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滅亡世界の果てで  作者: 漆之黒褐
第2章
32/52

漢ケント、奴隷屋にて悩む

主人公の名前は本郷剣斗です。

最初はケントと名乗っていましたが、現在はサイ・サリスという偽名を使用しています。

 儂はキロスの街の門番。

 この道40年のベテランじゃ。

 若くしてこの道を選び、以後ずっと毎日を街の門と過ごしておる。


 門番としての仕事は実に退屈な内容じゃった。

 が、色々と嬉しい事も多くある。

 門を通るには通行料を払わなければならぬのじゃが、実は固定料ではない。

 門番になったばかりの頃はとても驚いたものじゃが、この街で門番の仕事に払われる給料というのは無い。

 つまり、ただ働き。

 その代わりに、通行料から一部差し引いて自分の懐に収める仕組みとなっておった。


 基本的に通行料は全て領主へと届ける事になっておるのじゃが、過去に何をどううまくやったのか、この様な制度にしたのじゃと先輩方は語る。

 当時は随分と混沌としておったからな。

 まぁそういう事もあるのじゃろう。


 そんな訳で、この門の通行料は一定ではない。

 商人ならば品物の数によるし、貴族ならば身分によって異なる。

 どちらも見栄を張り多く通行料を払ってくる者もいれば、ふっかけていないのに高いとぬかし脅してくる者もいる。

 その時々によって値引きし、もしくは割り増しで通行料をせしめる。

 初顔は当然の事ながら高額、顔見知りになれば徐々に下げていく手法もとっておる。

 故に、儂の声一つで門番という仕事の実入りは良くもなり悪くもなる。


 通る人の数、景気の善し悪しでも酷く変わる。

 銅貨1枚で勘弁してやる事もあれば、銀貨1枚をふっかける事もある。

 じゃがあまりふっかけすぎると、怒り狂った通行人によって殺される事もある。

 銅貨1枚だけでも徴収しようとして殺された同僚も数知れずじゃ。

 故に、実入りがマイナスになる事もままあった。

 つまり、門を通ってもらう為に儂等が通行料を払わねばならぬ時もあった。

 今ではそういう事も少なくなったし、昔は魔族が通るたびにかつあげされてもおった。

 最も就きたくない仕事1位に堂々君臨しておったくらいじゃしの。

 はて、何故儂はこの仕事に就こうと思ったんじゃったか。

 まぁ、そういう場合には領主へと届ける金の料を減らすだけじゃったがの。


 しかしそんな事はこの仕事での苦楽の半分にも満たない。

 門番になって本当に良かったと思うのは、門を通る金の無い者達が現れた時じゃった。

 特に見目の良い女を連れている男か、女本人が門を通りたいと申してきた時。

 力の弱い者はお金を持つ事が出来ず、お金を稼ぐ為には街に入らなければならない。

 外でいくら狩りをして獲物を捕ろうとも、それを売る為には街に入らなければならぬ。

 そういう場合、通行料の代わりに獲物の一部を支払ってくる者もおったが、何も失う事のない身体で払ってくる者もままおった。

 時には獲物での支払いを拒み、こちらから身体で支払えと言う事もあった。

 門番とは、実に美味しい仕事じゃった。

 実入りが良い時には女を買って抱く事も出来たしの。


 じゃが、今となってはそれも叶わない。

 老いた身体では、もはや女を抱く事も出来ぬ。

 昔は遊ぶ金が出来れば女を買いに走ったというのに、今では金は貯まる一方。

 妻も子もいない儂には、その金を残す相手もいない。

 じゃから、最近では危険で実入りの無い夜の番を自ら進んで行っていた。


 今にして思えば、儂が若かりし頃も老いた先輩方が夜の番を文句一つ言わず行っていたのを思い出す。

 なるほど、こういう事じゃったか。

 もはや楽しみも無く、ただ老いるだけの人生。

 門番として長く生き過ぎた為、それ以外の生き方をすればあっと言う間に死んでしまう事じゃろう。

 こうして一人寂しくただ立っておるだけじゃというのに、全く以て苦痛ではなかった。

 人とは、本当に不思議な生き物じゃて。


「こんばんわ。通って構わないか?」


