【智也たち】S.I.S
「ところでさぁ、あんたアテがあるの?」
「あるよ」
「大体の場所は元老院によって監視されていますよ。大丈夫ですか?」
「うーん、大丈夫だと思うんだけどなぁ」
「も~、ホントに~っ? 見つかったら終わりだよ~」
「綾音も知っている場所だぜ」
「え、どこ?」
「行ったらわかるよ」
智也と綾音、タマオの3人もアジトとなる場所を探すためにジムを出て歩いていると、遠くに智也や綾音の住んでいた街が見えてきた。
「あ~、懐かしいなあ。でも、もう戻れないんだよね」
「戻れるさ」
「え?」
「いや、ずっと先になるかもしれないけど、いつかはきっと戻れるよ」
「不思議だけど、あんたが言うとホントにそんな気がするよ」
「ほ、本当ですね。智也さんはそんな魅力があります」
「なに言ってんだよ! ほら、先を急ごう」
「あ~、照れてるぅ!」
意地悪そうな笑顔で智也の顔を覗き込む彩音に、照れた顔を見られるのが嫌で顔を背けると、そこには坊主頭の少年がじっとこちらを見ていた。
「お、悟か?」
「あ、やっぱり智也? それに彩音も……。何でこんなトコにいるんだ? お前ら天上界に行ったんじゃねえの?」
悟は野球部で1年からショートのレギュラーを務めるほど運動神経がよく、智也や綾音と家も近かったが、いつも太一という幼馴染とつるんで虫取りや近所の探検など子供っぽい遊びばかりしていたので、二人ともあまり良くは知らなかった。
「よお悟、久しぶり。今日は一人か? 太一は?」
「今はランニングだからいねぇよ。家でお菓子を食べながらゲームでもしてんだろ。ところでお前ら何かしたの? さっきまでお前らの家に警察みたいなのが来ていたぜ」
「何だって!? 本当か?」
「ああ。何か色々と聞いて回っていたから、心配していたんだ」
「私たちの家族は無事なの!?」
綾音が詰め寄ると、悟はなぜか頬を赤らめた。
「おお落ち着いて下さい、綾音さん。で、悟さん、始めまして。警察みたいなって、警察では無かったのですか?」
「誰? まぁいいや。うん、何か雰囲気が違っていたんだよね。警察官もいたけど、何やら外国人と一緒だったし」
「その外国人はグレーのスーツを着て、エンジ色のネクタイをしていましたか?」
「あ、そうそう! 何でわかるの?」
「……S.I.Sだ」
「何それ?」
「げ、元老院首相直属の情報機関です。でも妙ですね、聞き込みぐらいなら地元の警察に任せるはずですが」
「お前らの家に行った時は随分長いあいだ出て来なかったぜ」
「ねえタマちゃん、家族が無事かどうかだけでも見に行ったらダメ?」
「今はダメだよ」
困るタマオをかばうように智也が言った。
「分かるけど、心配だよぉ。お母さんたち大丈夫かなぁ」
「俺たちの存在がバレるほうが、家族を危険にさらす事になるよ」
「智也さんの言うとおりです。ここは、我慢して下さい」
「あのさあ悟、俺たちは事情があって天上界には行けなくなったんだ。それで、家にも帰れない。お前も、俺たちと会った事は内緒にしといてくれないか」
「え、そうなの? よくわかんないけど、色々と大変なんだな。わかった、内緒にしておくよ」
綾音は空を見上げ、両親の無事を祈った。大きな瞳には涙が潤んでいた。
悟と別れてからまたしばらく歩き、徐々に住宅が少なくなって緑が増えてくる
と、目の前に竹林が広がっていた。
「あ、わかった! 懐かしい、昔よくここで遊んだね。ここなら修一や龍次もきっと喜ぶよ」
明るく振舞う彩音に対し、智也はニコッと微笑むと、無造作に生い茂る竹を掻き分けながら奥に入り、しばらく進んだところで立ち止まった。
「ここだ」
「ここって、何も無いですよ?」
タマオは辺りを見回したが、ただ竹が生い茂っているだけにしか見えなかった。
「子供の頃から比べると更に竹の根が回っているからわかりにくくなっているけど、その方がかえって都合が良いだろ」
智也が足下をかきわけると、小さな穴が見えてきた。
「入り口は狭いけど、中は広いんだぜ」
二人が身を屈めて中に入って行くと、タマオも慌ててその後をついていった。
「うわ、やっぱ真っ暗だ」
「智也さん、これライト、よかったらどうぞ」
「さっすがタマちゃん、用意が良い!」
「色々持ってきました。3人なら1週間くらいは生きていけますよ」
智也がライトをつけると、全てを見渡せた訳ではないが、それでもかなり広い事がわかった。
「ここは昔、銀山だったらしい。ほら、この先に世界遺産に登録されている場所があるでしょ。 ここからそこに向かって通路があるけど、途中で行き止まりになってる。多分、岩が崩れ落ちたんだね。子供の頃、探検中に足を滑らせてこの穴に落ちた時、偶然みつけたんだ。だから、ここは俺たち以外の誰も知らないはずだよ」
「空気も循環されていますね。どこか他にも地上に通じている所があるんでしょうか」
「天井から竹の根が出ているところが無数にあって、その隙間から風が吹いているんだ。この辺りは新興住宅地だから、まわりの山は削られていずれ住宅が建つ予定だけど、この竹林は地主のおじさんが海外に移り住んで手続きができないから、そのままにしているんだって」
「で、では、当面はこの環境が維持されるのですね。条件的には申し分ないのですが、お二人の家に近いってのが、き、気になりますね。これからもマークされるでしょうし」
智也は頷きながら、話を続けた。
「あの先に地下水があって、そこを潜って行くと、外の川に出るんだ。万が一見つかっても、そこから逃げられるよ」
「え~、それ知らない!」
「綾音、あの頃は泳げなかっただろ」
「うーん、多少の懸念は残りますが、広さも十分ですし、これなら仲間が増えても大丈夫そうですね。脱出経路も確保出来ていますし。では早速必要なものを手配します!」
「お腹減ったし、お風呂入りたい!」
何もないその洞窟内に、無邪気に振る舞った綾音の声が響き渡った。




