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魔王物語  作者: ragana
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第二十九話 -魔王侵攻宣言-

「たっだいまー! 帰ってきたぞーちゃんと伝えてきたぞワキワキさせろやこらー」

 早朝という時間帯による影響により普段はさして問題も無い出来事が迷惑になる可能性があるという事を全く考慮しない声が聞こえた。

 主に迷惑になる行為は、大きな音を立てる事である。

 普段は大きな音やら轟音やら爆音やらと表現されるが、早朝や深夜といった限定的な時期ではそれらが一切合財騒音へと表記が変貌される事になる。

 その大きな音やら轟音やら爆音というのは主に今の様な大声が含まれる。

 今の様な、だ。

「――……」

 無言による意思疎通を量ってみる。

 宇美音子さんは小首を傾げるばかりだ。

 どう考えても、先の発声が大きな音やら轟音やら爆音に属していて、限時刻の場合、例外はほぼなく騒音になる事に気が付いていないようだ。

 いや、もしかすると、早朝である事にさえ気が付いていないかもしれない。

「……御苦労さま」

 通常であれば文句を五時間ばかし言い、それが終わると悪態をつく時間が始まるのだが、諸所の理由によりそれは却下された。

 諸所の理由というのは、俺がエドルとユウトに魔族についての事を報告してくれという事を頼み、現在それの帰りだという事だ。

 後は、早朝であったが別段睡魔に身を任せていなかったからであるだろうか。

 身を任せていた場合、この状況でも多少の悪態はついていたかもしれない。

 睡眠とは生物にとって必要不可欠なものなのだ。

 ベヒス嬢も同様に睡魔に身を任せていなかった為普段通り表情を表さずに宇美音子さんを眺めていた。

 その顔は非常に真顔で汗が少し見られた。

 と、いうのも、明らかに決戦と言われるであろう戦いが近いので少しばかり付け焼刃宜しく特訓をしていたのだ。

 ベヒス嬢の剣技を俺が教わり、俺の武芸をベヒス嬢に教える。

 こういう相互関係が生まれていた。

 尤も、付け焼刃的なモノを文字通り付けるだけだと考えているので全てを会得するつもりはないし、決戦までそう時間が無いだろうことから時間的にも不可能だろうから意気込んでも無駄である。

「はいはーい。んでねー、エドルだっけ? 彼はユウトの元に戻るってさ。他の勇者にはアタシが手紙を届けておいたからすぐに集まると思うわよ」

 そう言った後に、常人では聞き取れない程度の声量で、ポストが無いから門にめり込ましておいたけど、という呟きは聞かなかった事にした。

「でも、よくユウトとはいえ勇者に会えたな。正直、苦労したんじゃないか?」

 経過時間的にそれ程ではないかもしれないが奮闘したのだろう。

「ん? え? あ、ああーあれね。うんうん。苦労したなー」

 ……。

 嫌な予感がするが、気のせい――

「穏便に伝言してきてくれたよな?」

「ん? あ、あっははー、もっちろーん!」

 ――気のせいじゃないな。

 宇美音子さんは嘘が下手である。

 頭に手を当てて普段はしない阿呆みたいな笑い方をしている。

 愛想笑いというやつに近い。

「……ま、目的達成できてるなら良いか」

 と、言うとすぐに愛想笑いは打ち切られた。

「そうだよねー! んじゃー、ワキワキをば……!」

 そこまでされる覚えはないし、穏便に済ませてきても宇美音子さんに揉みしだかれるつもりは毛頭ない。

 当然、全力で回避させてもらう。

 あわよくば反撃も考えに入れる所存だ。

「っひ! ひゃわっ!」

 と、耳に覚えのない声が聞こえた。

 いや、耳に覚えのある声だが、それが耳に覚えのない声に変化したという声だ。

 事実上耳に覚えのない声である。

「うっへへへー、良いねーツルツルツヤツヤ!」

 と、意味不明――という程ではないが、実際に宇美音子さんの様に変態的な行動には及んでいない為、その真偽を俺が行えないのであくまで想像の範囲内で考える限りでは意味がわかってしまうであろう台詞を吐きつつ揉みしだき始めた。

 ――ベヒス嬢を。

 信じられない、非常に信じられない。

 それはもう、家の玄関を開けたらチュパカブラが闊歩していて、さらに近所の空き地では絶賛ミステリーなサークルを見覚えの無い生物とこれまた見覚えの無い不可思議科学で浮遊効果を得た物体Xを目撃したと聞かされた時の信憑性以上に信憑性が無い。

