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第107話 こうえききしんせいど

〈シマさんですか?〉


「そう。あいつ派手に商売して、同業者から恨みかってたりしない?まあ恨みまで行かなくても、仕事が減って困っている業者さんとかいないかな」


毎朝、律儀に感応を開き、今日の予定を確認してくるフレイアに相談していた。


〈聞いたことはありませんね。心配要らないと思いますよ。シマさんだからこそ可能になった。そんな特殊案件ばかりをされていますから〉


特殊ね。確かに話を聞いてみたところ、そんな仕事、他に誰が出来るのだろうという物ばかりだった。


殺虫魔法耐性のついたアブラムシの大発生。北地区の農作物は全滅すると予想された。


一縷の望みを賭け、噂のシマ探査へ連絡をしたらしい。結果、一週間後には綺麗さっぱり駆除された。それだけではなく、他の害虫も激減し今年の収穫は前年比130パーセントの豊作になったと。


〈発生確認当初、生産局は絶望感に包まれていたと聞きます。果樹が多い北地区ですから、数年後まで影響があったと試算されていたらしいです〉


朝のランニングで俺とタクナを狙い、果物を投げつけてくる農家の面々。殺す気かっ!という勢いだ。


〈最低でも60億、場合によっては100億を超える損害が出たのではないかと思われていたようです〉


なるほど……。


〈それを受注から10日足らずで解決した。公奉庁からは、報酬で済ますような話ではない。何か栄えある勲章でも授与できないか。監査庁へそう要望されているようです〉


「ど、どうするの?」


〈担当業務が遠過ぎてわたしもわかりませんが、噂によると勲章の新設話があるようです。既存のものでは条件に引っ掛かり対応しにくいと。新設されたとしたら377年振りだと〉


〈いずれにせよ、事は本庁の管轄になっているみたいです〉


シマの奴すげぇな。


まあそれもそのはず。話を聞く限り戦争していたようだ。部下たちを総動員、それぞれを頭にして、現地の虫や小型動物を徴兵。数百万の大軍勢を作り事に当たったと。


〈生産局はシマさんと専属契約を望んでいます。しかし、忙しいから無理だと。他で対応できないケースがあれば仕事は受ける。そう言われているようです〉


普通にカッケー。


〈他にも建設局からは──〉


フレイアの説明は続いていたが、スケールが違う話ばかりで、もうなんの話をしているやら。スケールが違う。チビのくせに大した奴だ。


午後からの監査庁との三者面談が恐ろしい。ティーナさんだけが頼りだ。


シマを持って中央公園にいる。肩に乗ったシマは、緊張の欠片もなく白峰の話をしている。誰それが成長していて驚いたとか、誰だれに任せて正解だったやら、部下たちの自慢話だ。1人も知らないから、ピンとこないけど。


というか、お前がタクナについて行ったのは古巣の視察目的だったのか?それにしては碧淵まで呑気について行ったらしいが。


「こんにちはマサトくん、蒼汐以来ですね」


ティーナさんが現れた。また私服である。装飾の少なめな白のブラウスに、ふわふわしたスカート。華やかで美人しかいないと噂される、うちの事務方。そこで勝負させても勝ち残る戦闘力だ。


「ご無沙汰してすいません。今日はわざわざありがとうございます。こいつがシマです」


シマを指先に移してティーナへ差し出す。


「ちっちゃっ。シマさん、想像してたよりずっと小柄でした」


目を見開くティーナ。チビだけど中々やりますよ。最強ですし。


「蒼穹探査のティーナと申します。いつぞやはウチの若いのが、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」


「くるしゅうない」


指先のシマを弾き飛ばす。


「あーーー!ひどいー!」


声が遠ざかる。


「ちょ、ちょっとマサトくん」


「ティーナさん、ちょっと待ってて下さいね」


笑顔で言って、シマを拾いに行った。


「お前、阿呆だろ!なんだよ、くるしゅうないって!」


「さいしょ!」


「かんじん」


「びしっときめた!」


初っ端にカマしてどっちが上かハッキリとさせるのが大切だと。輩か?お前は。


「ししょう」


「そこたりない」


「しおしお」


やかましいわっ。いいからちゃんと挨拶をしろ。わざわざ来てくれたんだぞ。言い聞かせて戻る。


「ティーナさん、たいへん失礼いたしました。改めまして、こいつがシマです」


人差し指の上に乗せたシマを親指で押さえつけて差し出す。また、ふざけた真似したら全力で弾いてやる。指弾って奴だ。公園の木に埋め込んでやるからな。


「はじめててぃーな」


「しまいう」


「よろしく」


なんか少し怪しいけど、まあ良いだろう。ハエトリグモに多くを求めてはならない。生産局みたいな羽目になる。害虫駆除を依頼した担当者は公奉庁から呼び出しくらったらしい。


