【智也たち】衝撃の真実
「なんだってぇ!?」
ゲイリー以外の3人は驚き、しばらくは茫然としたまま言葉が出なかった。
「そういやあ、道源が言っていたな。全部で8匹だったか?」
「お前が遭遇したのは、東アジアのアイオーン『アレーティア』だ。アイオーンは他にも東南アジア・オセアニアの『ヌース』、東ヨーロッパ・ロシアの『プロパトール』、西ヨーロッパの『エンノイア』、中東・インドの『ロゴス』、アフリカの『ゾーエー』、北アメリカの『アントローポス』、南アメリカの『エクレシア』、そして、全てのアイオーンを司る『ホーラ』の存在が確認されている」
「さらにその上にボスがいるのか……」
さすがのゲイリーもうなだれていると、更に李が追い打ちをかけた。
「それらを同時に攻撃できるまで、この炭疽菌を培養する必要がある。また、先ほども言った通りこの炭疽菌は感染性が極めて高く、ある程度の距離なら空気感染してしまう。アイオーンに放てば、近くにいる我々まで確実に被害が及ぶだろう。従って、この炭疽菌に対する抗体も開発する必要がある」
「てえことは結局、使えねぇってことか?」
「いや、そうでもない。全ての問題に解決策がある。まず我々の仲間は世界各地に存在しているので、8体への同時攻撃は可能だ。さらにホーラが出現しても、生物である以上、十分に勝機があるだろう。抗体もマウスでの実験には既に成功している。但し、これら全てを実現するには、一つ大きな問題がある」
「何だよ、それは」
ゲイリーの問いかけに鄭が下を向いてためらっていると、見かねた李が答えた。
「コストだよ。開発資金がない」
「なんてったってカルト教団だからね、誰もスポンサーになってくれないのさ」
「おいカークン、余計なことを言うな!」
鄭は少し声を荒げた。カークンは肩をすくめて両手を上げ、お手上げのポーズをとった。
「なるほど、色々とわかってきました。私たちがいまここにいる事も、偶然ではなくその問題に起因していますね?」
「さっすがあ! するどいね」
指を鳴らして鄭に睨まれたカークンは、藤堂の後ろに隠れた。
「お前たちには篠宮財団の資金があるだろう。そしてその資金は、皆を救うために託されたはずだ。我々は立場上、元老院首相である篠宮道源の血族と接触する事は出来ない。ましてや金を無心する事など、不可能だ。お前たちはアイオーンの存在を知った上でその存在を排除しようという点で、志は我々と同じだ。我々は多大な時間と犠牲を費やし、ヤツらを倒せる唯一の方法を導き出した。是非とも協力して欲しい」
「な、なぜ篠宮財団のことを知っているのですか?」
不審に思って後ずさりするタマオに李がツカツカと歩み寄り、ぐっと顔を近づけた。
「お前らは上手くやっているつもりだろうが、行動は筒抜けだった。所詮は素人の集まりだな」
睨みを利かす李を引き離しながら、藤堂が話を続けた。
「時間が無いことは、君たちにもわかるだろう? 審判の日は次もまた確実に訪れるし、もうこれ以上の犠牲を払うわけにはいかない。それに、脅威はアイオーンだけじゃないしね」
「S.I.SやS.O.Tですか」
「そうだ。特にこの東アジアでS.I.S長官をやっている沢村は、我々にとって目下最大の脅威だ。情熱的だが非情に冷静で、統率力はもちろん情報収集能力で右に出るヤツはいない。仲間の多くが、ヤツの手によって摘発された」
鄭の後に、間髪入れず李が話し始めた。
「更に悪い事に、S.O.Tは各々が非常に高い殺傷能力を持つ暗殺のスペシャリスト集団であり、その中でも特に隊長のアーロン・ウォンは別格の存在だ。カンフーの達人で、表情一つ変えずに淡々と何人もの人を殺す事ができる」
「よく御存じなのですね」
「うちの鄭と沢村とアーロンは、大学の同級生なんだ」
驚きと共に自分たちが何も知らない事に、タマオは肩を落としてうなだれた。
「私たちも情報収集はしていますが、全く詳細がつかめず、今まで接触した事もありません」
顔を伏せているタマオの前で、カークンが人差し指を立て、左右に振った。
「それは泳がされているのさ。ひょっとしたら、俺たちと会うまで待っていたのかもね。 あいつらは、俺たちを目の敵にしているから」
「父さんが殺されたのも、そのS.O.Tの仕業ですか?」
智也の問いかけに藤堂は鄭と目を合わせ、その後にゆっくりと智也の方へ振り向いた。
「……君のお父さんには僕の事情を理解して頂いた上で、色々と協力してもらっていたから」
「普通に考えれば次期総理と目される大物政治家が、自宅に少年誌の漫画家を住まわすなんて考えられない事ですから、それは納得できます。ただわからないのは、なぜ藤沢さんが自らの政治生命を脅かしてまで真実の目に協力したのでしょうか。非常にリスキーだと思うのですが」
「それは彼の指示母体が緑起会という医師会で、そこには我々の信者が多数在籍しているからだね。初めは組織票目的で色々な人から話を聞いているうちに、次第に信じていったのだろう。僕がお会いした時には既に、どうやってアイオーンの脅威から人類を守るのか、熱心に語っておられたよ。非常に正義感が強い方だったから、人類の行く末を真剣に憂慮されていた」
「ところで、さっき俺らが泳がされているとか言っていたよなぁ、お前らを炙り出すために。ということは、あそこに隠れている娘は、お前たちの仲間じゃなさそうだな」
ゲイリーが指差した方向に皆が一斉に振り向いた。




