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【ケンジ】再会

 数ヵ月後、ケンジは時おり疼く左手をかばいながら、とある工事現場で働いていた。


「兄ちゃんよぉ、そんなに頑張っても、頑張らなくても、日当は変わらねえぞ」

 あまりの暑さにへばって座り込んでいる他の作業員を横目に、黙々と作業をこなした。


 新しい現場での仕事帰りに慣れない道を歩いていたら、ネオンが輝く繁華街に差し掛かった。ピンク色の派手な看板がいかにも怪しい雰囲気を醸し出している風俗店の前を、急ぎ足で通りすぎようとしたところで、客引きの男が近寄ってきた。


「お兄さん、ちょっと寄っていきませんか? いい娘がいますよ」

 タオルで汗だくになった顔を拭きながら右手で冷たくあしらいつつもふと顔を見ると、そこにいたのは富沢だった。以前よりやせ細り、かなり老け込んではいるが、間違いない。


「トミーさん!?」


 富沢は一瞬たじろいだが、じっと顔を見てケンジだとわかると、自然と涙が溢れ出てきた。

「お、お前、ケンジか? ケンジなのか? お前、お前なにしてんだよ? どうしてこんなところにいるんだ? なぜ、なぜあの時は来なかったんだ?」


「……ごめん」


「あの時、お前が来なかったお陰で、俺は業界から干されちまったじゃねえか。お前が来なかったお陰で、お前が来なかったお陰で、俺の人生が狂っちまったじゃねえかよお!」

 ケンジは返す言葉が見つからず、ただ黙って突っ立っていた。


「返してくれよぉ、俺の人生、返してくれよぉ」

 富沢はその場で崩れ落ちるように座り込み、時おり嗚咽を交えながら、大声で泣き続けた。どうする事も出来なかったケンジは、富沢の肩にそっと手を添えた。


「俺が言える立場じゃないけど、でもトミーさんなら、きっと大丈夫だよ」

「バカヤロウ! 今はそんな時代じゃねえ。才能あるアーティストやそれをプロデュースする会社なんて、腐るほどあるって言っただろ? 次から次へと新しいのがポコポコ出てきやがる中で、客の目に止めるには、売り方ってのが1番大事なんだよ! 綺麗事だけじゃ食っていけねえ、家族や社員を守るためなら、大手にしがみついていかなきゃいけねえんだよ! ましてや一度干されちまったら、リベンジなんて無理だ。日頃は愛想良くつるんでいたヤツらも、ポストが1つ空いて大喜びだ。俺のいたポジションなんて、今頃は食い散らかされているさ」


 少し落ち着きを取り戻してきた富沢に対し、店の方から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。

「おいじじい! 何サボってやがる? ちゃんと働かねえとクビにするぞ! お前の代わりなんてなあ、山ほどいるんだからな!」


「もういい。行けよ、ケンジ。お前はまだ若いんだ、もう俺に関わるな」

「でも……」


「おい、じじい!」

「はいはい! ただいま戻ります!」

 富沢は無理やり口角を上げて笑顔を作り、手を揉みながら駆け足で店に戻っていった。


「何やってたんだよ、じじいがいねえから肩が凝って仕方ねえじゃんかよ」

「すいません、いやあそこの若いのが店に入るか迷ってやがったんで、勧誘していたんですよ」

「ほう、あの方はお客様なのか?」

「いや、あいつは来ねえみたいです」

「何だよじじい! やっぱ使えねえな!」

「すいません! その代わり、全力で肩を揉ませて頂きます!」

「ったくよお、ちゃんとやれよ~」

 頭を叩かれても笑いながら、富沢は店の中に消えていった。


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