真っ赤に実ったイティと、晴れた空
「うーん、今日もいい天気……じゃ、ないか」
料理人に任命されてから、寝室も料理人用へ移された。
しかも、料理長の計らいなのか、私とアイリーの2人部屋だ。
それはよかったんだけど、同室になったアイリーは寝言がデカい。しかも、下品だ。
「何だコラ、見てんなよ、(ピーーーー)」
「マッズ!こんなもの、(ピーーーー)」
……みたいな感じ。まあ、そのうち慣れるかな。
外の空気を吸いたくて、お屋敷の外へ出てきたけど、今日も……何だっけ?
そうそう、ギフォが立ち込めていて、どんよりとしている。
「えっ!?な、何これ……」
私は驚いて、目をまん丸にした。
屋敷の農地の一角に、赤いイチゴのような実をつけた植物が生い茂っていたからだ。
3日前に食材調達のため、入念に見て回ったので、どこに何が植えてあって、どのくらい育っていたか、ほとんど覚えている。メモも取ってるから、間違いないハズ。
思わず赤く熟れた果実に手を伸ばし、プチ、と1つ収穫した。
「うわぁ、イチゴっぽい……。香りはリンゴみたいだけど」
未知のフルーツだし、食べるのは怖い気もする。私が迷っていると。
「ん~~!おっいしぃ~~~」
驚いて振り向く。
声の主は、アイリーだった。
これ以上入らなさそうなくらいに、口いっぱいにイチゴ?を頬張っている。
しかも、笑顔で。……めっちゃ笑顔だ。ちょっと可愛い。
「そ、それ……食べて大丈夫?」
「もちろん!イティの実がこんな見事になるなんてね」
「へえ、イティって言うんだ。ねえ、もともと、ここに植えてあった?」
「細かいこと気にするなって。食べなよ、うまいから」
ついに好奇心が勝ってしまい、口に放り込んでみる。
「うわぁ!お、美味しい……美味しいね」
カンゲキ。涙が出そう。
この世界に来てからの食事が最悪・・いや、口に合わなさ過ぎることもスパイス☆
になっているんだと思うけど、ほんっっ当に美味しい。
「……まあでも、こんなに大きくて、甘いイティは初めて食べたかもな」
ひとしきり食べて、落ち着いたのか、ポツリとアイリーが言う。
「ね、イティって、3日で実ができる?」
「それはないね。うーん……そうそう、だいたい50日かかるよ。
ココの畑管理してるヤツつかまえて、聞いたことある」
「ふーん……」
「誰かの、魔法の力とか?こっそり全部、持って帰っておやつにしよ」
「え、見つかったらどうするの」
「バレなきゃいけるって!」
サッと風が吹き、明るい光が差し込んでくる。
!??
空を見上げると、雲を割って、太陽が顔を出していた。
この世界で初めて見る太陽かもしれない。
なぜ晴れたのかも気になるけど、私たちは目の前のイティの収穫に夢中になった。
こんな美味しいものを、放っておくなんてできない。カゴを調達し、2人で本格的に摘みにかかった。
______________
バレた。わりと即バレだった。
持ち帰ろうとする直前にバレたので、とっさにアイリーが
「わわ、私たち、たまたま食材を探していてぇー、
これから全部、お届けしようと思ってたんですぅ!」
とうわずった声でごまかし、おとがめがなかったのが救いだ。
早起きの畑管理官の1人が、私たちがいると報告したらしい。
料理人じゃなかったら、今ごろは罰を受けていたかもしれない。
……それだけは避けたい。
_____________
ナガメとアイリーが居なくなり、静かになった農地には、いつも農作業をしている男女3人が集まり、井戸端会議が行われていた。
3人とも、チュニックに紐付きのブーツ。帽子をかぶっている者もいる。
「こんなこと、初めてだ。いったい、どうしたら、あんな立派な実がなる?」
「私も、さっぱり分からないよ。誰が植えたっけ」
「種をまいたのは俺だ。けど、たったの5日前よ」
「うーん、何か、新手の魔法かねえ」
「そんな魔法があるんなら、うちら大助かりだ」
しばらく考えている風だった女が、口を開いた。
「……そぉいえば、私、見ちゃった、かも」
「何を?」
他の2人が、身を乗り出す。
「……さっきの、ナガァメとかいう人、3日前もここにいたのさ」
「え、それで?」
「うん……しゃがんで、確か……そうそう。
いちごー、いちごちゃーん、カワイイね、って言いながら、苗をツンツンツン。指先で」
「は?苗にちょっかい出してたんか!?やっぱり、捕まえて……!」
カッときたのか、今にも追いかけていきそうな男。
女は慌てて、男の上着の裾をつかむ。
「ちょ、ちょっと待ってって!それがさぁ、とーっても、やさしかったの。私も、畑を荒らしてるんだったら止めねえと、と思ったけど、お話しでもしてるみたいに穏やかだったからさ」
「苗と、お話だぁ?ハッ。……まあいい。
しかし何で、さっき言わなかったんだ」
「だって、それだけでこうなるって、よく考えてみてもあり得ないから」
「まあなあ…………」
3人は、軽く腕組みをして、同じ方向に首を傾げた。
井戸端会議の収穫は、どうやらなかったようだ。上の者が見とがめてきたタイミングで、お開きになった。
ナガメの姿を見た、という女性は、農作業に戻ってからも時折、いちごーって何のことなんだろ?とぶつぶつ言っていた。
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