ふしんしゃのクエスト
主人公の名前は本郷剣斗です。
こちらの世界では、ケントと名乗っています。
「にぃに、むらいくのはじめて?」
「そうだな。半月もいたのに、あの教会に籠もりっきりだったね」
「なんでー?」
「きっと居心地が良すぎたんだろう。ああいう大所帯で暮らした事はほとんどなかったし」
「たのしかったー?」
「ああ、とっても」
「えへへ、よかった。にぃに、あまりわらわないから、てっきりいやいやいるのかとおもってた」
「俺自身はかなり笑ってるつもりなんだけどなぁ」
「そうなんだ。にぃにのかお、かちかち」
「ああ、かちかち」
教会を出て約30分。
俺の手を繋いで歩いているのは、癖のある赤毛が肩上でカールを巻いている少女カリーちゃん。
教会では一応年長の部類に入る。
女の子に年齢を聞くのは失礼だが、自己紹介の席で9歳だと言っていたのを思い出す。
なので、まだまだ成長途中。
背もちっちゃい。
平均よりもたぶんちっちゃい。
カリーちゃんは俺の手を繋ぐためにほとんど真上に手を挙げていた。
一緒に歩いているのは、そのカリーちゃん一人。
他の子達はお留守番。
但し、手を繋いでいない俺の手の上で2匹ほどスヤスヤと寝息をたてていたけどね。
「村まではまだかかるのか?」
「うん。あとはんぶん」
つまり、教会と村の間には1時間の距離があるということである。
もちろんそれは子供達が歩く速度で1時間。
歩行速度が人よりも1.5倍以上ある大人の俺だと、30分はかからないだろう。
目的地である村の名はウルス。
人口は100人もいない小さな村だという。
俺達はそのウルス村にあるギルドに向かっていた。
「カリーちゃんはよく村に行くのか?」
「ううん、たまにだけ。みんなでじゅんばんに、かくにんしにいってるの」
「確認というと、ギルドに集まってる村人の依頼をかな?」
「それもあるけど、くえすとがでないかも、かくにんしてるの」
聞けばギルドでは、村人が困っている事を解決するための依頼所となっているようだった。
俺が期待していたギルドとはちょっと違う。
モンスター退治の依頼もなければ、ギルドランクとかいうシステムもウルス村のギルドにはない。
ちょっとしたお願い系の依頼所みたいなものであるとのこと。
草むしりや荷物運びのお手伝い募集とか、あれが欲しいこれが欲しいなどなど。
報酬も大したものはないらしい。
その報酬もお金ではなく、基本的に村人が手元に余らしている物を報酬としている場合が多い。
だから仕事の内容と報酬が釣り合わない事もあるし、頑張り次第では報酬の上乗せピンハネも日常茶飯事。
ただ、昔は本当にギルドだったらしく。
辿り着いた先の建物は、明らかに他にある建物――村人達の家よりも大きな建築物だった。
「お邪魔しまーす」
「だれもいないよ?」
ギルド跡を利用しているので、ギルドと呼ばれている。
中は閑散としていて、誰もいなかった。
カウンターはあるもののテーブルなどは一切なく、ただ広い部屋だけが広がっている。
奥に向かう扉を空けてみると、どうやら倉庫としても使われているようだった。
「村人の依頼は?」
「にゃー」
目を覚ましていた子猫――ミントちゃんが木造の床をとてとてと歩いて教えてくれる。
その先では、一足先にカリーちゃんが村人の依頼内容を眺めていた。
ちなみに、もう一匹いる獣人は子犬のビックスである。
あの一番元気な少年だった。
余程俺の手の上が心地好かったのか、まだ寝ている。
好い加減起きてくれると嬉しいのだが。
「何か良い依頼はあったか?」
ふるふると首を横に振るカリーちゃん。
村に来るのは毎日じゃないとの事だが、それでも出来そうな仕事はみんなで頑張ってやっているそうなので、すぐに依頼は尽きてしまう。
村人達も基本的に自分達で出来る事は自分達でやっているので、そんなにポンポンと依頼が出てくる訳でもない。
そして何より、ウルス村に住んでいる村人同士で解決してしまう事も多い。
結果、掲示板に書かれている依頼内容は、ほとんどが誰にも解決出来そうにないか、とても大変な仕事しか残っていないようだった。
「でも、これならにぃになら出来るかも」
そう言って指差した先は、ちょっとどれを差しているのか分からない。
なのでカリーちゃんの身体を抱っこして、もっと近くで差してもらう。
流石に9才ともなると、片腕だけだと結構辛かった。
「何て書いてあるんだ?」
「ええと……わかいおとこのひと、ぼしゅう。じゅうにさいいじょう。どくしん。しごとないようはかいてない。でもほうしゅうはすごい。いえとはたけのりょうほう」
永久就職じゃないか、それ。
お婿さんを募集してるのは分かったけど、ここに残っている時点で悪い予感しかしない
向かったら最後、何をされるか分かったものじゃないな。
「にぃに。もしかして、じ、よめない?」
「うむ、読めない」
異世界クオリティ万歳。
とはいえ、取得可能な才能一覧の中には語学というものがあったので、恐らくそれを取れば間違いなく字を読む事ぐらいは出来るだろう。
ただ、まだ取る気はなかった。
俺がこの世界にいる人達と明らかに違う点。
それは、才能ポイントなるものを消費することで、自由に才能を取得出来るという事だろう。
隠密Lv1という才能を手に入れた時点でようやくステータス画面が見れる事に気が付いた俺。
別にステータス画面を開くのは口で言う必要はなく、最初から視界の外に表示されていた。
ただ視界の外側にあったので気が付かなかっただけである。
視界の外側、というのはどう説明すればいいのか。
いわば、見えていない黒い部分である。
見えていない所を見るというのは言葉的になんか矛盾しているが、そう表現するしかない。
見えるし分かるのだから仕方がない。
これならいっそ脳の中に思い浮かぶ方が分かりやすいというのに。
でだ。
この才能一覧ウィンドウは、誰にでも見えるらしかった。
但し見えると言っても、俺以外の者は取得している才能しか見る事は出来ない。
俺のように、取得していない才能まで見れる訳ではない。
この辺りも特別仕様か。
まぁ隠密以外のLvは全部0だったが。
そしてもう一つ違うのが、才能ポイントという数値があったこと。
22という数値がそこには書かれてあった。
推測しなくてもすぐに分かる。
このポイントを振って欲しい才能を取得しろという事なのだろう。
あまり拡大解釈するものでもないので、俺はこれをチート機能とはまだ断定していない。
22という数値は、俺の推定年齢と同じ値である。
なので、俺はこの才能ポイントを、この年齢になるまでの人生を経験する事が出来なかったため、それを補うためのものと考えている。
ならばサッサと才能ポイントを振って才能を取れと思うだろうが、少し気になる点があったため俺はまだ振っていなかった。
それは、才能一覧の右下に少し離れた場所にポツンとある才能……というか、文章。
女神様に全ポイント献上!