 だが、事実である。

 現に目の前で巻き起こっている。

「んふふー! なー君も良いけどベヒスちゃんも良いねぇ」

「ひゃっ、あ!」

 宇美音子さんの変態的だけれど一部の人間には扇情的であるだろう手つきの被害にベヒス嬢が選ばれていた。

 嫌な選ばれし者である。

 ベヒス嬢は被害報告をしているかの如く、被害に合わせて普段では考えられない声を上げていた。

 一部の――いやいや、殆どの人間の欲情を引き出しかねない光景が絶賛悪質精製されていた。

 目視していては場合によっては精神が汚染される事請け合いである。

 無論、俺はそんな危険に足を踏み込む訳が無いのでその精製場に対して背を向ける事で回避に成功した。

「わっしわしー」

「ひゃっうっ!」

 ――これは何時まで繰り広げられていて、俺は何時までこの構図を維持すればいいのだろうか。

 決戦まで時間が無いというのにこれである。

 まあ、今までの戦闘経緯を見る限り特訓なんて必要なさそうだけれども。

 勇者側の陣営を援護する意味でならば特訓は必要なんじゃないかと思わなくもないが気にしていては話が進まない。

 いやいや、気にしていないからというか、前面に押し出していないから現在、停滞しているのだけれども。

 さて、現状の混濁感は差し置くとして、宇美音子さんは無事目的を達してきてくれたらしい。

 穏便にという注文は無理だったようだが。

 まあ、それに関しては宇美音子さんの事だから無理なんじゃないかと多少思ってはいたのでまだ大丈夫だ。

 許容範囲内というやつだ。

 だが、言ってしまえば完全にこなせたわけじゃあない。

 となると、御褒美なるものも完全で与えられるなんて甘い事なんて無いだろう。

「宇美音子さん、そこまでにしといてくれ」

 と、言ったがよく考えてみると宇美音子さんがこの状況で人の言葉を受け付ける筈が無かったのであった。

 当然の様にワキワキと名付けられた対象は不快感やら虚脱感やら羞恥心を感じざるを得ないという魔の化身と誤解してしまうような手つきを止めるつもりはない様だ。

 ベヒス嬢は何故脱出しないのかと疑問に思ったが、二人を見て合点が言った。

 ベヒス嬢が脱出しようと動作しようとした瞬間を狙ってその動きを最小限かつ的確に宇美音子さんが抑えつけていた。

 椅子に座った状態で額を抑えられていると立てないというあれと同じようなものだ。

 それを瞬間的にかつ複数行っているのである。

 ベヒス嬢からすれば身体の自由が利かないという錯覚に陥っている最中だろう。

 無駄な技術の乱用である。

 こんな阿呆な事に武芸の境地に近い『先の先』を使う人間は宇美音子さんぐらいじゃないだろうか。

 武芸を嗜む者が見たら卒倒するか激昂するかの二択ぐらいじゃないだろうか。

 もっとマシな使い方があるだろうに。

 いや、マシな使い方もするならまだ良いのだけれども、宇美音子さんはこういう碌でもない事を主軸とした事に御執心らしく、まともな事にはあまり使っていない。

 こういう技術、小手先は戦闘中でもあまり使わないのが宇美音子さんなのだ。

 ああ、当然使うモノは親でも使う俺はこの小手先は使う。

 寧ろ小手先だけで済むように事を運ぶ傾向にある。

 こう改めて考えてみると、俺はつるせこという称号が相応しい人間に見えてしまう。

 その通りだと言われれば否定できない状況にあるのだが。

「で、これからどうするの?」

 ようやく満足したのかベヒス嬢を開放した宇美音子さんが現れた。

 掌を返したかのような真面目な顔である。

 一見真面目じゃない顔なんだけれど。

 ベヒス嬢に目をやると脱力したかのように地に伏している。

 相当やられたなあれは。

 全身に筋肉が弛緩してるんじゃあるまいな。

 鎧を装備していたはずだが、今はすっぴん状態になっているし防御対策も効果を見せなかったようだからそれはもう致命傷だっただろう。

 俺も最初は鎧やらプレートやらを装備したりなんて事をしていたものだ。

 過去の自分を見る様で何だか懐かしい。

