第20話 決心
ジャスティンの墓参りの為に、都市北西にある慰霊碑へと移動してきたオレは、体の傷がようやく癒えたために、やっと念願の場所に行けた。
冒険者ギルドが各大陸に大きな慰霊碑がある。
『勇敢な冒険者たちがここに眠る』
石碑に刻まれている文字は、ここに眠る者たちを讃えるものだ。
ここにいる冒険者たちの内。
どれくらいの人が、入って眠れたのだろう。
冒険者は、眠りにつく時に五体満足ではいられないし、故郷などに帰る事などない。
遺体があるのだって、大変に珍しいんだ。
ジャスティンは骨になっちまったが、ここにいる。
そこだけは、良かったと言えるだろう。
「ジャスティン。やっと来れたわ」
慰霊碑の脇に骨を入れる場所がある。
地面に埋まっていて、管理するのに蓋つきの壺でのものだから、管理が念入りにはなっている。
「これ、オレが持ってた分な。ここに入れておくわ」
レオンたちが先にジャスティンを弔っているので、オレは残った骨をそこに入れた。
フィンとマールダが気を遣って、俺の為に残してくれていた。
あいつらはだいぶオレの事を信頼してくれているみたいだ。
「悪いな。遅くなった! なんか生きてたわ。そこも悪い」
あの時のオレは死を覚悟していたから、生き残った事は想定外だった。
全力で戦った結果が、全身の疲労くらいで済んだのは奇跡だ。
まあ、あの化け物の鎌を受け止めるなんて行為。
そんな事をしたら、即死だからな。
掠っても、ヤバいから当たっていたら、確実に死んでる。
ジャスティンはあれを受け止めて、そして仲間の為に耐えた。
だから凄いんだよ。お前が本物の英雄だ。
騎士っていう下級職のジョブ持ちであっても、絶対にお前が一番の英雄だったよ。
人間の価値は、ジョブで決まらない。
それを証明してくれて、ありがとう。
ジャスティン。
オレも勇気が出たわ。
お前みたいになれるように頑張るぜ。
「うん。ジャスティン……オレ。悪いけど、もう一つも謝っておくわ」
そう言い残して、オレはここから立ち去った。
◇
ホームへの帰りの道中、オレは色々考え事をしていた。
ジャスティンのおかげで、オレの中で仮説が生まれていた。
それは、職にランクがあるが、これは勝手に人間がランク付けしたんじゃないのかという事だ。
そう、神が決めているジョブには、彼女の中ではランクがないように思う。
英雄職以外。
ほとんどが同じなような印象を受けるんだ。
ジャスティンは下級職の騎士。
スカナも神官。キザールも魔法使い。
皆、下級職だ。
でも、一級冒険者になれるくらいに成長ができている。
これはつまり。努力次第で、成長していく事が可能であることの証明だ。
それにオレは、下級職としての騎士や戦士。神官。魔法使いの方が自由だと思う。
こっちの方が良い気がしてきたんだ。
自分で成長の道のりを決めることが出来るからさ。
たとえば、ジャスティン。
彼の成長ルートは防御特化だった。
下級職の騎士は、攻撃系統と、防御系統。支援系統の成長ルートが三つある。
覚えられる技を取捨選択できるのが下級職で、意外と上級職は成長ルートが決められている。
取得できる物が特化しているんだ。
騎士の上級は、槍騎士、盾騎士、剣騎士、聖騎士、暗黒騎士。重装騎士。軽騎士。
騎士の特殊は、竜騎士、魔法騎士、遠騎士、守護騎士
これらは覚えられる技が確定している。
でも下級職の騎士は違う。
ルート選択していけば、これらのミックスで技を覚えることが出来る。
しかも努力次第でだ。
てことは、下級職ってのは案外不便じゃない。
たゆまぬ努力を続ければ、上級職たちにも引けを取らない。
自分自身で、自分がどういう成長をしたいかで、自分の道を進んでいける。
だから自主性がある奴は、どんどん伸びていくんだ。
オレが思うに、下級職で不便だと思うのは、これだ。
上級職の人たちよりも経験値が必要な事だ。
例えば、上級職の人たちが、一つの技を覚えるのに、3カ月必要だとして、下級職だと一年かかるみたいな感じだと思うんだ。
だから、時間が掛かっても諦めなければ、誰だって成長するんだと思う。
人間だからさ!
みんな、同じ人間だから、要は精神力が重要だ。
ジャスティンみたいな心の強さが必須なんだわ。
あいつ、勇者の心なくして、あの化け物に立ち向かえたんだ。
あれが本物の勇者だよな。
オレは、レオンの心を真似たんだわ。それで戦えた。
でもジャスティンは、ジョブが騎士でも、心が勇者だったんだ!
だからオレも本物になろうと頑張るよ。
新たなオレになる。
ジャスティン。
オレもいずれは逝く空で見ててくれ!
◇
ホームの入り口。
玄関のすぐ隣の壁に寄りかかって立っていたのは、ナスルーラ。
しなやかな手で、オレに挨拶していた。
その取り繕わない恰好であっても、簡単に誰かを魅了するのだろう。
立ち姿も手を振る姿も、美しさが際立っているからだ。
「どうも、隊長さん」
「なんだ。ナスルーラか」
「あなた、いつも私に冷たいわね。そんなぶっきらぼうな言い方は、あなた以外、誰もしませんわよ」
今のが、嫌味なのか。本音なのか。
正直、こいつの事はよく分からない。
「は? 冷たくないぞ。普通だ」
「いいえ。私の笑顔に、鼻の下が伸びないのはあなただけですわ」
「いや・・・それはさ。他の奴らがお前に期待しているからだろ。誘惑しているように見えるからな」
「ん?」
「お前の妖艶さに浮かれてるのさ。みんなは、お前に勝手に魅了されてるだけ。美しいものを見て、スケベ心も出ているのよ」
「あら、あなたも? 美しいと思ってくれているの?」
「まあな」
綺麗なのは確かだ。
エルミナとは違った方向の美しさだ。
あっちは神々しい。こっちは、サキュバス系だ。
人の魂と生気を吸いそうだ。
「じゃあ、なぜあなたは魅了されてくれないの。私が美しいのでしょ」
「そいつは、オレが中身派だからだ。ガワに興味がねえ」
「それじゃあ、私の中身がよろしくない」
「んんんん。そいつは、わからん。お前の事、よくわからんもん。だから、フラットだ! オレは人を決めつけない事にしてる」
「へえ」
今日は珍しくも長く話しかけてくる。
いつもはそんなに会話なんてしないのに。
「あなた。何かする気なのね」
「ん?」
「決心してる。顔に出てるわ」
「ほう。なんでわかる」
「私はよく見ているから、誰よりもあなたを見ている。あの英雄さんたちよりもね」
「????」
レオンたちよりも、ナスルーラの方がオレを見てる?
こいつ、オレが好きなの?
いや、そんな素振りはないんだけどな。それにオレ、モテないし。
誰とも付き合ったことがない。
誰か。オレを貰ってくれませんか。
って自分で言うとさらに悲しいから、これ以上はやめておこう。
「まあ、せいぜい頑張りなさいな。次の事もね」
「ああ、お前に言われなくても、オレはやる!」
「ええ」
オレの去り際。小さくて聞き取りずらいが、ここでこんな声が聞こえたような気がした。
「だから、あなたが厄介なのよ。英雄たちの・・・・え・・・・・だから・・・・」
ホームに入ってしまって、最後の方が聞こえなかった。




