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きっと、ふしんしゃでちゅ

 冒険の始まりとはよくいったもので。


「何もない所から、何も無い状態で始まるとは流石に思わなかったなぁ」


 強制的な転送の後。

 2度目に映った景色は、辺り一面が荒野というものだった。


「ステータス、オープン!」


 何も起こらない。


「ファイヤーボール!」


 翳した手が虚しいだけだった。


「きっと全力疾走すれば……」


 5秒もしないうちに全身が疲労を訴えてくる。

 ゲームのように、体力無視で永久に走れるような事はなかった。


「はぁ……とりあえず、町でも探すかな」


 モンスターが出てこない事を祈りながら歩き始める。

 瞬間。




『神様クエストが発生しました。

 クリアすると、きっと何か良い事があるかも?』




 変なテロップが脳裏に浮かんだ。


「なぜ、報酬が疑問系……」


 とりあえず、そこには突っ込まない事にして内容を読む。

 発生したクエストは2つ。




 ・今日1日を生き抜く。

 ・最初に出会った人に、絶対に優しくする。




 何やら死亡フラグがちらついていそうな気がする……。

 今日1日を生き残るだけのクエストって何だろうな。

 死線をくぐり抜ける事が前提になっているのだろうか。


 あと、最初に出会った人が盗賊だったりしたらどうなるのか。

 理不尽にも程がある。


 気にしないでおこう。

 クエストは脳の片隅においやって、とりあえず歩く。

 ただ、目標はあっても目印というものがまるでない。


 その結果。


「腹減ったなぁ」


 初日から飲まず食わず、しかも野宿という非常にやばい状況で一日が終わった。

 永遠の若さ、早まったかも知れない。

 意味深なクエストが発生した時点で分かっていたが、いきなりのピンチ。


「この仕事、早くも挫折しそうだ」












 そして2日目。


「おお……」


 昼下がり。

 ついに建物らしきものを見つける。


 古ぼけているが、それなりに大きな建物。

 形から言って教会か。

 折れた十字架が特徴的だった。


「この救いの手は、きっと神さ……」


 そこまで言った所で、思い直す。


「いや、それはないなぁ。これは俺の努力の結果だし」


 苦労は報われなければならない。

 何でも神様ありがとうというのはおかしいよね。

 あんな出会いをしてしまったし……。


 罰当たりな思考は置いておく。

 流石に丸一日も飲まず食わずだったので空腹も限界に近かった。

 腹の虫にはあまり縁がなかったのに聞き慣れた感がある。

 一も二もなく、教会へと足を運ぶ。


「ふちんちゃ、はっけん!」


 そしたら、いきなり不審人物扱いされた。

 発声からして明らかに子供。

 見た目でも子供。


「あ、ふしんしゃだー」


「ふしんしゃなのー」


「ようちゅういじんぶちゅだー」


「へんしつしゃですー」


「こうげきー」


「げいげきー」


「たいじたいじー」


「きゃー」


 早速、罰があたった。

 もとい、教会の外で遊んでいた子供達から一斉に攻撃を受けた。


 まるで雪雪崩のような元気一杯の突進攻撃に……。


「まいった」


 あっさり押し倒された俺は白旗をあげる。

 流石に空腹すぎた。

 ちっちゃな子供達は冗談みたいな元気っ子パワーで倒れた俺の身体を羽交い締めにする。


「おにいさん、だれー?」


「だれー?」


「ふちんちゃー?」


「へんしつしゃー?」


 なんだ、本気で攻撃してきた訳ではないのか。

 まぁ、分かっていたけど。

 どうやら子供達は戦闘ごっこでもしていたらしく、その遊びの延長で俺に襲い掛かってきたようだ。


「俺の名前はケント。ただの旅人だ。お嬢ちゃん達の名前は?」


「んーと、カリー」


「ミント!」


「俺、ビックス!」


「ぼくは……」


 覚えられたのはそこまで。

 流石に十人を越える子供達の顔と名前と声を一回で覚えるのは無理。

 まぁ、顔が見えない子もいっぱいいるけど。


 ただ、優先して覚えるべき子供だけはしっかりと記憶した。


「えっと……最初に俺を見つけたのは、マリンちゃんかな?」


「うん、そう!」