 経験上、あの程度で宇美音子さんの悪徳業者の悪徳さえも善良に思える程の悪徳さを秘めた手つきから逃げられない。

 嫌な手腕である。

 助言をしてやりたいし、してやれと思うかもしれないが、助言をすると、更にそれを無碍にするかのように実力を向上させた更に悪質な宇美音子さんが現れるのである。

 これも経験上だ。

 ベヒス嬢には悪いが、俺にはどうしようもないのだ。

 助言するとそれをすぐに突破されるし、そうなると俺への被害も考えなければならなくなる。

 それの対策を考えるのには多少時間が必要なのだ。

 その間、為すがままになってしまうのである。

 ベヒス嬢が被害に遭っている間に先の悪質化をしたモノを想定して、それの対策を講じておかなければなるまい。

 何もしてませんでしたじゃ済まないのだ。

 今回は数分で済んでいるものの、宇美音子さんの気分次第では数時間続いた事がある。

 それを考えると慎重に事を進めざるを得ないのだ。

「これから、魔族側の大陸へと先駆けて行こうと思う」

 それを聞いてベヒス嬢が制止に入ってきた。

 すばやい復活である。

「ナーク、今現在、魔族との戦闘には勝利を収めてきていますが、それが続くという甘い考えは捨ててほしいです。あの魔族は研究員。魔法は研究員の方が一般人より明らかに強力ですが戦闘には慣れていません。魔族の兵士となると、研究員程ではありませんが魔法を嗜み、更にその身体能力や武器の扱いの熟練度などは一般人も研究員さえも凌駕する実力を秘めている筈です」

 まあ、確かにな。

 魔法は学問みたいなイメージがあるから研究員とか学問に特化していそうなヤツが魔法の熟練者になるというのは当然の考えという訳だ。

 ああ、合ってるんだよそれでな。

 俺みたいな例外もいるけども。

 だが、ベヒス嬢が言う様に魔法が使えれば強いという単純な図式は成り立たないのである。

 例えば、使用方法を知っていると確実に全ての道具を扱えるかと言われると断言できない様なものだ。

 知識に経験が付随するものではなく、経験は時として知識に勝るという事だ。

 どちらか一方が特化していても話しにならない。

 いってしまえば片方が世界一でも両方が世界二位のヤツにはどうやっても勝てないという事だ。

「うん、まあそうなんだろうけどね。それでも、だな」

 だが、この世界の住人――魔族も含め、だ――はそのどちらも一位ではない。

 魔法は魔道書持ちである俺が掌握する事が可能だろう。

 先の戦闘でそれを実感した。

 研究員でさえわからない魔法を行使できるという事は大きい。

 魔力を持たず魔法など奇怪なものを行使できないであろう宇美音子さんも魔族戦で後れを取らなかった事を見ると体術面でも勝っていると考えていいだろう。

 この世界では魔法があるばかりに武芸が発達していない。

 それゆえだろう。

 どの程度の応用範囲と効力があるのかは確認していないが、丹分清さんから渡された不思議アイテムにて怪奇現象を行使できる可能性がある。

 それを踏まえるとかなりこちらがリードしていると考えていいだろう。

 油断は禁物だけれども。

 武芸は極めるのに時間が一定以上は最低限かかるが、魔法は学問に近い。

 となると、武芸の様に身体づくりなど物理的なモノは必要ではないので俺の様に例外が存在する。

 この世界の住人が魔法に注目しているのは正しいと言える。

 突飛的に異常な強さの者が現れる可能性があるのが魔法なのである。

 それも、魔法はやり方によっては一方的な勝負に持ち込めるのである。

 逆に言えば一方的な勝負に持ち込まれる可能性があるという事になる。

 その辺りは警戒していかなければならないだろう。

 特に、魔族はその魔法に特化した存在と聞いているし、先の戦闘を見る限り、やはり魔法主軸の戦闘になっていた。

 肉弾戦は全く使わなかった、そう断言して良い戦闘方法だった。

 となると、肉弾戦は奥の手として置いてある場合と、軽視して使用しない場合、そして適性が無く使用できない為やむを得ず魔法のみでの戦闘になっているかのどれかぐらいではないだろうか。

