この世界は終わりに向かっているらしい
「世界を救う?何を言っているんですか?私にはそんな力ありませんよ。」
「いいえ、あるわ。エル、あなたのその魔力があれば、どうにかなるわ。それにあなたは黒の民の子。少なからず無関係ではないわ。」
「魔力?私に魔力があるんですか?それに黒の民っていったい…」
「ちょっと待っておくれ、エルにはまだ何も話をしていないんだよ。お前さんはちょっと席を外してくれないか。私とエルの二人きりにしてくれ。」
「わかったわ。精霊の湖にいるわ。終わったら呼びに来てほしい。」
そいうとリンと名乗った精霊は、家を出て行った。
◇
「これでも飲んでお互い落ち着こうかねぇ。」
そいうとおばあさんは暖かいお茶を入れてくれた。
先ほどリンと口論していた時とは違く、いつもの穏やかなおばあさんに戻っていた。
「おばあさん、私…」
「まぁ、座って。これから長い話になる。そしてこの話はできればエルには関係のない話であってほしかった…だが、運命なのか。話さずにはいられなかった…」
おばあさんが聞かせてくれた話はこの世界が確実に滅びに向かっている事実だった。
◇
エルには少し話していたかもしれないが、精霊が見える女性と精霊が結婚し、子供が生れ、その子供が精霊を見える子と精霊が見えない子に分かれてそれぞれ村を作ったって話はしただろう?
それは実際の話で、この話には続きがあるのさ。
見えない子供の作った村は国になり、次第に大きくなっていった。
しかし、何百年かしたある時から王族代々受けづぐ精霊の力はどんどん弱くなっていった。理由はおそらく血が薄くなったんだろうよ。あれこれ、策を練ったがどうにも力が弱まっていく一方だった。
そんな時、ある時一冊の本が見つかる。それは初代王の日記だった。そこには精霊の力は使えなくとも精霊と契約することで力を操れる一族がいることを知る。
その事実を知ると王族は早かった。伝承にあった精霊樹を見つけ、精霊樹の守り人である一族と精霊を利用した。言葉巧みに村に入り込み、気づいた時には家族を人質に取り、精霊を酷使しさせて、若い女性は子供を作る道具にし、そうやって精霊たちと一族を利用した。
しかし、精霊たちも人々も無抵抗ではなく、戦おうとしたが、精霊樹を燃やすと脅されどうにもできなかった。
何百年も利用した。利用し続けた。その影響が今出てきているわけだ。もとより精霊は世界のエネルギーの管理者。精霊樹はその管理者を生み出す母。彼らを利用し続けたことで世界のバランスは崩れ、飢餓や疫病、災害がいまこの世界のあちこちで溢れかえっている。加えて魔物。精霊たちの長年の恨み、人々の負のエネルギーをため込んだせいで、精霊たちは世界を破壊尽くす魔物になってしまっている。
この世界は、今終わりに向かっているのさ。
◇
「これが、この世界の真実。人々は世界が終わることにいまだに気づかない。なぜなら精霊を見て、声を聴くことのできる一族を皆殺しにしてしまったからね。」
あまりの事実に私は言葉が出なかった。世界が終わる?
「ちょっと待ってください。おばあさん、私は何なんですか?精霊が見れて、声も交わせる。」
「エルの容姿、黒目、黒髪は精霊が見れる一族の特徴の『黒の民』と一致している。だから、黒の民の末柄だと私は判断し、なんだかの事情でここまで逃げてきたんだろうと判断したんだ。記憶を失っているのもその影響かと思っていたんだよ。」
「『黒の民』って何ですか?」
「黒の民っていうのは、黒目、黒髪、精霊と意思疎通ができて、体内に膨大な魔力を持っているが、その魔力を使うことができないのが特徴なのさ。しかし、精霊と契約をすることで精霊に魔力を渡し、対価として精霊に力を使用することができる。この魔力が枯渇している世界では精霊にとってエルは救命スポットみたいなものなんだよ。精霊は魔力がないと生きていけない。だから、先ほどの精霊、リンはお前さんと契約して、力を得たいと思ったんだろうよ。」
「ほかの人はその魔法のような力は持っているんですか。」
「魔力を操れるものは、黒の民を操った国の王族が力が使えるね。理由は先祖が黒の民の血縁者なんだろう。普通の人には使えないはずだよ。」
おばあさんの話を聞いて私は何もわからなくなった。いつかおばあさんのもとを離れて、世界をめぐりたいとは思っていたが、その世界は終わりに向かっていて、世界を救うことが自分に求められている。
「おばあさん、ちょっと一人で考えたいので外に出てきます。」
おばあさんにそう告げて私は再び外に出た。
私の中でぐるぐるととめどない考えが浮かんでいた。私は精霊を見ることのできる最後の生き残りかもしれず、精霊を救えるのは私しかいない。そんな現実を受け止めきれなかった。
そしてなんとなく、これは神が言った呪いなのではないだろうかと感じていた。終わりゆく世界で自分の手で救えだなんて…私はどうすればいいんだろう。