「おや、こんな夜更けに街に到着ですかな。大銅貨1枚になりますじゃ」


「大銅貨1枚……これで大丈夫か?」


「綺麗な貨幣じゃの。問題無い。通りなされ」


 人とは、本当に不思議な生き物じゃて。

 お金は別に必要じゃないというのに、つい昔の癖で倍以上の金をふっかけてしまった。

 今の相場は銅貨3枚が通行料となっておるというのに。

 初顔の旅人さんにはちょっと悪い事をしたかの。


「時にお主、随分と堂々としておるが、腰巻き一つの身の上でも盗まれる物はあるから注意しなされ」


 じゃから、ついついお節介な事を言ってしもうた。

 男は背が高かったが、ヒョロッとした身体を惜しげもなくさらし、腰巻き一つという身なりじゃった。

 追い剥ぎでもあったのじゃろうかの。

 普通ならばもう少し身体を縮込ませて戦々恐々としておるものなんじゃがな。

 なのに背筋をピンと伸ばし、堂々と儂に話し掛けてきおった。

 余程魔法に自信があるのじゃろう。


「命を取られると?」


「違う違う、髪じゃよ」


「か、み……?」


「見た所、お主の髪質は大変良さそうじゃの。それだけ良ければ、その髪を盗んで売り払おうと思う者もこの街には多くおる。カツラは中年貴族の必須アイテムじゃ」


 儂の髪もカツラじゃしの。


「御忠告、感謝する。感謝ついでに、奴隷を売っている場所を知ってたら教えてくれ」


「自分を売るのか?」


「まさか」


 最初からどうも顔がだらしないと思っておったら、そういう事じゃったか。


「奴隷屋なら、そこの通りの突き当たりを左に曲がれば見つかるじゃろうて。娼館もすぐ近くにたくさんある。宿屋は反対の右じゃな」


 服より何より奴隷を求めるとは、本当に人というのは不思議な生き物じゃて。

 男は儂に礼を言って、儂が指し示した通りへと消えていった。

 儂はこんな仕事をしている手前、随分と目が良いのじゃがな。

 男が足早に通りを進み、迷う事無く左に曲がったのが良く見えたよ。

 あの若さが本当に羨ましい。

 儂も後30年若ければ……。


「月が綺麗じゃのー」


 男から受け取った大銅貨を眺めながら、今日という長い夜はこの綺麗な貨幣と共に過ごすと儂は決めた。











「ここが目的地か」


 何処の誰だか知らない貴族が治める、これまた何処の土地のどの場所にあるのか分からないキロスの街中で、俺は初めて見る感動に打ち震えていた。

 街の大きさは、ざっと見てもまだ皆目検討がつかない。

 山や高台の上から見下ろす機会があれば分かっただろうが、生憎と見渡す限り荒野が続いた平坦な道を歩き続けて辿り着いた街なので、なかなか大きな街という事しか分からなかった。

 レベッカ曰く、このキロスの街は奴隷の宝庫だという。

 そう言うからには、それなりの規模の街だろう。


 前いた世界では、奴隷屋というのはまず存在しなかった。

 勿論、世界中を捜せばそういうのは幾らでもあるだろうが、暮らしていたのが先進国だったので、そういうのはゲームや漫画、アニメの中でしか馴染みはない。

 だから現実に奴隷屋という店を見つけた時、身体の奥底から熱い何かが迸り魂を燃やすのをこの身と心の両方で実感した。


 更に嬉しい事に、手元には大量の資金。

 神様クエストを達成した事で手に入れた能力(アビリティ)〈アイテム空間〉。

 魔法のカテゴリーではなく、何故かスキルの枠になっていた夢の力。

 その力を早速使ってみた所、中には金銀銅に彩る大量の貨幣が入っていた。


 日本円換算にして、約1200万円。

 全て金貨に両替すれば、この世界では約40枚相当の大金。

 間違いなく、俺が以前いた世界で貯め込んでいた金だった。

 何処のどの神様かは知らないが、中々に粋な事をしれくれたものである。


「おや、いらっしゃいませ。当店にどの様な御用で? ゲヒゲヒ。身売り希望ですかな?」


 店に入ると、でっぷり太ったゲヒゲヒ笑う男が現れた。


「奴隷を買いたい」


「……失礼ですが、今お金をお持ちですかな? ゲヒゲヒ。当店では一番安くても大銀貨5枚からとなっております。見るだけならその10分の1を支払ってもらう事となっています。ゲヒヒッ」


