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「あ、こんなところにいた!」
ベンチで座っていた私と先輩のところに、走ってきた一人の先輩。
確か、普段から先輩とよく一緒にいる人だ。
「やべっ」
その人が来ると、早馬先輩が嫌そうに整った顔を少し歪めた。
「お前、実行委員の仕事サボって何してんだよ!」
早馬先輩を責めるように話しながらその人が近づいてくる。
と、隣に座っていた私に視線を向けて、その人が小さく、あっと声を漏らした。
「香枝、優妃?え、本物じゃん」
初対面なのに、なぜかその人は私のことを知っているようだった。
「おい琳護、俺の彼女を気安く呼び捨てすんな」
すかさず早馬先輩がその人を睨み付ける。いつも笑顔な先輩の、怖い表情を見てしまった。
なのに不思議と怖くない。それどころかときめいてしまった。
(“俺の彼女”…―――って、私のこと、なんだよね?)
「え?お前フラれたんじゃなかっ「ちょっと黙ってろよ」
早馬先輩の“彼女”なんだという夢のような現実に、私はドキドキが止まらない。だからか琳護先輩と早馬先輩の会話が全く耳に入ってこない。
(私、早馬先輩の“彼女”なんだ…―ー)
熱くなった頬をそっと押さえる。
「マジか…」
琳護先輩が、信じられないようなものを見るように私と早馬先輩を見比べている。
そしてハッと気がついたように私の方に向き直る。
「あ、俺は時田琳護。君、一護と同じクラスだよな?」
「時田…って、もしかして」
私は先輩のフルネームを聞いて、気が付いた。
「そ!あいつ、俺の弟」
一護くんに似た爽やかな笑顔で、琳護先輩がニカッと笑った。




