第22話 別れと手紙
ホームから少し歩いた先で、後ろから声をかけられた。
「ルル!」
振り返ると泣き顔のエルミナだった。
「ん! エルか。話しかけちゃ駄目だなんだぞ。オレって追放された身だからな。ファミリーの罪人として出るんだわ。そんじゃあな!」
「い、嫌です! 私は、ルルが、私は。ルルが」
エルミナが話し終える前に二人もホームから飛び出してきていた。
彼女の隣に並ぶ。
「そうだ・・・おらも・・・いやだ・・・ルル、行くな!」
「ふざけんなよ。ルル! うちらになんも言わんで、勝手に。ふざけんなあああ」
泣き顔の三人なんて、まじまじと見ていられないからオレは進む方向を向いた。
顔だけ少し後ろを見て。
「オレはさ。離れていても、いつまでもお前たちを応援してるんだ。それにこれが今生の別れじゃないんだ。生きていれば、いつかは会える。だから今はこの別れを悲しむな。また会えっからさ・・・だから悲しくないのよ。みんな、また会おう! じゃな!」
明るく言ってから歩き出した。
正直、後ろが名残惜しい部分もある。
でも、オレは先へと進む。
雲一つない青天の空・・・。
新たな道へと歩むのにはちょうどいい。
なのに、俺の顔は雨模様だ。
流れる粒は、頬をつたう。
だって、後ろではまだ・・・。
「「「ルル!・・・・・ルル!・・・・・ルル!」」」
何度も何度も、三人がオレの名を呼んでいたからだ。
▢
会議後。
部屋に戻ったフィンは、気が抜けていた。
フィンにとって、ルルロアとは。
目指したい人。憧れの人だった。
どんな事でも全力。
成長の為に努力を惜しまぬその姿。
誰よりも皆の事を考える指揮に、満遍なく見渡せるあの能力。
それはスキルだけじゃない才能を彼から感じるから尊敬していた。
あの人は、英雄たちにただ可愛がられている存在じゃない。
逆だ。
あの四人の英雄には、彼がいないといけないんだ。
ルルロアが思う以上に、フィンはルルロアを見ていた。
自分の部屋にある机の前で、呆然としているフィン。
でもここで、机の上に手紙が置いてある事に気付いた。
先程の会議前にはなかったのにと、手紙を取る。
「なんだこれ? ん!? 隊長の手紙!?」
ルルロアはフィンに置手紙を書いていた。
「こ、これは・・・」
フィンは、手紙の内容に驚くと、すぐに行動を起こした。
フィンの部屋にぞろぞろと人が集まる。
彼が自分の部屋に呼んだのはあの時のパーティーメンバーである。
マールダ。スカナ。キザール。ハイスマンだ。
フィンが集まった彼らに書き残された手紙を渡して、一人一人がそれを読んでいくと、一人一人が違う態度を示した。
「これは・・・私たちへの・・・隊長」
自分を大事に思ってくれていたんだ。
マールダは、彼を失った悲しみと、自分を思ってくれていた嬉しさで涙が止まらなかった。
「そうですね。私も。彼にもっと冒険の仕方を教えてもらえていたら。ジャスティンを」
手紙を見たスカナは歯を食いしばり、悔しさを噛みしめた。
「・・・雑魚が。カッコつけやがって」
「そうだ。これじゃあ、私らがカッコ悪い・・・」
あれだけルルロアを嫌っていたハイスマンとキザールでも、後悔の渦の中に入った。
前も後ろも、渦に囲まれて、二人はどうしようもない中にいるんだと、自分自身に腹が立っていた。
「俺たちは、この意思を継ごう。俺たちで英雄様を支えるんだ。必ず俺たちの誰かが、先に準特級か、特級になる。フールナたちよりも早くなるんだ。支えるには奴らよりも早く強くなる必要がある」
「ええ。そうね。そうしましょう」
「わかった。俺様もやる。ここに書かれていることを忠実に」
「私もだ。神官として、異端神官には絶対に負けない」
「フールナには、私とハイスマンで勝つ。魔法使いと重戦士で、魔法騎士よりも必ず強く・・・」
皆の決意は固まった。
ルルロアの手紙は、彼らの心にやる気という炎を咲かせることになり、のちに、ジェンテミュールを大きく成長させることになる。
「俺たちは、絶対! 絶対に強くなろう!」
「「「「 おおおおおおお 」」」」
フィンの強い意志に他の仲間も続いた。
彼らの運命はここで変わったのだ。
◇
ルルロアの手紙。
フィン。
これをお前が読んでいる頃にゃ、オレはすでにホームにいない。
団長から追放処分を受けているだろうからな。
でも安心しろよ。
あの事件の責任の全てを、オレが取るからさ。
だから、皆には責任がない事を理解してくれよ。
あの時の長はオレだからな。気にすんな。
とまあ、ここら辺はあまり重要じゃないんで、割愛してと。
ここから重要なことを言う。
まず、あの時のメンバーに、全てを託したいと思う。
