ハイスマンは、斧を直撃させたと思った。
だが、そこにナスルーラがいない。
目的位置から微妙にずれていく際に、翼が生えたように映った。
「なに。飛んだ?!」
「あ、危ない所だったわね。間に合わなかったら首がなくなっていたわ」
ナスルーラの背中に、モンスターが張り付いている。
鳥型のモンスター『ソリティースレイ』
烏がモデルだと言われている黒いモンスター。
ナスルーラの背中を掴んで、漆黒の翼を広げているので、一見すると彼女に翼が生えているように見える。
物を掴む力が強いモンスターで、人一人どころか、十人以上を引っ張る事も可能。
「厄介だな。スカナ。どうする」
一時退却して、スカナの位置にまで引いたハイスマン。
かつてにはない冷静な判断だった。
「たしかに。ビーストマスターの肩書きは伊達じゃありませんね」
「ああそうだな。モンスターを無限に召喚できるのはな。こればかりは英雄職として良い部分だ」
「ええ。そうです」
理性的なハイスマン。
分析能力も加わって、しかもスカナと冷静に戦闘を組み立てようとしていた。
「押し切る! それしかないぞ。スカナ」
「それはあなたのいつもの考えでしょう」
「だが・・・」
それしかないぞ。それをハイスマンが言わずともスカナは頷く。
「ええ。私も同じことを思っていました」
「そうか」
「なので少し信じてもらえますか。あなたのアシストをします」
「ん? おお。任せろ。俺様はいつでも仲間を信じてる」
ジェンテミュールのメンバーの全員を信じている。
ハイスマンが背中を預けるなど数年前ではあり得ない事だった。
ここにハイスマンの成長が見られる。
「ええ。ではタイミングはこちらが」
「おう。いくぜ」
ナスルーラが出してきたのは、ゴブリン隊。
無数のゴブリンを出して、ハイスマンとの戦闘距離を保とうとしていた。
「あなたが、信じる? ありえない。人を信じずに、突っ走るのが、ジェンテミュールの汚点であるあなたでしょう」
「そうだ。俺様が一番の汚点だ。それは認める。自尊心の塊で傲慢だった」
「え?」
あなたらしくない。
ナスルーラはかつての同僚の傍若無人ぶりを見てきているのだ。
変貌ぶりに信じられなくても仕方ない。
「しかし、今の俺様は、そんなガキみたいなプライドは捨てている。成長する為。強くなるために貪欲だ。これも奴のおかげだ。お前も、奴を信じておけば、もっとマシな人間になれただろうな」
「ルルロアを信じるですって」
「そうだ。奴は・・・隊長は」
ハイスマンが初めてルルロアを隊長と呼んだ。
心からの敬意の表れだった。
「お前にも手を伸ばしていたはずだ。差し伸べていた手を振り払わなかったら、お前だって、今よりも格段に成長しただろう。もっと強いモンスターを無限に出せただろうな」
「わ、私は成長してるわ。モンスターだって・・」
多くを使役できた。
でもそれは物理的に増えただけである。
「そんな物はまやかしだ。お前の力じゃない。一本筋が通った力じゃないから、すぐにメッキが剥がれるぞ」
「な、なにを」
時間稼ぎはここら辺か。
ハイスマンがチラッとスカナを見ると、彼が頷いた。
合図である。
「ナスルーラ。俺様の一撃。貰っても死ぬんじゃねえぞ」
「移動が違う。なぜそんなに速く!?」
動けるようになっているのか。
それは当然、ルルロアのジョブからの解放だ。
重戦士の楔が外れれば、あとは速度を伸ばすことは簡単。
努力次第で、成長曲線は無限に広げられる。
「下がるしかないわ」
「拘束の鎖」
後ろに下がろうとしたナスルーラの足に、魔法の鎖が絡まった。
「と、飛べない。この鎖・・・なぜあなたが、この魔法を!? 神官が扱える魔法じゃない!?」
スカナのジョブルートにはない魔法。
この魔法は狩人系統のスキルを魔法で再現したものである。
魔法は、想像から始まる。
だから、豊かな発想力が、現実世界に魔法として発現させる近道となる。
現代の人々は、ルルロアのジョブ解放により、様々な魔法を自分で発想できるようになるのだ。
「その魔法で実感しろ。貴様は仲間を信じれば良かったんだ。ナスルーラ!」
「し、しまった。あなたが来ているんだった」
