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三叉路

「何とかお願い出来ないか、ミゲル」


 日本に来てから武瑠に何かを頼まれた事は初めてだったので、断るわけには行かないと薄々は感じていたが、ただ戸惑っていた。


「チッ、勝手にしろ。ただしついて来られなかったヤツは知らないぜ」

 頭をかきながら、無造作にドアを開け、ミゲルは出て行った。


「ミ、ミゲル!」

 おろおろとするタマオの肩に、武瑠がそっと手を添えた。

「大丈夫だ。あいつは今ごろ身支度をしているさ。君たちも準備をしたほういいね。タマオ、彼らに合う着替えなどを用意してあげてくれ」


「は、はい! じ、じゃあ、ついてきて下さい」

 タマオは龍次と修一をロッカルームに案内した。ここには住み込みの若手も多く、服や日用品は数多くストックされている。二人か出ていくのを見届けた後、武瑠が話を初めた。


「今回はミゲルに取っても重要な修行になるでしょう。彼は口にはしませんが、誰にも頼らず生きていけるだけの強さを求めています。肉体的にはこのまま鍛えていけば、間違いないなくユングさんの後を継ぐような逸材になるはずです。


 ただ精神面は非常に脆い。人を信じないのはこれ以上傷つかなくても良いように、彼なりの防御策なのです。ただこれからも彼を騙そうとする人や、利用しようとする輩は後を絶たないでしょう。


 そんな時にまわりの人々を守るためには、心を閉じるのではなく、強い志を持って皆を支えられる存在にならなくてはいけない。きっと今回は彼にその事を問う試練が必ず訪れるはずだと、僕は思っています」


「心を許しあえるような仲間になれたらいいのにね」

「なれるさ」

 心配そうにうつむく綾音に、ケンジが力強く答えた。


「お、ガラにもなく熱くなってんじゃねえか」

 ゲイリーはケンジの頭を揉みくちゃに撫でた。ケンジはいつもの事と、半ば諦めていた。


「でもケンジくん、元老院は今回の事もあって、警備をより一層厳重にしているはずだ。ユングさんは問題ないとしても、君は大丈夫か?」

「こいつは大丈夫だ。いつも俺が暇つぶしにスパーリングの相手をしてやっていたからな」

「何度かは本当に死にかけたぜ」

「今じゃあそこら辺のヤツらよりはよっぽどマシだ」

「そうか、ユングさんがそう言うのなら、きっと大丈夫ですね」


 武瑠が話を終えたと同時にドアか勢いよく開き、タマオが叫んだ。

「ミゲルと、彼ら二人が出発しました! 行き先はわ、わかりません!」

「そうか。後は信じて待つだけだ」

 武瑠にはミゲルの向かった場所は見当が付いており、穏やかな笑みを浮かべていた。


「よし、じゃあ俺たちも出発するぜ!」


「わかりました。ただ無茶はしないで下さいね。無理なら他の方法を考えましょう」

 武瑠の言葉に小さく頷き、ゲイリーに引きずられながらも、ケンジは勢い良く飛び出した。


「今、そこから逃げてきたばかりなのに。一体、どこにあれだけのエネルギーがあるんだ?」

「それについていけるケンジも凄いね」

 あきれる智也と、その横で綾音が微笑ましく見送った。しばらく窓から出て行ったゲイリーとケンジを見守っていた武瑠が二人の方へ振り返った。


「さて、君たちはどうする?」


「そうだね、俺たちも悠長な事は言っていられない。まずはみんなの居場所を作らないと」

「あの人たちがいつ戻ってきても良いようにね」


「他の人たちがアクティブだから、君たち二人がまとめ役になった方が良さそうだね。タマオが君たちを手伝うし、もちろん僕も力になるよ。必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ」


「有り難うございますっ!」

 武瑠の暖かい言葉に、智也と彩音は少し勇気付けられた。

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