あなたは女神……さま?
「ようこそ。お待ちしておりました」
「はっ?」
そして気がついたら、よく分からない場所に俺は立っていた。
「私は女神。あなたの雇い主です」
「はい?」
そして、絶世の美人とも言える翼の生えた女性から、これまた耳を疑う言葉を聞いていた。
「これから、あなたを異世界へと飛ばします。そこで死ぬまで自由に暮らして下さい」
「えっと……それはいったい……」
「別に勇者となって魔王を倒して下さいとか、世界を平和に導いて下さいとは言いません。ただ暮らして頂けるだけで結構です」
うん、言ってる意味がまるで理解出来ませんよ。
まだ勇者になってくれと言われた方が理解出来ます。
「あの……拒否権は?」
「あると思いますか?」
ですよねぇ~。
というか、女神と言うより悪魔だよな、こりゃ。
「理由を聞かせて貰っても良いですか?」
「世界には適当な刺激が必要なのです。放っておくといくらでも暴走してしまいますので」
「適当な刺激って……つまり、チート能力でも駆使して自由に暴れろと?」
「何をするかはあなたの自由です。あなたという異分子が世界に存在しているだけで十分なのです」
「えっと……なら別に俺でなくとも良いような?」
「はい。ですが、前任者が亡くなると誰かをまた送り込まなければなりませんので」
「つまり俺は、その誰でも良い役目に運良く抜擢されたという事ですか……」
「運悪く、とは言わないのですね」
「まぁ、異世界に行けるなんて普通にゲーム好きな現代人ならば誰でも喜ぶべき事ですから」
「ちなみに、あなたが向かう異世界はあなたが思っているようなゲームの世界観に酷似しています。ですので、ハーレムを作ることも出来ます」
「いや、そこはどうでもいい」
「そうなのですか?」
そんな心外そうに言われましても。
前任者が亡くなったという事は、当然そういうフラグも満載という事だし。
「あなたが望むのであれば、一つだけ願いを叶えましょう」
あ、先にチートフラグきた。
「なんでも?」
「私に出来る事であれば、なんでも」
「あなたが欲しいと言うのは……」
「もちろん、いやです」
出来る出来ないじゃなくて、拒否なのか。
「んじゃ、永遠の若さを下さい」
「若さ、ですか? 命ではなく?」
「永遠の命って、可能なんですか?」
「可能ですが、お断りしています」
出来る事なんでもって言ったような……。
「本当に若さで良いのでしょうか? 普通の方はお金や力、もしくはハーレムを望むのですが……意外です」
期限付きだったらそれも考えた。
でも、死ぬまで暮らせって言われたし。
永遠の命もいいけど、そしたら永遠の苦痛も手に入ってしまう。
だから、死にたくなったら死ねる永遠の若さを手にいれて、あとはのんびり暮らせばいい。
もともと、俺の夢は老後のような隠遁生活を送ること。
あとは適度な刺激があれば十分だ。
……ああ、そういえば異世界にはたぶんゲームがない可能性があるのか。
俺の唯一の楽しみだったけど、それに変わるものを何か探さないとな。
「ちなみに、前任者がその異世界に送り込まれてから何年経ちました?」
「そこを聞いてきますか。ですがその質問に意味はありません。何故なら、あなたのいた世界とこれからあなたを送る世界には時間的繋がりはありませんので」
「さいですか」
本当かどうかは知らないけど、疑っても仕方がないか。
何歳で死んだか聞いても、もしかしたらはぐらかされるかな。
「では、そろそろ時間ですので異世界へ送ります。あなたの人生に幸あれ!」
それ以上の質問を女神は嫌ったのか、有無を言わさず飛ばされました。
あなた、本当に神様ですか?
そうして俺は、異世界に転勤となった。
一応、これは仕事と思って割り切る。
「終身雇用って言葉があるが、物凄い拡大解釈もあったものだな……」
俺はただのサラリーマン。
さて、転勤先でどんな仕事をすればいいのやら。
自由に暮らせと言われても、先立つものがなければ生きてはいけない。
異世界で暮らすというのが、俺の新しい仕事。
女神は気楽に言っていたが、その意味を俺はあまり気楽には考えていない。
前任者が亡くなったという事は、少なくとも死ぬだけの理由がそこにはある。
もし死因が老衰だったら、俺の考えすぎだけど。
とりあえず、仕事だ。
適当にパパッとその仕事を終わらせて――生きる術を確保して、アフターを楽しむかなぁ。
「女神の言葉じゃないけど、俺の人生に幸あれ!」




