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「………っ」
私は先輩の唇が触れた自分の頬に思わず手で押さえる。頬の熱が異常に急上昇した。
(今、何したの?―――今、なんて言ったの?)
『俺のものになってよ』という台詞が、私の心を掻き乱す。
(アリエナイ。アリエナイ。だって先輩はー―――…。)
素直に頷く事が出来ない理由。それはあの日、告白を断った日の先輩の態度が引っ掛かっていたから。私が断った後、あっさり引き下がっていたし、花火大会にはすでに綺麗な女の人を連れていた。
(本気なのか…信じられないー―…。)
「優妃ちゃん?」
先輩が私の顔を覗き込む。
「あの…私…」
声が震えた。なんて答えるつもりなんだろう、私は。
私の気持ちは、ずっと変わらない。初めて先輩を見た日から。私の中で、先輩は“特別”。
(―――そう。…私は、先輩が好き。)
分かってる。自分の気持ちは。だけど頷けなかったのは、心のどこかでまだ先輩のことを信じられないから。
「付き合ってくれる?」
先輩が、もう一度そう訊ねた。優しくふわりと微笑んで。
(本当に?―――本当に?)
ここで頷けば、先輩は私だけのモノ?
もう他の女の人と付き合わない?
グルグルと考えても、分からない。分かるのは、確かな自分の気持ちだけ。
「優妃?」
私の腰に回された腕が先輩との距離をより縮める。
先輩の瞳が、…真っ直ぐに私をとらえる。
「突き放さないなら、俺は自分の都合の良いように考えるけど?」
綺麗な先輩の顔に見入っていた私は、近付いてきた先輩の唇にそのまま唇を塞がれた――――…。