「ししょう!」


「あれする」


「めいしこうかんっ」


端末タグ交換な……。アルマから預かってきたシマの端末を取り出してティーナを見る。


「いいですか?タグ交換してやって下さい。なんか憧れているみたいなんです」


「よろこんでっ。会社で自慢しちゃおうかしら。正体不明、謎のフリーランスとタグ交換。良いですか?」


本当に嬉しいのか、めっちゃ笑顔。他に見せても良いかシマに確認している。ダメなわけないです。謎にしている理由なんかありませんから。


「くるしゅぅぅ〜」


弾き飛ばさずに、指先でぎゅうっとしてやった。


「い、いいよ」


最初からそう答えろ。


タグ交換が終わり。


「では、よしなに」


「かえる」


とか抜かすシマをポケットに入れ監査庁へ向かった。なんで偉そうキャラなんだよ。


監査庁の三者面談は極めてスムーズに行った。あらかじめ、ティーナが話を通しておいてくれたのもある。しかし、話を聞くと探査員に限らず、こういうケースは多いようで、受け皿というか制度があるらしい。


今回は大金をどう処理するのが良いかという事で、公益寄進制度を使うのが最適だと。


端的に言うと、聖護庁に丸投げする。増え続ける余剰金は、綺麗さっぱり消えて安心。


聖護庁の担当部署はそのお金で、社会的にあまり需要のない仕事を選択した人々を支援しているらしい。売れない画家や創作を生業に選んだ人たちが多いと教えてくれた。


いつだったかショッピングモールで見た。売れないリザードマン画家さんを思い出した。


管理官を名乗る監査庁の豹人女性。監査庁の事務方らしいのだが、申請書類の提出先や期限、記入方法まで丁寧に教えてくれる。


しっかり聞いておこう。書類の記入漏れは多くの人に多大なる負荷を与える。


「運転資金はきっちり残して下さいね。そうですね、マサト&シマカンパニーさんの規模なら1億程度あれば良いかと思います。支出も少ないようですし」


一億もなんに使うんだ?支出なんかあるものか。そこいら辺の野良魔獣をタダで使ってるんだ。しかし、それは今はいい。


「マサト&シマカンパニーとはなんですか?」


「シマ探査員の社名ですよ?個人事業主なのにちょっと不思議な社名だと噂になっています。マサトって誰だと」


「…………」


俯く俺の顔をティーナさんが心配そうに覗き込んでくる。頑張れ俺。


「なるほど。社名でしたか。不勉強で申し訳ありません。ありがとうございます」


辛うじてそう答えられた。


シマは机の上を跳ね回っている。お前の話をしているんだぞ!ちょっと大人しくしておけ!シマを捕まえてティーナに渡しておいた。


監査庁を出たのは14時を回っていた。少し涼しい風。色付いた中央公園の街路樹が葉を落とすのを手伝っていた。


非常に疲れた。しかし、問題はあっさり解決した。あとは書類をアルマに渡して、死にたくなければちゃんとやっておけ!そう言うだけだ。


「じゃあねてぃーな」


「またねー」


遥か彼方まで続くような秋の空。シマは尻から糸を出して消えて行った。


監査庁でティーナに遊んでもらったせいか、超仲良しになっていた。飛んでゆくシマを不思議そうに見送っているティーナ。小さく手まで振っていて可愛い。


シマが見えなくなると、振り返り訊ねてきた。


「さてと、マサトくん!次はマサトくんの用事ですね。妹さん、アルマちゃんでしたよね。プレゼント何を考えているんですか?」


アルマへのプレゼントだと?この公益寄進の申請書で良いんじゃないかな。


しかし、そうは答えられない。蒼汐で項垂れていたティーナが辛そうで、咄嗟に妹へのプレゼントを口実にティーナを誘った。そもそもティーナへ何か買ってあげるとまで言っている。


「えっと、申し訳ありません。決められなくて。とりあえずショッピングモールのクラフトショップとか見て回ったら思いつくかなと……」


「良いと思います。いきましょ!」


そう言って俺の手を取ろうとするティーナ。大事なことを思い出したかのように、手を引っ込めこちらへ向き直る。


「今日はどうですか?マサトくん喜んでくれるかなってお洒落してきましたっ」


ふわふわのスカートを両手でつまみ、楽しそうに訊ねてくる。


「とてもよく似合ってます。綺麗すぎてびっくりしました!」


噛むどころか力強く目を見て言った。どうだ、完璧だろ。


「ありがとう。じゃあ行きましょうか」


笑顔で俺の手を取るティーナ。たぶん35点くらい。おっかしいなぁー、サルディ相手なら80点は取れたはずなのに。


機嫌良さげには見えるティーナに連行された。いつかエスコートというのをしてみたいものだ。

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