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魔王物語  作者: ragana
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第三十九話 -特撮物のヒーローはやっぱりさっさと超必使うべきだよな-

「な、何が起きた!?」

 ザビエル武装集団が変わり果てた姿――宛然、魔界な村で後一撃でやられてしまうという状態になったおっさんの様――になった事を認めるとそう叫んだ。

 武装集団も周囲の仲間の姿を見て目を見開き、そして、相手の態度を見、自身の身体に視線を移して再び目を見開く――そんな流れが繰り広げられていた。

 無論、俺はそんな隙だらけな敵を放っておく訳がなく、ザビエルに止めを刺そうと間合いを詰めた。

 武装集団が動こうとするものの、間に合うはずがなく、間に合ったところで装備も何も無い状態でどうにか出来るはずもなかった。

 ソレに対し、ザビエルは慌てふためくことはない。

 一応は人を束ねるものだったか――そう感心したわけだが、どうも風格を現すような行動ではなかったようである。

 結論から言うと、障壁を破壊した手応えはあったのだが、その奥に更に見えない壁があった。

 ちょいと力を込めて殴った俺の拳は「バッカ! おめぇ、痛てえよボケ!」と絶賛俺に文句を言っている最中である。

 俺はというと、飛び跳ねるほど痛いわけでも悶えるほど痛いわけでも無かったので少し顔を歪める程度である。

「っく、ははははははっ! 少し驚きましたがそこまででしたね! 一つ目の障壁が私の部下'聖戦和音'の装備によるモノだと気がついたのは褒めて差し上げますがね!」

 この台詞は、兎に角腹の立つ発言――思いつく限り腹が立つイントネーションであると思っていただければ問題ない。

 極めて、そして芸術的に奇跡的にピンポイントに俺を逆撫でする様な発音である。

 俺の心境としては、今すぐにでもザビエルの顔面を中心に拳の流星群をプレゼントしてやりたい気分である。

 ――ふ、とザビエルが右手に嵌めている指輪を掲げた。

 その指輪は奇妙な形をしている。

 パイプオルガンの様でDNAの様に螺旋を描いた形状で神話に出てきても良いかなって思う様な形状である。

 ザビエルが指を振るう――呼応して耳を突く音が鳴り響いた。

 力んだ上に失敗した口笛の様な、金属同士が接触して生じる高鳴り――いや、金属はちょっと違うかな。

 兎に角、聞いていると鼓膜に激痛が走りそうな音である。

 ザビエルが指を踊らせている。

 ソレによって只の鼓膜の虐待だと訴えられそうな音であったが、一応のリズムを取り始めた。

 街で見た姫さんの魔法と同じ様な雰囲気である。

 音に魔力が篭っているというのだろうか、不思議な雰囲気の音だ。

 が、鼓膜が痛いのは変りない。

 不思議な音を聞いて感動すべき場所なのかもしれないが、奏者はザビエルだし、おまけに鼓膜が痛い。

 すまん、鼓膜が痛いってのを押し過ぎだな。

 まあ、それぐらい痛いと思ってくれれば幸いである。

 寧ろ鼓膜をもぎ取って捨ててしまおうかと気が違ったような事を考えてしまいそうになるのである。

 音響魔法――おそるべし!