 大銀貨5枚、つまり15万円相当か。

 学生卒の一ヶ月の給料でも買える値段とは、果たして高いのか安いのか。


「ゲヒッ。これはこれは失礼致しました。その様な身なりでしたので、てっきり。して、どのような奴隷をお求めでしょうか?」


 などと言いながら男は指を弾く。

 すると奥の扉が開き、使用人らしき見目の良い女が飲み物を持ってきた。

 使用人というか、メイドだろうか。

 年はあまり若くないが、白いエプロンを付けてロングスカート姿、紺色の服を着ていた。


「若い娘を」


「こちらの女などいかがでしょう? 安くしておきますよ、ゲヒゲヒ」


 何となく予想はしていたが、売れ残りを押し付けようという魂胆が見え見えだった。

 女は見目は悪くないが、わざわざ奴隷として買おうと思う程でもない。

 仕草は完璧で使用人としてならば合格だし、恐らくそっちの方面でもかなりの熟達者だろう。

 だが、いらないの一言に尽きた。

 領地でも持って侍従を必要としているならば兎も角、ただの一般人である俺の様な独り身の者が最初に買う奴隷としてはあまりにも似付かわしくない女性だった。


「若い娘を」


「彼女は才色兼備、床上手でありながら破格の大銀貨5枚という大変お買い得なお値段となっておりまして。ゲヒッ。是非お買いになってはいかがでしょうか?」


「若い娘を」


「本来ならばこの服は非売品でして返して頂く決まりなのですが、追加で大銀貨1枚を支払って頂ければお譲り致します」


「若い娘を」


「では、こういうのはどうでしょう? これから紹介する娘達をお買いになり、尚かつ彼女も身請けして頂けるならば、総額の1割を差し引くというのは。とてもお得ですよ、ゲヒヒ」


 随分しつこいな。

 クエストでも発生しているのだろうか。

 女の顔は悪くないし出るところもしっかり出ているので条件は悪くないが、何となく怪しかったのでパス。

 一気に連れが二人増えるのも大変だしな。

 最初はソフトに、二人きりでしっぽりとだ。


「若い娘を。それ以外はいらん」


 出来れば巨乳を希望、と心の中で付け加えておく。


「左様ですか。では、こちらにどうぞ」


 使用人の女をその場に残して奥の部屋へと向かう。

 通された部屋でソファーに腰掛け、ほっと一息。

 かなり勇気を絞って平静を装っていたので、手の平は汗まみれだった。











「お待たせ致しました。ゲヒゲヒ。それでは順にご確認ください。まずはこの娘です」


 暫く待たせられた後、ゲヒゲヒ男は一人の娘を連れて部屋に入ってきた。


「おは、おはつに……お初にお目に、かかりま……かか、りま……す……いやっ、痛くしないで!」


 最初に現れたのは小柄な体格に金色の髪と耳、尻尾が特徴的な獣人の娘だった。

 随分と怯えた様子で、とても虐めて欲しそうな泣き顔。

 容姿は可愛いの一言に尽き、一人目からいきなりお持ち帰りしたくなった。


「ううっ、お家に返して……」


「ゲヒヒ、この娘の名はシズク。見ての通りの狐人族の血を引いている娘です。未開通、未教育、奴隷化未契約、奴隷紋付き。つい先日捕まえたばかりの初々しい奴隷ですので、さぞ調教のし甲斐がある事でしょう。手癖が悪い事から、才能は盗賊系のものを持っているかと。才能を確認致しますか? 確認する場合は別途金貨1枚が必要となっています。ゲヒゲヒ」


「うん? 才能を確認出来るのか?」


「おや、お客様はお知りにならないと。ゲヒゲヒ。奴隷化の儀式を致しますと、その主になった方は奴隷とした者の才能を知る事が出来るのですよ。全てではありませんがね」


「無理矢理吐かせたりしないのか?」


「上位の奴隷化儀式を行えば楽に吐かせる事が出来ますし、未教育ですので嘘を吐かれる可能性もあります」


「なるほど。それにしては金貨1枚というのはぼりすぎだと思うが」


「ゲヒヒ、それだけの価値があるという事です。上位の奴隷化儀式を行える者は多くありませんので。尚、奴隷の販売額と奴隷化儀式料は別となっております。奴隷紋をお付けになる場合にも料金は発生致します」


