第21話 追放
ホームに戻ってすぐの事。
オレを刺す。
冷ややかな視線が痛い。
『貴様のせいだ』
『消えろ』
『目障りだ』
言わなくてもわかる。こんな感じだろう。
ジャスティンを死なせたことで、元々あるオレへの不満が爆発したんだ。
あの伝説の英雄の四人の近くに常にいる、あの忌々しい無職の男。
こんな感じの不満だろうな。
だから、オレはもうすでに決意している。
「ふぅ~。まあ、しょうがないよな。これはさ」
それに、こんな扱いがオレだけだったら別に構わない。
しかし、この扱いが広がりつつあった。
それは、マールダやフィン。
そして、スカナやキザール、ハイスマンにも広がりつつあった。
彼らは、オレの事を必死にかばってくれたんだ。
だからオレの責任の飛び火で扱いが悪くなっていた。
一級冒険者五名。
彼あの扱いが悪くなるのは、ファミリーにとって良くない。
ジェンテミュールの主力だからだ。
単純にファミリーの力が落ちてしまう。
◇
部屋に戻ってすぐにレオンを呼んだ。
あいつはすぐに来てくれた。
「レオ!」
「ルル、どうした。急だな」
「お前が団長だ。だから団長として聞いてほしい」
「あ? 何だよ。あらたまって」
「オレをファミリーから追放してくれ」
「は!?」
滅多に見せない驚いた顔。
そこからレオンはオレを睨んだ。
だけど、オレは決意している。
「頼む! このままでは、ジェンテミュールが崩壊する。冒険者ファミリーの最強格を失うのはギルドとしても大損失だ。それにお前らが、三大クエストに挑戦できなくなるのも嫌だ。このファミリーじゃなければ、あれらには挑戦できない」
戦力がなければ、あれらを突破することは不可能だ。
これだけの戦力をもう一度となると、なかなか難しい。
だから維持しなければならない。
それには、オレが消える事が重要だ。
このまま形を貫かないとな。
「だから、追放してくれれば体面が整う。ジャスティンのことは全部。オレの責任にしてくれ。実際、オレが強ければ、あいつは死ななくてもよかった。救えたんだよ。だから、いいな。レオ」
「嫌だ! 俺がお前を追放だと!? ありえん。出来ない!!!」
レオンが取り乱して言った。
「駄目だ。頼むよ。お前は団長だろ。この大所帯を仕切る団長なんだ。ときには冷酷にいこう。オレが、お前の家族だとしても、切ってくれ!」
「出来ねえ。そうだ。家族だぞ。お前は俺たちの本当の家族だ。兄弟だ。親友だ!」
眉が下がったレオンが言った。
「ああ。そうだ。オレとお前は家族。だから、お前と一緒の冒険者ファミリーじゃなくてもいいんだ。オレたちは、別に冒険者ファミリーじゃなくても、家族として繋がっている。俺はそれで十分なんだ」
「嫌だ。俺のそばにお前がいないのは、無理だ・・・俺たちのそばにお前がいないのは、無理なんだ」
いつも大人なレオンが、子供のような面を見せた。
駄々をこねるように何度も嫌だと言う。
「レオ! ここは、オレにとっても最高の場所だ」
「そうだろ。だから一緒に」
「でも、ここで育った仲間たちも最高の仲間たちだ。あいつらもいずれ、特級まで来るかもしれん。そうなったらこのファミリーは盤石のファミリーになるんだよ。オレでは特級にはなれないし、それに、オレ一人の力を頼りにして、その他大勢を失うのは痛い。あれだけの一級、準一級を揃えるのは難しい。彼らの中にいる特殊な職種の仲間は、中々いないんだからさ」
「・・・そうだが・・・でも」
「レオン。ここは非情でいこう。お前が追放を宣言すれば、仲間たちの不満が散りやすくなり、いいか。オレが勝手にここを出て行くよりも効果が高い。それでお前は、仲間たちを結束させて、このファミリーをより大きくしていって欲しいんだ。それがオレにとっても嬉しいぜ」
これしかない。
責任を押し付ける形が一番まとまりやすい。
マールダやフィンたちに、向かってしまった不満も散ってくれるはずだ。
「・・んじゃ。お前はどうするんだよ」
「ああ、オレはさ。一人でプラプラ旅に出るよ。勝手に気ままにさ。冒険者らしくよ」
「じゃあ、これで最後にはならないよな。絶対に俺たちと会ってくれるんだろうな。じゃなかったら俺は許可しないぞ。今生の別れじゃないんだよな」
レオンは目を閉じて考えた。
「ああ。当然だ。いつか会おう。でも、今は駄目だぞ。団長として、英雄として、すぐにオレに会っちゃあな。示しがつかんもん。でもまた会おうぜ。いいな」
悩み苦しみ。
もがき続けて出した俺の答え。
これに、レオンも悩み苦しんだ。
でもレオンは、最後にオレの意思を。意図を。
最後には必ず汲んでくれる男気がある漢なんだ。
女たらしなのが残念だけど、そういう漢なんだ!