 などと思いながら苦しんでいると途端に音が止んだ。

 俺は音を避けようと耳を両手で塞いで蹲る様な形になっていたが、顔を上げることにした。

 耳はまだ両手で塞いだままである。

 また例の鼓膜の虐待を再開されたらたまったものではないからである。

 鼓膜が未だに鳴動して少しばかり三半規管に影響を与えているのか俺の足は少し覚束無い雰囲気であった。

 どの程度覚束無いのかは三半規管が正常ではないようであるので判断しかねるわけだが。

 経験的には子鹿の様なフラつき具合だろう。

「くくっ、どうしたぁ?」

 声の方向に顔を向けるとそこには武装集団が立っていた。

 先程までのあと一撃で間違いなくやられてしまうだろうという格好であったにも関わらず、今は最初のように完全武装で凄まじく強気な顔である。

 いや、顔は見えないから、そんな顔をした雰囲気満載故の俺の予想で妄想だが。

 まあ、声だけ聞けば皆が皆俺の意見に対して首を縦に振るだろう。

 ザビエルとこの武装集団は、毎朝人を不快にさせる発音の練習でもしているのだろうか。

 そう思わざるをえない具合に神経を逆撫でする。

 閑話休題。

 兎に角、ザビエルが居る限りエンドレスって感じなのだろうか。

 ぶち殺すって方法もあるだろうが、その戦法は取りたくない。

 っつかね、宇美音子さんが協力してくれれば一瞬で終わるような気がものすごくするんだけどこりゃなんだ?