「奴隷紋というのは?」


「奴隷化儀式は服従させる為の処置、奴隷紋は罰を与える為の処置となっております。ゲヒゲヒ。奴隷化の儀式料金をお支払い出来ない方は、奴隷紋を付ける事をお勧め致します。でないと逃げられる可能性が非常に高くなりますからね。ゲヒッ」


「きゃっ!」


 男がそう言った瞬間、シズクという名の狐娘が突然に悲鳴をあげて腕を押さえた。


「ゲヒヒ、見ての通り、思うだけで好きな場所に罰を与える事が可能です。奴隷紋の強さにもよりますが、ピリッとした刺激から気絶しそうになるほどの激痛まで自由自在。行為の最中に使えばきっと締め付けが強くなる事でしょう」


「便利な力だな」


「ちなみに今現在この娘に付いています私専用の奴隷紋を解除する場合にも料金は発生致します。ゲヒッ」


「阿漕な商売だな」


「私共にとっては褒め言葉です。ゲヒッ」


 金額は、金貨3枚半だった。

 諸々含めるとその倍の値段。

 高い様にも感じるが、この虐めたくなる様な可愛い狐娘の人生を全て手に入れる事が出来るのであれば、十分過ぎるほど魅力的な条件だろう。

 以前に俺がいた世界であれば、購入希望者が殺到する事間違いなしである。

 絶対服従の奴隷契約を結べば法律の壁も関係ない。


「では、次の娘です。名はホノカ。栗鼠族と人とのハーフでして、未開通、未教育、奴隷化未契約、奴隷紋付きというのは先程の娘と同じです。ゲヒゲヒ。但し、種族柄見ての通り小さいので、お客様の体格では相手をするのはかなり辛いかと。最悪、壊してしまう可能性もあります。その際には、是非当店にお売り下さい。ゲヒヒ」


 今度は小麦色の髪、茶色の耳と尻尾を持った少女だった。

 奴隷商に捕まった事で既に人生を諦めているのか、狐娘と違い一言も喋らない。

 男が奴隷紋を使って仕置きしても痛がるだけ。


「喋れないのか?」


「いやはや、そこに気付かれてしまいましたか。この娘は過去に余程ショッキングな出来事にあったのか、言葉を一切喋る事が出来ません。その為でしょう、この娘を気味悪がった育ての親がお金に困った際に当店へと売りに現れまして。ああ、経験が無い事は確認してありますのでご安心下さい」


 販売額は狐娘より少し落ちて金貨2枚半。

 狐娘のシズクと比べると若干質は落ちるものの、色々目を瞑れば十分お買い得と言える。

 鳴き声が聞けないというのは戴けないが、いくら激しくしても近所迷惑にならないというのは美点にもなりうる。

 それに栗鼠の獣人なので、獣人姿にさせれば胸ポケットに入れて持ち運びに便利。


 シズクとホノカ、どちらも欲しくなってきた。

 二人合わせて金貨13枚といった所か。

 資金には余裕があるし、思い切って買っても良い。


 ……いや、まだ早い。

 まだ二人目だ。

 もっと良い奴隷がいるかもしれない。

 次のステージへと進もう。


「私はカエデと申します。以後、お見知りおきを」


 次は花柄の着物を着たふさふさ尻尾付きの緑髪少女だった。


「こちらの娘は忠義に厚い犬狼族元良家の子女で御座います。名は本人から紹介があった通り、カエデと言います。未開通、教育済、奴隷化未契約、奴隷紋無し。ゲヒッ。当店の一押し商品となっております。文武両道、気立ても良く、主従関係をキッチリ教え込めば行く行くは妻としても申し分ありません」