レオたちを守ってくれ。
あいつら、結構いい加減な所があるからさ。
特に全体指揮は取れないと思うんだ。
だから、フィン。
お前が一級以下の指揮を取って欲しいんだ。
たぶん、フールナが全体指揮官になろうとするが、あいつの性格では全く向いていない。
それにあいつは遠近の攻撃の要となる男だ。
そもそも、全体指揮なんてさせるのがもったいないんだ。
あと、アルトも駄目だ。近接の要だし。
シャインも駄目だ。視野が狭い。
ナスルーラもいかん。踊っている最中、他が見えていないからな。
で、本当はオレたちのファミリーの中に軍師系のスキル持ちがいればよかったんだけど、それがいないから、その次に素質があるフィンが成長して、指揮を取って欲しいんだ。
お前の広範囲の視野。
援護能力は指揮を取るのに有効だからさ。
絶対に皆の力になるはずだ。
スキルでは身につかないけど、勉強しておいてくれ。
お前の机の引き出しに、一応教科書みたいなものを入れておいた。
オレが経験した指揮の例が書いてある。
まあ、参考にして欲しいけど、実践しないと成長しないから、そこらへんは頑張ってくれ。
そんで、このあとの文章は、あいつらに贈る。
後で読んでもらえ。
マールダ。
お前に指導することはあまり多くないから、本題の前に頼みたいことがある。
ミーとエル・・・それにイーの世話を頼むわ。
たぶん、しばらく塞ぎ込むと思うからさ。
お前の優しさで、そばにいてやってくれ。
それで、あいつらに文句言われたら、オレの指示を受けたからです!
ってオレのせいにしていいからさ。
そしたらきっとあいつらなら黙ると思うわ。はははは!
そんで次に、指導としてはだな。
お前の能力は前衛と後衛の能力じゃない。
その間の能力なんだ。
実はフィンと同じ立ち位置で戦うのが一番いいんだぞ。
ヒットアンドアウェイを繰り返しながら、仲間の傷を確認して戦うんだ。
前衛と後衛をよく見て、前のめりに戦闘することはしない。
これを気をつけてくれ。
いいな!
でも、マールダは、ほとんどその動作が出来てるからあまり成長のアドバイスにはならんな。
スカナ。
お前には魔力訓練を課す。
何発でも神官術が出来るようになれ。
後は無駄撃ちも避けろ。
魔法は使ってもいい時に使い、使っていけない時は我慢しろ。
大切な時に魔法を使えない神官なんて、ただのアホだからな。
それと、異端神官のスキルを真似ようとすんな。
異端は種類が豊富だからな。
お前はシャインと自分を比べちまって、悩むかもしれん。
でも、お前は堂々と通常の神官術のみで成長しろ。
自分は自分。他人は他人だからな。
それに極めれば、必ず皆の役に立つ。
それと、最高の手本がそばにいるんだ。
エルミナをよく見ていろ。
きっと、成長すっからさ。
キザール。
お前も一緒だな。
魔力訓練を徹底して、自分の得意魔法を極めろ。
無駄に四属魔法を扱うことはない。
あれはミヒャルが異常なんだ。
お前はお前でいい。
それに今のお前でも、威力は申し分ないんだぞ。
だから、得意分野の火と風を重点的に鍛えるんだ。
どちらも通じないモンスターなど早々はいないからさ。
この二つをマスターできれば戦いは楽になるはずだ。
ハイスマン。
お前は短絡的な思考をするな。
お前の長所を活かせ。
何でもかんでも攻撃に行くでは、だめだ。
お前の一撃は重たく、強い破壊力を秘めている。
たぶん自分の想像以上のな。
だからこそ、お前は当てるための動作をしないといけないんだ。
無駄に体力を使うのも駄目。
重戦士の疲労はすぐに体に来るからな。
あと、これを忘れんな。
お前は決して弱くない。
結構強い男なんだぞ。
お前がお前自身を上手く扱えていないから、一級どまりなんだと思う。
正直ポテンシャルだけで言えば、オレが記述したメンバーの中でお前が準特級に近いと思う。
だから、自信を持てよ。
あと、雑魚はやめてくれ。
できたら、別な呼び名で頼むわ。はははは
これで皆だな。
最後に念を押すけど、今回の事件は決してお前たちのせいじゃない。
これは言わない方が、ジャスティンがカッコよくていいんだろうが。
オレは言う。
ジャスティンはさ。
最後に、オレたちに生きろって言ったんだ。
あいつ、最後の最後まで俺たちを守ろうとしてくれていたんだぞ。
だから、あいつの意思を継いでほしいんだ。
オレはそのファミリーでは、あいつの意思を継げないからさ。
お前たちにその意思を継いでほしいなと思ってるよ。
頼んだわ。
んじゃ!
みんな、楽しく冒険してくれ。
オレも一人で楽しく冒険するからさ!
冒険者は冒険してなんぼでしょ!!!
楽しんでいこうぜ。
なあみんな!




