『椿』
結末がグダグダになって、すいません(汗)
撮影は滞りなく進み、廉は色んなポーズでカメラマンに応える。さすが俳優・・・嫌な顔一つせず、笑顔でやってのける様は、さすがといった所か・・・。
伊達に芸能界で生きてきた訳じゃない。一つ一つの仕草に、無駄が無く・・・洗練された身のこなし。誰が見ても、ついつい魅入ってしまいそう・・・。
「OK!!お疲れ様でーす」
「お疲れ様です!」
カメラマンがシャッターを切った回数、ざっと百回以上・・・。この中から、厳選された一枚が表紙となるのだろう・・・。
「それじゃ、少し休憩をしましょう!!」
編集長の声で、私はスタジオを出る。もちろん、廉も一緒だ。
「このインタビューが終わったら、少し時間を貰えないかな?」
「仕事が残ってますので」
事務的な言葉・・・。まるで二人は他人のように・・・。
「そっ・・か・・・」
「失礼します」
残念そうな表情に、少し躊躇いもあったが、私は冷静を装いあくまで事務的に接する。
休憩中は、私は廉から離れて自分の仕事に専念する。でも、普段から仕事を溜め込む事が嫌いな私は、今日の仕事である事務処理を数分で終わらせて、すぐに手持ち無沙汰になってしまう。
(仕事、少し溜めとけばよかったなぁ)
心の中で呟き、私は小さなため息を漏らす・・・。ふと見上げた先には、大勢の女子社員に囲まれた廉の姿。対面するように廉に話しかけているのは、もちろん恵理・・・。
私も他人同士なら、あの輪の中に入ってられたのになぁ・・・。
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休憩も終わり(ってか廉は休憩出来なかったような)、私達はこのフロアの応接室でインタビューを始める。・・・のだが
「インタビュアーは、黒野さんにお願いしたいんですが・・・」
なんて廉が我が儘を言ったものだから、断る事も出来ず、現在に至る・・・。
「黒宮さんは、恋をしていますか?」
「しています」
「あら、それじゃファンの方達が悲しみますね〜」
なんて少しプライベートな質問にも、彼は真摯に答えてくれる。
(好きな人、いるんだ・・・)
ちょっと、胸が痛かった。でも、仕方ない・・・浮いた噂はなくとも、廉にだって好きな人くらいはいるだろう・・・。
淡々と質問に答えてくれて、インタビューは終わりを迎える・・・。
「以上でインタビューを終わります。本日は本当に、ありがとうございました!!」
「こちらこそ・・・と言いたいんですが、まだ終わっていないんです」
は?
「編集長、少しだけ・・・席を外して貰えますか?」
「もちろん!!」
どゆこと?
「今度は、俺が椿にインタビューする番だ」
編集長が席を外して、二人っきりになった応接室で、再び廉は、口を開いた。
「どうして?」
訳がわからず混乱する私を余所に、廉は私に質問した。
「現在、黒野さんには彼氏はいますか?」
「・・・いません」
「初恋は、いつですか?」
「物心ついた時・・・からです」
「では、次の質問です」
「待って!!なに?何がしたいの?」
廉の言ってる質問に理解が出来ず、私は質問を止めた。
でも、彼は私を無視して質問をする・・・。
「今でも、初恋の相手の事が、好きですか?」
「・・・え・・?」
「繰り返します。今でもその人の事が、好きですか?」
「・・・好き・・です」
言った・・・。
言ってしまった・・・。
素直な気持ち・・・今、目の前にいる廉に対する想いを・・・。
「これが、最後の質問です・・・」
「・・・はい」
「もし、その人からプロポーズされたら、黒野さんはどうしますか?」
「・・・今度こそ、自分の気持ちに素直になって・・全ての想いを、伝えます!」
「・・・よかった」
「え?」
それは、あの日以来ずっと見る事のなかった、心からの笑顔・・・。いつも私の側で見せてくれた、屈託のない、私だけの・・・。
「五年越しのプロポーズ・・・。今でも、好き・・・なんだ」
「それは、演技?」
「違う。本心・・・」
「どうして・・・?私の事、憎んでる筈でしょ!?」
彼の真意がわからない・・・今更、五年越しのプロポーズなんて・・・。
「憎んでるよ・・・いや、正確には、憎んでいた・・・かな」
「なら、どうして・・・」
「今から話す事は、演技じゃない。これは俺の本当の気持ち・・・聞いて欲しい」
「・・・わかった」
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「俺は復讐を果たして、椿への想いを断ち切ったつもりだった。・・・けど、残ったものは、言いようのない喪失感・・・。がむしゃらにもがいて、多忙な毎日を送り、復讐を糧にはい上がって、ようやくここまで昇りつめた俺は、一つの勘違いをしていた。それは復讐ではなく、椿に認めてもらう事だったんだ。それを俺は勘違いして、椿を傷つけて・・・。目をつむる度に浮かんでくる、小さかった椿・・・そして、同窓会の後に見せた泣き顔。・・・理解するのに、こんなに時間がかかってしまった」
とても長く、一つ一つの言葉が私の心に、響く・・・。
「椿?」
「え、あ・・・」
気付かないうちに、私は涙を流していたんだ・・・。馴れた手つきでハンカチを私の頬へと当て、優しく涙を拭ってくれる。
「馴れてるねぇ!?」
「ばっ、こんな事、好きなやつにしかしねぇよ・・・」
演技でもなく、本心だろう・・・廉の頬が、真っ赤になってる。
「ごめん・・・」
私の涙を拭いながら、廉は私に謝った。
「謝らなきゃいけないのは、私のほうだよ・・・意地張って、傷つけて・・・」
「もう、気にしてないよ。だから・・・長い時間をずっと、一緒に過ごして行きたい・・・」
五年という長い月日を、この一言が綺麗に、拭ってゆく・・・。
悲しさも・・・
切なさも・・・
苦しみも・・・
心を蝕んでいた、様々な『痛み』が、今ゆっくりと・・・頬を伝って、地面へと流れ、落ちてゆく・・・。
「廉は、本当に・・・私でいいの?」
「なんで?」
「だ、だってさっきのインタビューで、好きな人がいるって・・・」
そう・・・廉の告白が嬉しい反面、インタビュー時に廉の言った『好きな人』が、私の心に躊躇いを植え付けていた。
「まだ、わかんない?」
「・・・ふぇ?」
「俺の好きな人は、椿以外にいない!」
「じゃあ・・・」
「あのインタビューで言った事は、本当の事だよ。もちろん、恋をしている相手は・・・今、俺の目の前にいる人。あのインタビューは、椿に伝えたかったメッセージなんだ・・・」
今更ながら、自分が鈍感なんだと感じる・・・。
「返事、くれないか?」
「・・・私も、好き、です・・・ずっと、ずっと、同じ時間を、二人で、過ごしていたい・・・」
一瞬の静寂・・・。彼の温もりが、私の唇にそっと・・・。
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離さない・・・。もう、離れない・・・。永久に誓ったこの想いは・・・
やがて大きな、花を咲かせる・・・
紅く美しい・・・
『椿』の花を・・・
最後までこの小説に付き合って下さった読者の皆さん、本当にありがとうございます!次作ではよりわかりやすく、心を掴める小説を書きたいと思いますので、応援してください。 真稀