「聞いてる限り、奴隷としてこの店にいる事自体、不思議と思ってしまうんだが」


「元良家……つまり、家同士の争いに負け、相手方に売り払われたので御座います。ゲヒヒッ」


「……良くある事なのか?」


「我が一族のしきたりにより、争いに負けた家の女子供は後顧の憂いを断つため遠き地にて奴隷に身分を落とす事となっているのです」


 そう言う少女の瞳には、しかし明らかに復讐を諦めていない強い輝きがあった。

 値踏みをしているのは客である俺の方なのに、むしろ少女の方が俺の事を値踏みしているかの様に俺を眺めている。

 これで奴隷紋無しというのだから、犬狼族というのが余程信頼出来る種族なのか、それとも裏には何か別の思惑が絡んでいるのか。

 ……ヤーさんとか関わっていたら嫌だな。


「これも何かの縁。私をお買い上げになっては頂けませんでしょうか? 誠心誠意、お尽くし致します」


 御し易き御仁とでも思われたのか、カエデは妖艶な笑みを浮かべて俺を誘惑してくる。

 だが身請け金額は先の2人よりも倍以上高く、金貨8枚。

 それならばもう少し出してシズクとホノカの2人を買った方が良いかもしれない。

 いやしかし、文武両道という事はそれなりに才能を持ち合わせているという事なので、身請け直後からしっかり稼いでくれそうな上に、将来も十分期待出来る。


 とりあえず甲乙付け難しとして保留しておく。

 本当に迷ったら3人とも買ってしまう選択肢もあるしな。


「ゲヒゲヒ、お客様はとても運が宜しい様で。若い娘、しかも未開通の上物がこれほど多く店にいる事はとても稀なのですよ」


「前置きは良い。まだいるなら次を見せてくれ」


「勿論ですとも。私の商売勘では、お客様は必ずお買いになられる。その身なりには多少驚かされましたが、お客様の瞳には確かな知性と決意の色が灯っておられます。その姿は私共の目を欺く為の仮の姿。今後とも良きお付き合いを願いたいものです」


「……斜め向かいにも奴隷屋があったな。あっちの店に入るべきだったか?」


「その場合、お客様はとても後悔する事となりましたでしょう。そして、当店に足を運んで下さった事を、私共は絶対に後悔させません。ゲヒヒ。準備が整った様ですね。お待たせ致しました。次の娘です」


 シズク、ホノカ、カエデという商品を壁に並べたまま、ゲヒゲヒ男は4人目となる少女をこの部屋へと招き入れる。

 非常に居心地が悪い事この上無かったが、それも奴隷商の策の内か。


 次に部屋へと連れて来られた娘も、頭とお尻に可愛い飾りが付いていた。


「獣人ばかりだな」


「容姿の良い者が多く、しかも長くその容姿を保ちますので。昔から奴隷として買うならば、獣人の娘と相場が決まっております。ゲヒッ」


「さらってきたのか?」


「当店で取り扱っています商品は、すべて合法的に買い取っている者ばかりです」


 つまり、法そのものに問題があるという事か。

 自分の娘や罪人の売り買い自体を法で認めていれば、誰がどの様な手段で獣人を仕入れて来ようとも「この娘は自分の娘だ」「この者は罪人だ」と言い張ればいい。

 どうせ取り締まりもしていないのだろう。


 シズクは食うに困って盗みを働き捕まった。

 ホノカは口が聞けないので、誘拐すれば親だと簡単に言い張れる。

 カエデの場合は、敗北した家なので咎人の烙印も押されているし、しきたりに従い自ら受け入れている節があるので誰でも親の仮面は被れるだろう。


 さて、4人目の娘はいったいどういう理由でこの場に商品として並べられているのか。


「ゲヒゲヒ、名はリリーと言います。見ての通りの猫人族ではありますが、若干ながら剣虎族の血も引いております。未開通、未教育、捕まえた時に一度奴隷化の儀式は行っていますが今は解除済、奴隷紋付きです。ゲヒッ。取り扱いには少々注意が必要ですが、戦闘能力が高くダンジョンにも連れていける逸材です」


 この世界にはダンジョンもやはりあるのか。

 その内、捜してみよう。

 それよりも……。


「うにゃ~ん……うにゃ~ん……」


「酔っぱらっている様だが?」


 白髪ウルフカットで頬に二本傷の様な入れ墨付きの美少女は、フラフラと揺れていて少し顔が赤かった。


「こうして四六時中酔わせておけば従順で人懐っこくなるのです。ゲヒヒ。奴隷化の儀式を行い無理矢理従わせても良いのですが、気性が荒くて落ち着きが無い上に反抗的なので、命令の内容如何によっては寝首をかかれる可能性も捨てきれません。奴隷紋による罰にも抗える為、猫人族の弱点であるマタタビで酔わしておくのが最も安全且つ費用の掛からない方法となっております。ゲヒゲヒ」


