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【ケンジ】スナッジのメンバー

翌朝、ケンジが人の気配を感じて目を覚ますと、目の前には春樹の顔があった。

「お、やっと起きたな。いつまで寝ているつもりだ、ケンジ。いくぞ!」


「あーっ! お父さんっ! 春樹が帰ってきてる!」

 寝ぼけたままのケンジの肩を担いで連れ出そうとしているところを、朝食の準備をした後、ケンジを起こしに来た瑞希に見つかった。


「シーッ! 瑞希、静かにしろ! なあケンジ、実はあれから俺は、お前のギターが頭から離れなくなって、寝られなかったんだ。だから今日スタジオを予約した。というわけで、行くぞ」


 瑞希の声を聞きつけて佐原夫妻も集まってきた。

「お、春樹じゃないか。久しぶりだな」

「あれ? 髪、また伸びたんじゃない?」

 滅多に帰ってこない息子と久しぶりの対面としては、あまりにも自然に二人は出迎えた。


「親父、お袋、久しぶり。ゆっくり話したいところだけど、あいにく時間が無えんだ。とりあえずケンジは連れていくぜ」

「そうか、自分で目指した道だ、納得いくまでやり切れよ。それとケンジくん、先ほど言った通り、学校には行くんだぞ」

「はい」

「じゃあ、またしばらく帰ってこないかもしんないけど、みんな元気でな!」

 春樹は笑顔で手を上げ、慌ててジーパンのボタンを閉めているケンジを連れて出て行った。


「もう! 結局お店は私一人でやらないといけないじゃない」

「あら、男の子はあれくらいがいいのよ。ケンジくんはあんまりおしゃべりではないけれど、悪い子じゃなさそうだね。しかも、いい男じゃん」

「そうね……」

 瑞希は心配そうに玄関先を見つめていた。


「ねえ瑞希」

「そうね……」


「瑞希、ケンジ君のこと、好きでしょ」


「え?」


「あら、当たっちゃった」

「ちょっとやめてよ! あの子はまだ15才で、5つも年下なんだよ!?」

「ふう~ん、問題は年だけなのね」

「もう! お母さん!?」

 母娘でじゃれあいながらキッチンに戻る二人の姿を、後ろから見守りながら無言で立ち尽くす慶喜の背中には、少しだけ哀愁が漂っていた。


――2重に仕切られた重い防音ドアを開くと、狭い部屋にドラムセット、ベースアンプやマイクスタンドなどが雑然と置かれていた。そして一際目立つマーシャルのギターアンプの横には、昨日ケンジが店で弾いていたギターと、いくつかのエフェクターが並べてあった。


「結局、昨日は何も持って帰らなかったんだって? 瑞希に聞いたぜ。だから昨日弾いていたギターと、他は適当に見繕って、持ってきておいたぜ」

 春樹はそう言ったが、ストラップやピック、更にはエフェクターまで昨日ケンジが使っていた順番通りに揃えられていた。見た目とは裏腹な、春樹の繊細な一面に驚いたケンジが振り返ると、春樹はロビーで見知らぬ男たちと楽しそうに会話をしていた。


「おいケンジ、こっちに来いよ。メンバーを紹介するぞ」

作り笑顔が下手なケンジは、恥ずかしそうに下を向き、頭を掻きながら出てきた。


「こっちのやたら背の高い方がヒロ。ベース担当だ。あんましゃべんないけど、根は優しい奴。で、こっちの横に大きいほうがドラムのタケト。いつも腹を減らしてやがる。二人とも見た目はこんな感じでコワモテだけど、腕は確かだぜ」

 ケンジが右手を差し出すと、ヒロは目を伏せたまま何も言わず、握手をした。ガッチリと大きな手の人差し指と中指は、何度もつぶれたマメのせいで岩のように固くになっていた。


「よおケンジ、俺タケト。よろしくな。お前、面白いギター弾くんだって? でもそんな事はチャッチャと終わらせて、チャーハンと餃子を食いに行こうぜ! 美味い店があるんだよ」

 タケトとも握手は交わしてみたものの、ケンジはいつもこういう時に何を言ったらよいのかわからなくなり、結局下を向いたまま自分の場所に戻り、ギターを担いだ。


「じゃあ早速だけど、これ、俺らのデビュー曲となる予定の楽譜だ。コードだけ見て、お前なりのリフで弾いてみてくれ」

「え!?」

 春樹から楽譜を渡されると、いつも一人で好きな曲のコピーしか弾いたことがないケンジは戸惑い、どうしてよいかわからなかった。

「ダァーイジョウブ! コードだけ守ってくれたら、あとは好きなように弾いちゃっていいよ」


 ヒロとタケトは既にセッティングを終え、音出しを行っていた。ケンジは戸惑いながらも、シールドをギターに挿した。ギターアンプの電源をいれてエフェクターを踏むと、いつも家で近所に気を使いながら出していた音と比べ物にならない、魂を揺さぶるような音に全身の毛が逆立ち、気がついたら指が勝手に動き始めていた。タケトが驚いて春樹を見ると、満面の笑みを浮かべ頷いていた。


 ドラムとベースが音を被せ、そこに春樹の艶やかなボーカルが加わると4人のボルテージは最高潮に達した。いつの間にかケンジは髪の毛を振り乱しながら、夢中でギターをかきむしっていた。気がつくと他の3人は演奏を止め、呆然とケンジを眺めていた。


「そこまでハードな曲じゃないぜ」

 春樹の言葉で我に返ると、ケンジは急に恥ずかしくなった。


「確かに、すごくユニークだ。春樹、こりゃあ飯なんか食いに行っている場合じゃないな!」

「おお、タケトが飯より優先するなんて! ケンジ、お前やっぱすげえな!」

「出前を頼んでくる!」

 タケトはニコニコしてスタジオを飛び出していった。


「リズムの取り方も独特だが、それは俺たちがコイツにあわせた方が良さそうだ」

 ベースアンプのつまみを回し、音色の微調整を行いながら、ヒロが呟いた。

「ああ、その方が面白い。おいケンジ、あんなにノリノリじゃなくていいけど、さっきの感じで行こう」


 出前をたいらげたタケトが戻ってくると、その後は時間を忘れて演奏に明け暮れた。朝からスタジオにこもった4人がロビーに出てきた時には、既に深夜の2時を過ぎていた。


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