【智也たち】アーロンとユンファ
「ちぇっ、見つかっちゃったあ」
少し幼さが残る小さな顔に、無邪気な笑顔を浮かべながら、オレンジ色のショートカットの女の子が岩の影から顔を出した。
「誰? かわいいね」
悟がゆるんだ顔で周りを見渡すと、真実の目の幹部たちは殺気立って身構えていた。
「あいつはイ・ユンファと言って、S.O.Tの工作員だ。あのロリ顔に油断するなよ。ヤツはテコンドーの使い手で、かなり手ごわいぞ」
李は下唇をかみしめながらユンファを睨んでいた。
「鄭さん、やっと会えたねー」
「何の様だ?」
鄭は一歩前に踏み出した。
「今あんたたちが話していたように、私たちはずっとこの日を待っていたの。気付かれちゃったのは予想外だけどね。まあ、殺ることは同じだけど」
笑顔の消えたユンファが一歩を踏み出そうとしたところ、肩に手が置かれた。
「ユンファ、迂闊に飛び込むのはやめておけ」
岩の影から小柄で細身の男が、姿を現した。
「ああ! アーロン! お前もいたのか!」
カークンが叫んだものの、鄭や李、藤堂は冷静に見つめていた。
「アーロン、久しぶりだな。我々を殺しに来たか?」
「ああ。だが、日を改めた方が良さそうだな」
「え? でも隊長ぉ、目の前に真実の目の幹部が全員揃っているんですよ? こんなチャンス、もうないかもしれませんよ」
「あの老人の気を、お前も感じているだろう?」
アーロンが指差した方向には、ゲイリーが腕組みをしたまま仁王立ちをしていた。
「うん。確かにちょっと強そうだけど、隊長と私がいれば、きっと何とかなりますよ」
「万が一って事もある。鄭の居場所もわかった。今頃は瀬戸が竹やぶを制圧しているだろう。焦ることはない」
「何だって!?」
智也と悟、タマオの声が揃った。
「あんたたち、あれで隠れているつもりだったの? あまーい! あまいよぉ。あんなの、すぐわかっちゃったよぉ。でも安心して。瀬戸っちは優しいから、意味もなく人を殺したりはしないよ。私と違ってね」
「おい! 綾音は無事だろうな!?」
悟よりも先に智也が身を乗り出した。いつも冷静な智也が熱くなっている姿に、悟は驚いた。
「うーん、どうだろうねぇ。心配? あー、わかった! その娘が好きなんだ!」
「こらユンファ、しゃべりすぎだ」
ユンファは舌を出して、アーロンの影に隠れた。
「さっき俺の事を殺人マシーンだとか言ってやがったが、俺たちはむやみに血を流す事はしない。他のエリアにあるお前らの活動拠点を教えたら、竹やぶの連中も無傷で帰らせてやる」
鄭は不適な笑みを浮かべた。
「いや、むしろ追い込まれたのはお前たちのほうではないのか? なぜ今のタイミングで姿を現す必要がある? 我々が資金を得られた暁には、今までのように逃げ隠れをする必要はなくなる。軍備を増強し、大々的にPR活動を行えば、世界中がアイオーンの存在に気付き、今まで事実を隠ぺいしていた元老院の統治に疑問を持つだろう。お前たちは、それを是が非でも避けたいはずだ。だから、彼らが私たちと接触したその日に、姿を表したのではないか?」
「そんなこと言われてもわかんないよ。私たちは任務を遂行しているだけだもん」
そのやり取りを見ていたゲイリーは藤堂に耳打ちをした。
「よぉ、相手は2人じゃねえか。とっ捕まえて、人質交換てえのはどうだ?」
「難しいでしょうね。あのイ・ユンファもかなりの手練れですし、アーロンには、僕たちでは全く歯が立ちません。例えあなたがどれだけ強くても、逃げられてしまっては竹やぶにいる方々に被害が及びます」
藤堂にたしなめられたゲイリーは不満げに腕組みをし、右手の親指で自分のあごひげをジリジリと触りながらじっとアーロンを見つめていた。
「わかっていると思うが、アーロン、その申し出は無駄だ。もし今、私が倒れたとしても全国の同志から次々と優秀な指導者が輩出される。我々は真実を知り、人として、自らの運命を切り開いて生きていく権利がある。その真理がある限り、流れは変えられない。逆にお前たちは、真実を知りたくはないのか」
鄭の問いかけに、アーロンの口角が少しだけ上がり、かすかに微笑んだようにも見えた。
「俺たちは組織人だから、与えられた任務を遂行するだけだ。それ以上でも以下でもない」
「その答えが返ってくるだろうと思ったが、残念だ。ただし、何人たりとも我らの志を妨げる事はできない」
「それじゃあ、交渉決裂だな」
「そのようだな」
「ふん、まあいい。少し時間をやるよ」
「じゃあねっ!」
アーロンに続き、ユンファもウィンクをした後に姿を消した。
「あ! ま、待て!」
藤堂の声がむなしく響き渡った。




