仲間
「よし、ここにいるみんなはこれから厳しい道を共に歩む仲間になることだし、自己紹介をしましょう。ではまず、私は篠宮武瑠。このUWWFプロレスの代表であり、篠宮道源の孫です」
次に智也が続いた。
「俺は智也。そこにいるケンジの同級生。さっき叫んだのは修一で、その隣が龍次。口は悪いけど、根はいいヤツなんだ。で、唯一の女の子は綾音。明るくて活発。見た目は可愛いけど、ちょっと気が強いところが玉に瑕だね」
「気が強くて悪かったわね! でも結局、智也がみんなを紹介しちゃうんだから。仕切りたがりなんだよね」
「あ、そうか。ごめん」
智也は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「おお、よろしく! ケンジ、みんなお前の友達か? 可愛いい女の子もいるじゃねえか。何で今まで紹介しなかったんだよ!」
ゲイリーがケンジの背中を叩くと、ケンジはその勢いで1歩前に出た。
「痛てえな! 加減が出来ねえのかよ。 それにこいつらは俺じゃなくて、智也の友達だよ」
「あらケンジくん、私たちは友達じゃないの? え~、冷たい!」
「そうだぞ、ケンジ! 水臭いぞ! 俺たちは友達だぞっ!」
修一は右の拳を握りしめ、天井に向けて突き上げると、自然と涙が滴り落ちた。
「いちいち泣くんじゃねえよ、修一! 面倒くせえ奴だな。殺っちまうぞ!?」
龍次は修一に近寄り、胸ぐらをつかんで睨みを利かしたが、二人の身長差は20センチ以上あり、龍次がぶら下がっているようにも見えた。
「もう! やめなさいよっ! どうせ負けるんだから」
「んだとオオオっ!? やってみねえとわかんねえじゃんかよっ!」
武瑠が止めに入ろうとしたが、それより少し早く、智也が二人の間に割って入った。
「龍次、気持ちはわかるけど、今は違うだろ? 綾音も焚き付けんじゃねえよ」
「けっ!」
「ごめん」
龍次は智也の手を払うと元の場所に戻り、彩音は顔をふせた。
「お騒がせしてごめんなさい。いつもの事なので、気にしないで下さい。龍次は、学校では修一を除いて最強だけど、修一は別格なんです。ま、それでも諦めないのが、龍次の良さでもあるんだけどね」
少し張り付いた空気が流れたが、そういった事はあまり気にしないゲイリーが話し始めた。
「大体わかったぜ。俺はゲイリー。そこのガキは学校で最強かもしれんが、俺は人類最強だ。こいつはケンジ、俺の孫。戦い方は一通り教えてやったのに、ギターなんぞにかまけてやがる」
「別に良いだろ」
「いいや良くねえ。大体お前は……」
話が長くなりそうな予感がした武瑠が、割って入った。
「まぁまぁユングさん、落ち着きましょう。とにかく、ここにいるみんなが誰かわかったね。ではこれからの計画を立てよう。タマオ、何か良いアイデアはないか?」
タマオはまたペンとメモを落とした。
「そ、そうですね、まず皆さんは元老院に顔が割れていますので、もう自宅に帰ることは出来ないわけです。ですから、まずは拠点となる場所とライフラインの確保が最優先です。その後には一人でも多く信じてくれる仲間を増やしましょう。だけど元老院に反旗を翻す事になるので、誘った方々にも危険が及ぶ可能性があります」
「知らないほうが幸せかもしれないね」
「事実を一気に公にしても誰も信じてくれないだろうし、パニックになるよ。だから、まずは信頼がおけて事実を知ってほしい人に、慎重に少しずつ説得していくしかないね」
不安そうな綾音を、智也がフォローした。
「時間がかかりそうだな」
ケンジがため息混じりに呟くと、それを遮るように武瑠が続けた。
「そんなに時間をかけるわけにはいかないよ。来年の今ごろにはまた審判の日が来るからね」
「まず、事実の裏付けが必要です。何か、確固たる証拠があれば良いのですが。その上で強いリーダーシップを持った人が、解決法を持って人々を導く声明を出すのが、今考えられる最善策だと思います」
「解決法ってあるのかな……」
いつもはポジティブに人を励ますことが多い智也が、珍しく少し弱音を吐いた。
「そのリーダーはこのゲイリー・ユング様しかいねぇとして、証拠ってのはどうすんだ?」
「……元老院に戻るしか無さそうだな」
「なるほど。よし! さすが俺の孫だ。じゃあ行くか!」
「ゲイリーさんは有名人なので街中では顔をさしますから、その方が良いかもしれませんね」
武瑠の発言に気をよくしたゲイリーはニコニコして頷いた。
「智也は知り合いが多いんだから、色々と声かけてみてよ。私も友達をあたってみるから」
「お前らはどうする?」
智也は龍次と修一の方へ顔を向けた。
「俺は、強くなりてぇ」
「そうだ! もっと鍛えたいっス!」
龍次の言葉に修一も呼応し、目をつぶって涙を流し続けていた。
「お前らはあの化け物を見てねえからな。いくら強くなっても、意味無えかもしんねえぞ」
少しの間、沈黙が続いた後に龍次が口を開いた。
「例えそうだとしても、何もしねえよりはマシだ」
「さっすが龍次! 俺は感動したぞ!」
「うるせえっ! 顔を近づけるな! 暑苦しいんだよっ!」
二人の絡みに智也と彩音は顔を見合わせたが、武瑠が淡々と話を続けた。
「そうか、無用な戦いはしない方が良いけれど、万が一の時は他の人たちを守れる力が必要になるだろうからね。本来ならうちに来てもらいたい所だが、ここは君たちには危険だ。だからどうだろう、ミゲル。君が彼らの面倒を見てくれないか?」
にこやかな笑みを浮かべ、武瑠はミゲルのほうに視線を移した。
「ナニ? 俺にこのガキどもの面倒を見ろだって!? 冗談じゃないぜ!? 俺はそんな事をするために日本に来たわけじゃない!」
それまでを他人事のように聞き流していたミゲルは突然のことに驚き、武瑠に詰め寄った。
「そうだね、だけどこれは君にしか出来ないし、何より世界を救うためだ。君の家族の事なら、僕が責任を持つ。だからここは僕の顔に免じて、引き受けてくれないか?」
武瑠は深々と頭を下げた。