 他にもあるかもしれないが、現状思いつくのはそれぐらいである。

 体つきを見た所、適性が無い訳ではないだろうが鍛えている素振りも見えなかった。

 つまり、奥の手であるというのは削除しても良いかもしれない。

 あの筋肉で武芸を行っても一般人相手ならともかく、宇美音子さんといった達人という存在に対しては効力は低いどころか皆無――いや、寧ろ隙になる。

 魔法の補助がある事を鑑みても、だ。

 となると、武芸を軽視して使用しないというのが濃厚になる。

 もし事実であるならばこちらが考えるべき事柄が大幅に削減される。

「しかし、危険すぎるのでは? 良く考えて下さい」

 というベヒス嬢の声も理解は出来る。

 理解は出来るがそうであるとはあまり思わない。

 一見、危険であった先の戦闘だが、あれは別段危険という訳ではなく、寧ろ余裕の部類であったと思う。

 おそらく、あのまま撃退しなくても魔法の一撃も喰らわなかっただろう。

 俺の場合は魔道書があれば基本的に魔法は、無効化や反効果魔法による相殺などにより無力化が可能なので魔法は脅威ですらない。

 魔法が脅威であるはずの宇美音子さんは、俺よりも素早い上に、俺の様に無闇で脆弱な特性が無いため、立体的な軌道で移動する事が可能なのだ。

 俺で攻撃を食らう気にならないのだから攻撃があたるはずもない。

 ベヒス嬢もこの世界の人間の中でも最強に位置する一人である。

 魔族に後れを取るように思えない。

 ベヒス嬢が負けるのであればおそらく人間の軍は間違いなくそれ以下であるのでそもそもが勝てないという事になる。

 ま、そうなったら勝ち目は無いので逃げるだろう。

 世界が滅ぶのは惜しいけれど、どうしようもないものは仕方が無いと考えるだろう。

 判明した瞬間から前線から離れ、別の世界へと移動する方法を考察するだろう。

 魔法に関しては魔道書があれば参照できるため、なんら問題なく発見できるだろう。

 俺としてはこの世界は滅んでほしくは無いが仕方ないのだ。

 ――この先は実際に世界が滅ぶと判った時に考察する事にしよう。

「ベヒス、宇美音子さんがいる今、少なくとも俺達三人の誰か一人でも死ぬ可能性は殆どないんだよ。もし、負けるのなら誰も勝てないだろうな」

 そこまで断言できる程にこの世界は魔法にのみ特化してしまっている。

 何か一つが強力であれば確かに強大で強力になれる。

 なれるが、限界はあるし、バランス良く他のものも発展させたものと対峙した場合、間違いなく敗北を喫することになる。

 それに、全ての項目が平等という訳ではない。

 現状から鑑みると、魔法より武芸の方が強力である事が見て取れる。

 現に、俺は殆どを魔法の行使無しで勝利を収めている。

 宇美音子さんならば間違いなく魔族相手でも数人程度なら問題なく傷も負わずに魔法無しで勝てるだろう。

 条件さえ整えば中隊やら大隊という様な規模でも対応できるのではないだろうかと考えている。

 後者はあくまで推論にしか過ぎないが、前者は例外なく行える。

 呼吸の様なものだ。

「死ぬ可能性が殆ど無いとは言っても、危険度が多少でも上がることに変わりはありません。私は、万が一でもナークやうみねこには死んでほしくないのです」

 言われた側としては嬉しい限りである。

 勿論、それを表現するために今直ぐ事実上の単身突撃は取り止めにしたいところだ。

 ところで、宇美音子さんという部分の発音、なんだかおかしかったな。

 もしかすると、翻訳魔法を使用してもこの世界に存在しない呼び名やモノの名称は上手く聞き取れないのだろうか。

 よく考えてみると納得がいく。

 常識的に考えて、翻訳魔法は翻訳をするものだ。

 無い言葉の翻訳は不可能。

 そういう訳だろう。

 この世界で話をするときは注意したほうが良いかもしれないな。

 よく考えたらテレビとか無いし、勇者の前でそれ関連の話やらは禁則事項だな。

 そういえば、フィニーアがユウトを呼ぶ際も多少イントネーションがおかしかった気がする。

 今からすれば遠い昔なので詳細に思い出すことは叶わないわけで、確認を取るすべはなかった。

「まあでも、このまま何もしないってのもな。魔族の大陸へ侵攻する組織がどれほどの戦力かしらないけどそれ程じゃないんじゃないか? たとえそこそこ強かったとしても図体がでかいからな。小回りがきく少人数でそこそこの戦力がある俺らが撹乱しといた方が成功率は上がるだろ」

