13
「…―――ひ?」
(ん?――早馬先輩の声?)
夢か…――――。
早馬先輩が私に『俺のものになってよ』とか…唇にキスとか…。
ここまで来ると、早馬先輩のストーカーみたいだ。
重症だ。
「優妃?」
蝉の鳴き声と一緒に、もう一度先輩の声が聞こえてきた。
夢から醒めるように、私は目を開ける。視界に飛び込んできたのは、早馬先輩のホッとしたような顔。
「―――…大丈夫?」
(あれ?夢…続いてるのかな?)
ボーッとした頭でそう考えながら、私は身体を起こす。
そこで初めて、早馬先輩に抱き抱えられるようにして倒れていたことに気がついた。
「あっ、えっ?私…」
パニックになる私に、早馬先輩はクスリと笑う。
「ごめん、俺…余裕なくて。まさか倒れちゃうと思わなくて」
(え?―――倒れ…?)
「優妃が可愛いからつい、」
(“つい”、何ですか…っ!?)
ニコニコと上機嫌な様子の先輩に、私は自分の身に何が起きているのか頭がついていけずにいた。
(夢…じゃなかった?)
私に『俺のものになってよ』と言ったのも?
私にキスしたのも?
「優妃?」
「あの…本気なんですか?」
私は先輩の膝から降りて、少し距離を空けて隣に座り直す。
花壇のすぐ横にあったベンチは、日陰。
先輩はきっと抱き上げて私をここまで運んでくれたんだと気がついた。
「本気って、なんで?」
少し、早馬先輩の表情が曇る。
「だって私のこと…何も知らないですよね?」
恐る恐る、気になっていたことを訊ねる。
早馬先輩と初めて会話を交わしたのは告白されたときだった。
有名な先輩のことを、私は見ていたからよく知っていたけれど、どうして先輩はよく知らない私を選んでくれたのか。
どうしても、そこだけが引っ掛かっていた。
「君が優しい子だって知ってる」
先輩がふわりと優しく微笑む。
「でも…そうだな…。言うなら“一目惚れ”ってやつかもしれないな」
(先輩が、私なんかに、一目惚れっ?)
一体いつ、どのタイミングで見られていたのだろう。
今更なのに、背筋がピンと伸びた。
「だからこれから…俺のこと好きになってよ」
ねっ、と微笑みかけてくる先輩に、夢なのか現実なのか未だに半信半疑のまま、私は頷いてしまったのだった。