 それでもなんと驚きの価格、金貨10枚だった。

 レアな剣虎族の血を引いている点と、戦闘能力が高いという点の影響か。

 加えて、痩せているシズクやホノカに比べるとリリーはとても健康的な身体をしていた。

 ある一点がとても健康的な身体をしていた。


 胸が……揺れる。

 リリーがうにゃうにゃ言いながら身体を揺らすと、胸もたゆんたゆんと揺れまくる。

 マタタビ効果でうっすら赤面した扇情的な可愛い顔の下で、豊満な胸が谷間を一切隠す事無く揺れていた。

 男なら誰でも観測してしまう事象がそこには存在した。


「マタタビを使えばいつでも好きな時にこれが楽しめます。ゲヒッ」


 可愛い顔してその胸は反則だった。

 ロリ顔巨乳という奴か。


 しかし惜しい。

 それでもまだシズクとホノカをまとめ買いした方がお得かもしれないと感じてしまう俺がいる。

 カエデとリリーを比べるなら、安全係数を考えてカエデに軍配があがる。


 だが3人セットで買うならばカエデを諦めてリリーを買いたい。

 カエデ単品は諸々付けると金貨11枚との事なので、3人セットだと金貨24枚。

 リリ単品は諸々付けて金貨13枚半、3人セットだと金貨26枚半になる。


 いや、4人全員買ってしまうという選択肢もあるのか。

 所持金が金貨40枚ちょいに対し、4人セットだと金貨37枚半だ。

 今後を考えるとかなりきつい出費だが、値切り交渉すれば下がる可能性も十分にある。


 究極の選択だった。

 最初にあった一人だけ買おうという思いは何処かへと行ってしまった。

 ゲヒゲヒ男は俺に後悔させないと言ったが、買う前から既に後悔している。

 どの少女もアイドル顔負けの容姿であり、それぞれが魅力的な売りポイントがあって悩んでしまう。


 シズクは男心を揺さぶる虐めたくなる属性持ちで、お買い得価格。

 ホノカはまさにペットとして打って付けだろう、そして何より安い。

 カエデは主を立てて尽くすタイプ、万能型で重宝するし、長い目で見ても利点が多かった。

 リリーは巨乳、それだけで幸せになれる、勝ち組決定。


 全員買うか、誰かを諦めるか、それとも一人に絞って次の出会いに期待するか。

 並の少女達が並べられた中に一人だけダイヤの原石が混じっていればこんなに悩まなくて済んだというのに。

 美少女がいればラッキー、いなければお試し気分で摘み食いという軽い気持ちで店に入ったというのに、考えが非常に甘かった。


「次がお客様にご紹介出来ます最後の娘となるのですが、そろそろご紹介させて頂いても宜しいでしょうか? ゲヒッ」


「む……まだいるのか」


「はい。とはいえ獣人では無く人の子である為、少々値が張りますが」


「人の子というだけで高いのか。理由は?」


「いくら容姿が良くとも獣人を嫌うお客様は意外と多いのです。獣人の奴隷は手に入りやすい反面、仲間を解放しようと襲い掛かってくる獣人も数多くおります。また奴隷を買えるお金を持っている貴族様商人様が連れ歩くには、安い獣人奴隷というのは箔がまるで足りません。伽を楽しむ分には問題無いので、売れないという訳でもありませんが。ゲヒヒ」


 獣人奴隷を持つと襲われる危険性が出てくるのか。

 となると、シズクとホノカの販売価格が安めなのは、そういう危険性も考慮しての値段という事にもなりかねない。

 逆にカエデやリリーは種族的に襲われる危険性が低いという事になる。

 全員がアイドル顔負けの美少女なのに金額に倍以上の開きがあるのは、スペックだけの差では無いという事なのだろう。


 そう考えると、4人セットで購入するのはかなり危険か。

 ホノカとシズクを諦めて、カエデとリリーの2点買いという選択肢も出てくる。

 いや、ここは初心にかえって胸の大きさで決めるか。


「5人目を見せてくれ」


 心は決まった。

 人間、胸には勝てない。

 大は小を兼ねると言うしな。


 5人目の少女がリリーより胸が勝っているならば、多少目を瞑ってもその少女に決めよう。

 負けているならばリリーを買う。

 人の子であの胸に勝つのはかなり難しいと思うが、奴隷商人が最後に紹介するのだから奇跡も十分にあり得る。

 但し、ふっかけてくるならリリー一択。

 上限は諸々込みで金貨20枚まで。

 それ以上はビタ一文負けない。

 それでいこう。


「ゲヒッ。こちらの娘です」


 5人目の少女を見た瞬間、俺はその少女を買おうと思った。


 少女の胸は、まるで勝負にならなかった。

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