 俺がこの状況になっても宇美音子さんは背後でニヤニヤしてやがる。

 そういえば、俺が修行をしていた時期も似た様な感じだった気がする。

 山で森の熊さんとばったり出会した時も我先に逃げたし。

 しかも俺の足を蹴っ飛ばして逃げられないようにしてから。

 あの時もこんな感じで逃げたと思ったら背後でニヤニヤしてたなぁ。

 なんだろ、確か俺があの時問い詰めた末の答えは大好きだからだよって言ってたな。

 小学生かよと叫んじゃったよ思わず。

 流石にオッドとサイレンも俺を助けようと動こうとしてくれているようだけれどどういう訳か宇美音子さんが全力で妨害していた。

 最初はツンデレと思い込んでなんとかやっていこうと考えてはいたが、そう上手くいかないのが世の中である。

 宇美音子さんを出来るだけ避けようと頑張った時期があったのだが、そうすると寧ろ逆効果でやたらと絡んでくるようになったので諦めて流されることにしたのだ。

 今となってはそこそこ慣れてきたので文句を思うことはあれどそこまで不満には思わなくなってきてしまっている。

 人間の適応力を悲しい形で示した瞬間である。

 魔法ってのは完全に専門外だからどうしようもないよなぁ。

 って、良く考えなくても俺は神のお陰で最強の魔法使いとも言える能力というかアイテムを得ていたのだった。

 うーん。

 サイレンに見られてなんとなく喚かれるかなって思って敢えて使ってなかったんだけどサイレンは結構真面目に助けてくれようとしてるし良いかなぁ。

 よく考えたら俺が魔王ってバレて困ることってあんまりなさそうなんだよな。

 元いた世界みたいに警察みたいな情報網と包囲網が凄まじい組織っての無さそうだし。

 ううむ。

 それに気がついた今思うのは、この世界の状況とかをちゃんと踏まえた上で考えるべきだったよなぁ。

 明らかに以前いた世界の常識とか状態に囚われて考えてたよなぁ。

 これ切り抜けたらもうちょいちゃんと考えてみようかな。

 ファンタジックな思考回路は宇美音子さんに相談すべきな気がすごくするからその辺もちゃんとやっとこうかな。

 っと、完全に思考が脱線してたな。

 取り敢えず、現状はザビエルと武装集団の打破が目的だな。

 俺の三半規管はもう本調子になったようなのでさっさと魔導書を展開した。

 そこいらのゲームとか小説的に言えば、神に貰った特有アイテムとか間違いなく使用頻度がダントツに高くなる筈なのだが展開したのはかなり久しぶりな気がするな。

 身体というか意識が魔道書と魔力を貰う以前の状態に引っ張られているのでその辺りの思考に流れつかないんだろうなぁ。

 思わず以前の戦法で対処しようとしてしまう。

 こればっかりはワザワザ変えていかないとだろうなぁ。

 魔法使ったほうが明らかに戦闘が楽だろうし。

 さて、魔導書を展開しを得たので欲しい知識が溢れでてくる。

 判らなかったことがみるみる内に私的に常識となる様はなんとなく爽快である。

 さて、障壁は結構あっさりと崩せそうなので問題はなさそうだ。

 個人的に腹に据えかねるのはザビエルがダントツである。

 武装集団で腹が立つのは先ほど逆撫での練習をしないと無理じゃないかと思う様な発音で言葉を発したリーダーらしきヤツである。

 が、まあこれは言い方が腹立つだけであるので捨ておくことにしよう。

 打倒ザビエルである。

 打倒ザビエルを達成するに当たって問題は障壁であった。

 障壁が俺のこぶしで打ち破れなかったのはどうも質量が一定以上のものでなければ破壊できないような設定であるらしい。

 良く考えてみるとこの世界では魔法が主体であるので高質量な攻撃はあまりない。

 大体がべヒス嬢の様に火とかそういうモノで物理攻撃ではないのだ。

 べヒス嬢の火は魔力で構成されたものだしなぁ。

 実際の火とは訳が違うしどう足掻いても高質量に成り得ないのだ。

 そう考えるとザビエルの障壁は穴を突いた感じで事実上最強になり得る防御を兼ね備えていると言って問題はないだろう。

 今回は問題になるだろうけれどなぁ。

 俺にとってそれの破壊は相当知れているのだ。

「やれやれ」

 武装集団も余裕をこいてる訳だし猶予は潤沢だ。

 こうやってゆっくりと地面に指を突っ込んで見せても何も慌てた素振りを見せない。

 以前の世界なら漏れ無く銃弾をプレゼントして貰える所である。

 両手に力を込めつつ俺はニヤリ、と口の端を吊り上げてみせた。

 それが気に入らなかったのか何やらザビエルは喚き、武装集団はそれに頷いて剣を振り上げた。

「どっせい!」

 残念ながら攻撃モーションに入るのが遅すぎた。

 畳返し――いや、地面の一部をひっくり返してるから地返しって所か――をやってみせると武装集団を巻き込んでザビエルへと擬似土石流が発生した。

 ザビエルがいた場所には少しの丘が完成していた。

 木の代わりにギャグマンガよろしく武装集団が生えていたりしている。

 窒息でもされたら困るので一応、魔法でその辺りが発生しないように細工を施しておく。

 今は衝撃で意識を失っているようであるので動きを見せないが、いざ目覚めたらすぐに脱出できるだろう。

 ザビエル以外。

 ザビエルだけは下敷きになるような格好なので武装集団の全員が脱出した上で土をどけてようやく、といった形である。

「おっそいよー、なーくん!」

 事が済むや否や宇美音子さんがやってきた。

 しかもこの言葉である。

 労いさえ無いのである。

 慣れたものだが。

「そう思うなら手伝ってくれよな……」

 一応提案しておけば次回は改善されるのではないかという淡い期待を込めての発言であったが、この発言自体、以前の世界で幾度も繰り返したことであったので改善のない今を思うと無駄な行動だったと頭を抱える事になった。

「――ナーク、さっきのムランブ教主が来たってことはホーネイがサイレンを――いや、ベルベンドを本腰入れて自分のものにしようとしてるのは明白だ。悪いが舟を上手く入手できるか保証はできない」

 と、俺が宇美音子さんに文句を言っている間に近づいてきたオッドは言った。

 コイツも俺に労いは無しか。

 まあ、重要な要件があった様だからそっちに気を取られるのは仕方ないが。

「いや、別にいいよ。ちょっと俺的に吹っ切れてな。それでちょい思いつくところがあったから問題ないわ」

 ソレにより今までの行動の大半が徒労だという事が判明して気持ちは底辺まで落ち込んでいる訳だけれども。

「と、言いますと?」

 何気に少しばかり目を輝かせてべヒス嬢がそう聞いてきた。

 どうも、昨日の夕食もだけれど俺にというか、俺の行う行動に興味が有るようである。

 好奇心旺盛なんだなべヒス嬢は。

 最初見た時だと想像できない性質である。

「いや、普通に魔族大陸まで瞬間移動すればいいんじゃないかと思ってな」

 ここからでも魔族大陸の生物の気配の位置は大凡把握出来てるし。

 というのも、どうもこの星にはこの大陸の人間以外に人間が生息してる箇所はそうないみたいなのである。

 となると、やたらと離れて密集しているのが魔族ということになるだろう。

 残念ながら魔族大陸そのものを把握することは出来ないので下手したら山にめり込んだりするんじゃねえかなって思わなくもなかったのだが、魔族が移動するルートから計算すれば大凡の地形はわからずとも、どこはまず山にめり込んだりとか破茶滅茶で防御不可能なイベントが発生しない場所であるか等は最低把握できる。

