【智也たち】真実の目
それからほどなくして、智也に藤堂から連絡が入った。
前回と同じ三人にゲイリーを加え、指示された場所に向かって杉林の中を歩いていると、木材の積み下ろしに使われていたのであろう少し広くなった場所に、かなり年式の古いワンボックスカーが停まっているのが見えてきて、その横に一人の若者が立っていた。
「智也くん、悟くん、そしてタマオさんですね。初めまして、僕はクオン・ソジンと言います。藤堂さんから、皆様をお連れするよう言われました。あちらの方もご一緒ですか?」
腕を組み、足を大きく開いて仁王立ちしているゲイリーに皆が顔を向けた。
「構いませんか?」
「問題ありません。ではどうぞお乗りください」
四人は顔を見合わせたあと車に乗り込んだ。ソジンはドアを閉め、運転席に乗り込むと黙々と運転を始めた。しばらくの沈黙のあと、タマオが口を開いた。
「ソジンさんは、藤堂さんとどのようなご関係ですか?」
「仲間です」
「仲間って、どのような?」
「……」
またしばらく沈黙の時間が流れ、車は森の奥深くに走っていった。
「皆さん、到着しました。どうぞこちらです」
「いてててて、やっと着いたか。腰が割れるかと思ったぜ」
大きな体を折り曲げながら車から出てきたゲイリーの後に続き、皆が降りてきた。
すっかり日も暮れ、ツグミやフクロウの鳴き声が方々から聞こえる暗闇の中、四人はソジンに案内されるまま、目の前の洞窟の中に入っていった。中に入るとすぐに迷彩服を着た二人の警備員がマシンガンを構えて立っており、ソジンに対し敬礼をして出迎えた。
「どうやらただの仲良しグループって感じではねえな」
ゲイリーの呟きにソジンは少し顔を向けたが、そのまま歩を進めた。しばらく迷路のような鍾乳洞の中を歩くと、無数の鍾乳石がまるで大聖堂の柱のようにそびえ立つ空間が広がり、その中央に藤堂と、三人の男が立っていた。
「やあ、遠いところを良く来てくれたね。早速だけど、僕たちの組織を紹介しよう」
藤堂は前に見せた柔和な笑顔で歩み寄り、智也の手を両手で握った。
「ち、ちょっと待って、いきなりで訳がわからないよ。組織ってなんだよ?」
智也はその手を振り払った。
「我々は真実の目という組織であり、私はその代表を務める鄭だ。よろしく」
「真実の目というのは、まぁ一種の宗教団体みたいなモンだね。ただ世間ではカルト教団のように扱われる事が多いけど。ここにいる幹部はみんな60歳を越え、元老院でワームホールの向こう側の世界を体験し、その後に脱走した者で結成されているのさ。目的は、みんなに真実を伝え、人が主導する世界を実現する事。だから、やっている事は君たちと似ているかもね。申し遅れた。私の名前は、カークン・ヨイチョイ。主に情報収集やロビー活動を担当している」
鮮やかなブルーのイタリアンスーツを着こなしたカークンが皆と握手を終えると、その横にいた細身の体に白衣をまとったキツネ目の男が、話し始めた。
「俺は李 小平。アイオーンを倒す兵器を開発している」
「え? え!? アイオーンを倒す? そんな事が、可能なのですか?」
思わず叫んでしまったタマオを含め、他の三人も、にわかには信じられなかった。
「既に完成している、理論的にはな」
「本当にっ!? 正体もわからない相手を倒す兵器なんて、どうやったら出来るのですか?」
「君はアイオーンを見たことがないのか? 私はある。恐ろしい体験だったが、その時に一つだけわかった事がある。それは、アイオーンにも血管があり、脈を打っていた。つまり、我々と同じ、生物の一種であるという事だ」
「それが一体どうしたと言うのです?」
「皆さん、李はね、こう見えても100年に一人の逸材と言われた天才科学者なんだよ。彼は向こうの世界で、兵器の開発に携わっていた経験がある。向こうの世界では、僕たちの想像も及ばない技術がたくさんあるんだってさ」
「どう見えている? カークン、余計なことは言わなくていい」
李はおもむろに白衣から厳重に密封された一つのガラス容器を取り出した。
「これは、私が向こうの世界から持ち出してきたものだ。この中には、この世界には存在しない薬剤耐性遺伝子を持つ炭疽菌という細菌の一種が入っている」
「炭疽菌!?」
「これが生物の肺に侵入すると体の中で繁殖し、高熱、咳、膿や血痰が出て呼吸困難となる肺炭疽を発症し、やがて死に至る。通常なら体内に潜伏してから発症するまである程度の時間が必要だが、これは兵器として改良され、恐ろしいほどの毒性と即効性を持ち、感染すれば直ちに全身にめぐって命を落とす、厄介な代物だ。」
「……恐ろしい。こちらの世界ではまず作れそうにありませんね」
「こういった兵器や武器の開発は、向こうの世界のほうがもう何倍も先に進んでいるな。これをミサイルの先端に取り付け、ロケットランチャーでヤツの肺にぶち込めば、ほぼ間違いなく倒せるだろう」
「そして皆さんを案内したソジンは、スナイパーとしての腕は超一流だ」
藤堂が肩に手を置くと、ソジンは斜め下のどこか一点をずっと見つめていた。
「すっげー。それじゃあすぐにでもやっつけてしまおうよ」
悟の言葉に、真実の目の幹部が皆ため息をついて首を横に振ると、鄭が話し始めた。
「これを使うにはいくつかの問題がある。まず、アイオーンは1体だけではない」