「わかった。それがお前の望みなら、俺は叶えてやりたい。我慢ばかりしてきたお前に・・・それにお前はいつだって俺たちの為に・・・・ああ、すまない。お前には苦労させてばかりだ。俺たちが、もっと上手く仲間と接していたら、こんなことにはならなかったんじゃ。やっぱりちゃんと面接でも何でもして、いや、お前が無職であることを開示していたら、こういう風には・・・」
レオンは下を向いて話していた。
「それじゃあ。駄目だろ。それじゃあ人が集まって来ないぞ」
「でも、集まらなくても、その方がお前に負担が掛からなかったんじゃないのか」
実は、希望の星の人員募集をかけた時、英雄四人を前面に出して、人を呼んだのだ。
その時、オレの存在は伏せていた。
もしかしたら、無職が災いになるかもしれないとオレが先手を打ったからだ。
オレのせいで人が集まらない事にもなりそうだったんだ。
無職が、英雄の評判すらも食い尽くして、誰も人がこないと困るからだ。
まあ、その結果がこれでもある。
ほとんどの仲間がオレを信頼していないのが、この結果に繋がっている。
「レオ! 気にすんな。オレは十分だ。お前たちに幸せを貰ったよ。今度はマジで、影ながらの応援になるけど、いつまでも応援してるからさ。頑張れよっと!」
オレは、自分の拳をレオンの胸に置いた。
すると、レオンは少しだけ笑ってオレの拳を握った。
「・・・クソ・・・最後までいい奴すぎて・・・・わかった。任せろ。お前に恥じないファミリーにする。それだけは絶対に約束するぜ」
「ああ。約束だ。勇者レオン」
レオンとオレは、このような取り決めを裏で決めたのだ。
そして・・・。
◇
ジェンテミュールのホームに、ファミリーが会議を開くために全員集合した。
部屋の中の壁に寄りかかりながら、オレはその会議を聞いていた。
「本日。ジャスティンを死なせてしまったルルロアを追放することに決めた。今日からルルロアは、ファミリーじゃない事になった」
ざわつく広場。
急な出来事に、一級以下の仲間たちが望んでいたとはいえ、ショックが大きいらしい。
実際に起きるとなると驚くのだそうだ。
人って勝手だなと思う。
「ど、どういうこった。レオ! ふざけんな」
「ミヒャル。我慢しろ! 黙っててくれ・・・頼む」
レオンの声に少し違いがある。
家族であるから気付く。
悔しさや悲しみが混じったような震える声だった。
「レ、レオ」
だから、分かる。
ミヒャルもレオンの声の違いに気付いて、追及を辞めた。
「どうだ。皆はこれで満足だろ。ジャスティンは死んだ・・・そして、その事でルルロアが責任を取りいなくなる。それで俺たちは先に進む。いいな。いつまでも過去を振り返り、誰かを咎めるのはやめろ。俺たちはもう二度と誰も死なせないし、追放もしない。いいか。この決定に、誰も文句を言うな。もしだ。これを蒸し返したら、俺はお前らを本気でぶっ飛ばすかもしれん。こ、こんなこと・・誰が・・・好き好んで・・・・」
言葉が詰まりそうになるレオンは、最後に何とか言い切ろうとしていた。
「すまん。ぶっ飛ばすは言い過ぎた。でもそれくらいの覚悟で、俺はルルロアを追放する。いいか。俺たちは前に進むんだ。後ろを振り返るなよ。いいな」
「「はい!」」
「以上で解散だ。部屋に戻れ」
仲間たちが、ぞろぞろと部屋に戻っていく。
誰も声を発さずに静けさが増していくホーム。
オレは、静かに後にした。