 魔族が通過したゾーンであれば問題がないということなのである。

「色々と転送魔法には制約があるんだが、ナークならその辺り関係ないんだろうな」

 やれやれ、といった感じでオッドは肩をすくめて見せる。

「悪いけど、俺達も連れていってくれないか? 役には立つつもりだ」

 戦場というか死地へと向かうわけなのだがオッドはそう言ってのけた。

 サイレンに止めろやボケがという視線を向けるも、サイレンもオッドと同意見であるようだ。

「オッドは兎に角、少なくとも私はホーネイに何れ消される身だからな。死んでも時期が変わるだけだ」

 なんとなく悟り切ったような目をしているなぁ。

「ところで、なんでサイレンちゃんは殺されそうになってるの? ペロペロできるぐらいすンばらしく可愛いのに!」

 最近、戦闘続きだったからこんなKYでもあたたかい目で眺められるわ。

「まー、大体わかってるよ。取り敢えず、それどーにかするか。後、サイレンの戦闘力部速の解消かな」

 言った通り大凡把握できているのである。

 魔導書を展開すれば一瞬だったという呆気の無さはなんとなく虚しかったけれども。

 サイレンが担いでいる太った棺みたいな物の上に鎮座している人形の様なモノに腕輪やらネックレスやらイヤリングといった装飾品が装着される。

 これは俺の腕輪のような魔法物質である。

形状実装(リード)

 オッドから貰ったイカれた素材を一つ使用してバミューダトライアングルで様々なモノが摩訶不思議融合を果たしたような鉄の塊みたいなモノを作成する。

 これは一応音響楽器である。

「まあ、戦うことになったらこれを振り回してりゃ良いよ」

 振り回すだけで辺りに破壊を撒き散らすのである。

 少々危険だとは思うが、サイレンの戦闘力を考えれば妥当であると信じたい所である。

「取り敢えず、追っ手とかありえるし、魔族大陸に行ってから続きは話すか」

「……私としてもあなたの正体を知りたい」

 太った棺の上に鎮座していた人形――実際は人形ではなかったのだが――が自身の足で地に立ち声を発した。

 いざ動いてみるとただの子供にしか見えない。

 宇美音子さんの目にも同じ様に写ったらしく抱きしめている。

 文字通りペロペロとしゃぶりつきそうな勢いであったので流石に身の危険を感じたのか宇美音子さんを引き剥がしにかかっていた。

 それを眺めるサイレンとオッド。

 唖然という言葉はこういう際に出来たのかと思わざるをえない程に口をあんぐりと開けて固まっている。

 恐らく、この人形だと思っていた子どもがベルベンドなのだろう。

 内包している魔力を視る限りホーネイがサイレンを消してでも手中に収めたいと思う気持ちが理解できるというものである。

 まあ、実際はそこまで知っていたって感じじゃ無さそうだがなぁ。

 知っていたらあの程度の人数ではこないだろうし、サイレンをあんな遠まわしにブチ殺さずに普通に冤罪とかで処刑するだろうしな。

「はいはい、宇美音子さん。一応感動の再開に近い状態だから抱きついて邪魔はしないようにな」

 そう言ってベルベンド(仮)に助力をする。

 引き剥がしが成功すると少しばかり宇美音子さんに睨まれて背中が寒かったが馬鹿な事をしている場合じゃない。

「んじゃ、こいつらが目覚めるとか別働隊が来るとかそういう事ありえない事もないしさっさと行くか」

 ――魔族大陸へと。

 っつか、さっさと瞬間移動の事気がついてりゃ即行だったのにマジで骨折り損のくたびれ儲けじゃねえかよ。

 マジですまんかった!

ぐだぐだと続きます

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