ものすっごく怪しいそんな文章が書かれてあった。
ここで一つ思いだそう。
俺はまだ、例のクエストは達成出来ていない。
例のクエスト――即ち、神様クエスト『最初に出会った人に、絶対に優しくする』である。
教会で暮らしている子供達および念のためユキさんも含めて、俺は全員に優しく接している。
たまにイラッとくる事もあったけど、出来る限り温厚に徹していた。
が、未だにこのクエストは達成出来ていない。
つまり、このクエストはそういう事かも知れないという疑念が残っていた。
最初に出会った人、イコール、あの女神。
これがいったいどういう意味合いを持っているのかは分からないが、最上級のクエストだと思われる神様クエストとして出されるぐらいだから、やはり超レア級の報酬が用意されている可能性が高い。
ただ、どうも胡散臭さが際立っていて、まだ踏ん切りがつかなかった。
「にぃに、かおかちかち」
「ん? ああ、ごめんごめん。この依頼は、たぶん受けるべきじゃないだろうなぁ」
「なら、これは? ふしんしゃをはっけんしたら、すぐにそんちょうにしらせてください。ほうしゅうははずみます、だって」
「それ、依頼じゃないだろう……」
「ううん。たぶん、これにぃにのこと。そんちょうさん、たぶんくえすとはっせいしてる」
「……そうなのか?」
「まりんちゃんが、にぃにはふしんしゃだっていってた」
「いや、それは……」
「それに、わたしにもさっき、くえすとはっせいした。ふしんしゃを、そんちょうさんのところまで、つれていくっていうくえすと」
俺が不審者である事を疑っていない少女の瞳が物凄く痛かった。
俺、そんなに不審者に見えるかなぁ……。
「にぃに、とくないの?」
「ん? ……とく?」
「うん、とく。とくがないと、かみさまにきらわれるってねぇねがいってた。だから、みんながんばってくえすとたっせいして、とくためる。じゃないと、ふしんしゃになる」
「まさか……ふしんしゃって、変な所があって疑わしい人って意味じゃなくて、神から嫌われる存在、不神者ってことか?」
もしくは信仰心がないから、不信者か。
「よくわかんない。にぃに、とくみればわかる。ひゃくないと、きけん。くえすとはっせいしなくなる」
なるほど。
神様クエストのあれは、《徳》を俺が手っ取り早く手に入れるための神様からの忠告だったのか。
確かにクエストはこの世界では結構重要な位置をしめるようが気がしている。
場合によっては生命線となっている可能性もある。
例えば、商人が急ぎの用事で隣町に行こうとした時。
もし街道で盗賊が待ち伏せしていれば、《徳》が高い者はクエストが発生する。
そのクエストは急ぎの用事とは明らかに反していても、結果的に命や商品を守り通す事が出来るならば達成する価値はあるだろう。
逆に無視すれば、最悪で命まで失う事になる。
そして、《徳》が低い者はそもそもクエストが発生しない。
普段から護衛を雇うなどして気をつけていれば助かるだろうが、もし起こるトラブルが盗賊ではなく崖崩れや落石などの自然災害だったらどうだろうか。
そんなどうにもならない運命も、クエストがあれば助かる可能性が出てくる。
クエスト達成の報酬で手に入るという《徳》は、意外と重要なものだという事が理解出来た。
「にぃに、いくつ?」
「……ぜろ」
「ふしんしゃ!」
正直に答えたら、指を差されながらハッキリ言われました。
なんか、こんな小さな子供から言われると胸にザクッと刺さるなぁ。
初めて教会を訪れた時とはまた違った意味で傷付いた。
ちょっとここでキャラクター整理。現時点でのザックリ設定です。
本郷剣斗……主人公。元3X歳のサラリーマン。永遠の若さを手に入れて、現在22歳?。
ユキ・ホワイトスノウ……水色のセミロングヘアー。穏やかな瞳。おっとり系。面倒見の良い少女。推定15歳。160センチぐらい?。火属性の魔法が得意
カリー……肩上までの赤髪でカールを巻いている。9歳の少女。
ミント……子猫の獣人。女の子。
ビックス……子犬の獣人。男の子。元気です
マリン……ツァイラーグ種族の少女。ケントの気配隠しを見切る。
クリス……少年。5歳ぐらい。
ポッポ……鶏もどき。メス