 下手したらこっち側が負けちゃうんだし。

「――そうですね。その言葉は頷ける部分もあります。確かに、対軍決戦魔法兵器と戦術魔法が製造されたとは言え魔族と人間には差がありすぎます」

 やけに魔族を知ったような口ぶりだな。

 ここ最近魔族と触れ合う機会なんて無かったはずなんだが――。

 俺の心境を読んだのか、それとも表情に出てしまったのかは判らないが――

「エルフと魔族は多少なりとも繋がりがあったのです。元々エルフは魔族だったそうですし」

 ああ、そういえばベヒス嬢はエルフとのハーフだったっけか。

 ん?

 俺、エルフ見たことねえな、と聞いてみた。

「エルフといった魔族を除いた人間以外の存在は主に『盾の勇者の国ファンドラ』に住んでいますよ。そこ以外では滅多に見かけませんね。私が例外なだけで血をひく者も滅多に見かけないですね」

 だから、魔力量が多いのだろうかね。

 まあ、そこはどうでもいいから放置だけれど。

「ベヒスちゃんがエルフだってー! それ初耳! もっと早く言ってよ! ワキワキしないと!」

 と、知らなかった事実を聞かされて錯乱した振りをしてベヒス嬢をこね回し始める宇美音子さん。

 自重というものを知らないのだろうか知らないだろうな。

 出来れば覚えて欲しいけれどまあ無理か。

「あぁっひゃうっ!」

 ベヒス嬢、キャラ崩壊の兆しだな。

 そして、南無南無。

 ご愁傷さまというヤツだ。

 完全に宇美音子さんは調子にのっている。

 先程より明らかに腕のキレが凄まじいのだ。

 俺が妨害しようとしても一苦労だろう。

「あー、まあなんだ。その状態でいいから聞いといてくれ」

「た、助けてください! 身体の自由が効かないのです! うみねこは本当に魔法が使えないのですか!?」

 身体の自由が効かないわけじゃないんだがな。

 魔法ってわけじゃあない。

 事実上魔法みたいなもんだけどな。

「無理無理。助けるなんてとんでもない。宇美音子さんの顔見てみろよ。明らかにこの世ざる者になりかねん顔だ。止められたとしても止めたくないな。何が起きるか判らん」

 そういうと、一瞬絶望的な顔を浮かべ、もがきが強くなったように思えた。

 と、いうのも、そのもがきも全て封じられてしまっているので確認する方法がないのだ。

 ベヒス嬢の先程よりも必死そうな顔を見る限りは先よりも暴れていると感じ取れるのである。

 そんな状況にそぐわなくて話にそぐわない場面はスルーすることにする。

 俺に出来ることはこのまま話を続けることだけなのである。

 今だけなら俺のことはレコーダーだと勘違いしてくれていい。

 宇美音子さんの暴走のとばっちりが来なければ万事オッケーなのだ。

「あー、取り敢えずこれは決定事項だから。わかってるとは思うけど、魔族側との予想戦力差が多すぎるだろ。幾ら軍を出すとは言っても海を渡るから少なくとも船の関係で一度に送れる人数は限られる。そう考えると、人数では勝てないし、戦闘能力で言うと圧倒的にこっちが劣ってんだし普通に考えて順当にやれば負けるよ。勇者が何とかするっていうのも何も知らない頃は挙げてただろうけど、カタブキとの戦闘を思い返す限りそれは無理だろうな。あくまで戦闘能力が高いだけだからな。まあ、盾やら薬といった勇者は名前からしてその辺いけるかもしれんけどな。後は良く解らん箱の勇者か」

 ところで、箱ってなんだ箱って。

 他と比べたら明らかに役立たず臭しか感じねえぞ。

 さて、余計な思考はここいらで切り上げるとしよう。

「兎に角、だ。ベヒスの意見を尊重したいとこだし、正直俺も行きたくねえけど、このままだったらほぼ確実に負けるから先駆けて魔族の大陸へ行くぞ。ベヒス達が行かないって場合でも俺ひとりで行くつもりだ」

 ベヒス嬢が反論できる状況でないことを良い事に、取り敢えず宣言だけ取り付けておくのだった。

宇美音子さんのセクハラ無双です。

このセクハラは状況に合わずとも無双をやらかしそうです。

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