「すごいね。まさか見つけられるとは思わなかったよ」


「えへへー。あたちのめ、とくべちゅなのですよー」


「あ、マリンちゃん。それ、ねぇねからひみちゅのやくそく……」


「あっ!」


 子供にありがちの失敗に、マリンちゃんは口に手を当ててやっちゃった感。

 でも敢えて気が付かない振りをして話を進める。


「マリンちゃんはとっても目が良いんだね」


「う、うん! あたちのめはみんなよりもよくみえるの!」


 思い切り動揺するマリンちゃんから視線を外す。

 気が付いてない振り、気が付いてない振り。

 代わりに映したのは、もっと気になる言葉を話してくれた少女。


 名前は確か……ああ、やっぱり思い出せなかった。


「とりあえず、立って話をしたいんだけど良いかな?」


「だめー。ふちんちゃはとりおさえておくおやくそくなのー」


「そっか。じゃ、この体勢でも良いから、ここで一番偉い人と話したいんだけど、良い?」


「ねぇねのこと?」


「そう。ねぇねのこと」


「いま、クリスが呼びに行ってるぜ」


 上から見下ろしている少年が言う。

 確かビックスだったか。


 ちなみに、俺の身体を取り押さえているのは全員女の子だった。

 普通は逆だと思うが、これには訳がある。

 人数比が極端だったというのものあったが、ビックスは手に木の棒を持っていつでも俺を殴れる体勢にあった。

 この分だと、死角にも別の少年が待機しているのだろう。


 ついでに、男の俺は女の子達には手を出しにくいという心理戦も混じっているのかも知れない。

 流石に10歳にも満たないだろう女の子達に暴力を振るうのは躊躇われた。

 だからというべきか、最初から子供達の攻撃も真正面から受け止めた。

 自分から倒れなければ、たぶん子供達の中にも怪我人が出た可能性があったし。

 タックルだけじゃなくて飛びかかってくるのは反則です。


「ところで、ユキねぇが来る前に確認しておきたいことがあるんだけど、良い?」


「良いよ。俺で答えられることであれば何でも」


「もしかしてにーちゃん、気配消してた?」


「うん、消してた」


 素直に答えたら、一層に警戒心が強まった。

 さて、何でだろうね。

 心当たりがありすぎて困るなぁ。


「なんで?」


「腹が減ってて、すっかり忘れてた」


「なんで腹が減ってたんだ?」


「何にも食べてないから」


「なんで何も食べてないんだ? にいちゃんぐらいの年齢だったら、ギルドに行けばくいっぱぐれることないと思うんだけど」


 お……ギルドあるのか。

 それはつまり、近くに町もあるってことだな。

 なんで教会だけがポツンと建っているのかは分からないけど、これは有力な情報だ。

 落ち着いたら顔を出してみよう。


「旅をしていたら、町に辿り着く前に食糧が尽きてしまいました」


「あ、馬鹿だ」


 正直は子供の美徳。

 嘘は大人の道徳?

 といっても、別に俺は嘘は吐いていない。

 たった1日だけど旅をしていたのは確かだ。

 それに、最初から食糧を持ってなかったから、当然ながら待ちに辿り着く前に食糧は尽きている。

 この場合、道徳というより屁理屈になるかなぁ。


「でもすげぇなにーちゃん! 気配消せるって、滅茶苦茶便利じゃん! それでモンスターから気付かれることなく旅してるんだな!」


 あー……やっぱりモンスターいるんだ。

 なら、この才能を持ってなかった初日はマジでついてたのかもな。




 才能:隠密Lv1

 能力(アビリティ):〈気配隠し〉




 クエスト達成したら報酬としてもらえた。

 ステータス画面を開けなかったり魔法が使えなかったりと、最初はどうなるかと思っていたけど。

 どうやら本当にゲームのような世界らしい。

 ような……というだけで、まだハッキリとしている訳ではないが。


 そして、気配を消していた俺を見つける事が出来たマリンちゃんは、きっと看破スキルとか持っているんだろう。

 まぁ、その辺は追々。


「あらあら~。いったいなにごとですか~?」


 そんな随分と間延びした女性の声を聞いて。

 俺は、ようやくこのイベントも次の段階に進んだ事を確信した。


 とりあえず、死亡フラグはこれで消えた!

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