【ミゲルたち】出発
その頃ミゲルは走っていて、その後ろを修一と龍次は必死に追いかけていた。
「そんなに急いでどこに行くんスかっ!?」
体力には自信のあった修一もついていくのが精一杯で、龍次は少し遅れだしていた。ひたすら走り続けるミゲルは止まることなく、何も答えない。
「おい! 黙ってちゃわかんねぇだろうが! ぶん殴るぞっ!」
龍次の声にミゲルは急に立ち止まり、振り返った。
「あ? お前が私をぶん殴る? 面白い、やってみろ。少しでも触れられたら言う事を聞いてやっても良い。お前ら二人まとめて来い。安心しろ、殺さないから。ただそれで諦めろ」
「んだとぉおっっ!? 舐めんじゃねえ!」
龍次が飛びかかり、修一もそれに続いた。それからほどなく二人とも瀕死の状態で意識を失っていた。
どれくらいの時間が経ったのかわからないが、少し意識が戻った修一は口に溜まっていた大量の血を吐き捨てた。
「おー、良かった、生きていたか。かなり手加減したつもりだったけどな。お前らの実力がそんなモンなら悪い事は言わない、もうそこで寝ていろ」
少しやりすぎた事を後悔しながら二人の様子を見ていたミゲルは安堵し、その場を立ち去ろうとした時、右足のくるぶしあたりを修一が掴んだ。
「ち、ちょっと気を失ってただけっス」
左足を見ると、龍次の右手の中指が、少し触れていた。
「残念だけど、言う事は聞いてもらわないとな」
龍次がそう言い終えると、また二人とも気を失った。
――「イツッ、ここは?」
次に修一が目を開けると辺りは真っ暗で、ゴォーッというエンジンの音がけたたましく鳴り響いていた。まわりを手で探ると、横たわっている人らしきものに触れた。目を凝らしてよく見てみると、そこにはまだ意識を失ったままの龍次が横たわっていた。
「あーっ! おい龍次、大丈夫か!?」
「静かにしろ。ここは飛行機の貨物置き場で私たちは密航者だ。見つかったら連れ戻されるぞ」
「何だって? どこに行くんスか?」
「メキシコ、俺の故郷だ」
「メキシコ? 何が何だかさっぱりわかんないス」
「……俺には来年で45才になる母と15才になる妹がおり、今はある組織の管理下にいる。その家族を日本へ連れて来る」
「失礼ッスが、その組織ってのは?」
「ラ・エルマノス。いわゆる、マフィアだ」
「そうスか……」
「これは個人的な問題だから、お前らは勝手にしろ。ヤツらは手強い。お前は多少素質があるから生き延びるかもしれんが、こいつは確実に死ぬ」
「だから、それを鍛えてくれんのがてめえなんだろうが」
「今ごろ目が覚めたか」
「龍次、大丈夫か?」
血が滲んだTシャツの上から脇腹をおさえ、龍次は起き上がった。
「確かに修一のほうがガタイは良いし、今までだって俺は一度も勝った事はねえ。だけどな、まだ勝負はついてねえんだ。俺はしぶといぜ」
「龍次、寝てろよ」
気遣う修一の手を振りほどき、龍次は話し続けた。
「あのよ、俺はあんたについてくぜ。そんな話を聞いてほっとくわけにはいかねえし、どうせメキシコ着いたって他にやる事ねえし」
「俺もっス」
「勝手にしろ。ただし、今のままじゃ確実に死ぬ。向こうに着いたら、少し鍛えるぞ」
「本当っスか!? やった!」
多少は気を使い小声だったものの、修一はいつもの通り涙を流しながら拳を突き上げていた。龍次はもちろん、ミゲルも慣れてきたようで気にする様子もなく飛行機は一路メキシコを目指していた。