足に気を取られていたせいで、一瞬ハイスマンを見ていなかった。
彼はもう懐に入っていた。
手を伸ばせばすぐにつかめる位置で、ハイスマンが回転した。
「ナスルーラ。詫び続けろ。貴様は死ぬまで、隊長に詫びる人生だ・・・重打ああああ」
横払いで斧が唸る。
轟音轟かせても、刃の部分での攻撃をしない。
ナスルーラを捕らえるために、体を叩いたのだ。
「ぐはっ」
それでも血が飛び出る威力。
ハイスマンの重打の貫通力が凄まじい。
「感触あり・・・ん!?」
ナスルーラを地下道の壁にぶっ飛ばしたハイスマン。
最後の感触がおかしい。
「どうしました。ハイスマン?」
「スカナ。こいつは変だ。軽すぎる」
「体重がですか?」
「いいや違う・・・偽者かもしれん!?」
「え」
「まずい。これは・・・まさか」
ナスルーラの体から湯気が出てから、肉体がしわしわになって、別な体に変化した。
死体からモンスターの一部っぽい爪が出てきた。
変化が解けたことで、人間よりも遥かに長くなりつつある。
「「擬態!?」」
二人で、ナスルーラの完全変化を見届けた。
体の構造的に、これはサキュバスだった。
「スカナ。連絡を入れろ」
「そ、そうですね。リョージ殿に」
「急げ。全体に情報を共有だ。ナスルーラはまだ討伐されていないと」
「ええ。急ぎます」
その後、リョージへの連絡がなされた。
◇
レックスが膝を突いた。
バージスの一撃が思った以上に強く、肩を負傷した。
「がはっ。どうして、そんなに強いのに、そちら側に着いたのだ。なんだったら、自分が王にでもなれたはず」
レックスの言葉に、バージスは。
「そんな物は面倒だ。俺よりも優秀な奴はたくさんいる。そいつに任せればいい」
きっぱり断った。
自分が王となるのは違うらしい。
「それでお前は、親族を追いやる事に決めたのか」
「ホルサンよ。レックスはともかく、他の無能な奴らに付き合うのも無意味だろう」
「無能・・・王族だぞ。一概には無能とは言えまい」
「それはただの役職名だ。王族なんぞ身分でもない」
「貴様・・・」
悲し気な顔をしたバージスも王族の一員と言えば一員である。
「普通の役職がパワーアップしても、所詮は普通。俺の閃光は、俺自体の強さが加わるから、お前らじゃ無理だ。勝てねえぞ」
「「・・・・」」
バージスは強かった。
ただの閃光じゃない。
動きも何もかも、全てが二人を上回っている。
ルルロアの解放を受けても、まだまだ実力が足りない。
「でも諦めねえようだしな・・・邪魔だから消えな」
青の閃光の槍は、二人には止められなかった・・・。
◇
地下道分岐点。
「ここで分かれます。フレデリカ王。ご武運を」
「はい。ゲルグ王も気をつけて」
「ええ。頑張ります」
「こちらもです」
二人は途中の別れ道で、互いに誓った目標を目指す。
ゲルグは魔王へ。
フレデリカは解除へ。
二人の道は、この地下道で別れたのである。
◇
フレデリカ側の地下道の出口付近。
「ん? 何か来る」
若者たちを支えようと、最後方にいたルクスが気付いた。
背後にとてつもない強さの人物が迫って来ている。
「皆、先に行け。俺がここを受け持つ」
「ルクスさん? 何をおっしゃって?」
「フレデリカ!」
大王を呼び捨て。
これが出来るのは、ルクスとルルロアだけだ。
「は、はい」
「頑張れ!」
「・・・は、はい!」
一言のみで相手に気持ちを伝えられる。
その力強さは、ルクスにしかない。
「先に行け」
「はい!」
皆を先に行かせて、ルクスは猛烈な勢いで迫る男を見た。
先ほど見た男だ。
「ほう。さっきの男か」
「ん、お前は誰だ・・・奴に似ているな」
「奴とは、ルルロアの事か」
「そうだ。あいつにそっくりな髪だ」
「違うぞ。さっきの男よ」
名前を知らないからルクスはさっきの男と言った。
ここで啖呵を切る。
「あいつが俺に似ているんだ! 間違えるな。愛する息子が俺に似てるんだ! なんてったって親子だからな!」
自分でそう言えるルクスは変わっている。
そして、ルルロアの父である事を誇りに思うのが、ルクスである。
青の閃光バージスと戦うのは、鋼鉄大将だった。




