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TOKYOダンジョン  作者: 佐世 保
秋葉原サバイバル
9/29

3月26日 あたし、最低だ

「眠いぞー」

「眠い~」


 カオルとアユは寝不足にボヤきながら、地下駐車場に座り込み、矢を作っていた。

 昨夜は精霊神と契約し魔法が使えるようになった。とはいっても、実際に使ってみた訳ではなかった。

 試せる場がなかった。屋内で試すには危険すぎるということだった。

 精霊神と交信ができたので、どのような魔法が使えるのか、どう使いたいのかを語り合うことはできた。それでイメージはできたのだが、実際やってみなければ結果はわからなかった。

 その語り合いも寝不足の原因のひとつなのだが、もうひとつの原因の方が深刻で重要だった。

 涼子のことだ。

 あの場ではなんとなく聞きそびれたことが、カオルの心を重たくしていた。


 涼子は、いつ、どこで、どのようにして精霊神ラタプという存在と知り合ったのか?


 高校に入って出合い、友人となった涼子とは一体何者なのか?知り合う以前の涼子はどのような経歴の持ち主なのか?


 涼子は、なぜ二人が魔法を使えるようにしようと思ったのか?


 さらに言えば、突然モンスターが現れたのは涼子と関係があるのではないか、という疑念がカオルの心にしこりのようにこびりついていた。

 これらのことを昨日は飲み込もうと思った。しかし、考えまいとすればするほど、考え込んでしまう自分をもて余していた。


「あーもう、スッキリしないなあ」


 元々カオルは細かい作業も、細々としたことを考えるのも苦手だった。


「カオル~弓の練習でもしてくれば~」


 アユはカオルが頭で考えるより、身体を動かす方が好きなことを知っている。


「そうしようかなー」

『カオルらしくないな』

「あ、テューレイおはよー」


 頭の中に響いた声に、思わずカオルは声に出して応えてしまった。

 昨晩と異なり今は武器を作っている他の人たちがいた。慌てて口を押さえたカオルは辺りを見回した。

 幸い誰もカオルを見てはいなかった。


『ヤバいヤバい、つい口にでちゃったよ』

『ああ、スマン』

『誰も聞いてなかったから問題無し。で、誰がらしくないって?』

『カオルが』

『んー分かってるよ。だけど、どうしていいかは分かんないんだよ』


 テューレイと話をしながらも、カオルの手は休まず動いていた。


『事情あってのこと、というのは分かってるんだよ。友達なら黙って飲み込んでやれって思うんだけど、でもスッキリしないんだ』

『カオル、それは自分に苛ついているんじゃないのか』

『そうだね……やっぱ、あたし自分に苛ついてんだよね』


 カオルは溜め息をついた。



「あなたたち、今すぐ止めなさい!」


 突然響いた金切り声に、カオルはびっくりして手を止めた。

 声の主は、一昨日若い男性とモンスターの存在について言い争いをしていた、年配の女性だった。


「落ち着いて下さい、斉藤さん」


 一階で監視についていたはずの阿部が、女性を懸命になだめていた。

 当初、一階と地下は使わない予定だったが、武器の練習に適した場所が他になかったこと、重い材料を上まで運ぶ手間などを考慮した結果、地下も利用することにしたのだった。

 そこで一階にある警備室の機器類操作に慣れた阿部が、監視をかねて警備室に詰めることが多かった。

 斉藤という女性は、建設会社のOLで、いわゆる『お局様』だと誰かが言っているのをカオルも聞いた。ヒステリックな性格が災いして、四十を過ぎて未だお一人様らしかった。


「あなたね!こんなものを作り始めたのは!」


 斉藤女史はアユに詰め寄り、まくし立てた。

 アユは目を丸くして呆気に取られていた。


「あなたみたいなのが動物虐待とか、殺人事件とか起こすのよ!みんなに武器を持たせて何がしたいの!?みんなを死なせたいわけ!?死んだ人のご家族に申し開きができるの!?死ぬならあなた一人で死ねばいいのよ!私たちを巻き込まないで!」


 アユは身体をこわばらせ、涙目になっていた。

 カオルの血が沸騰した。

 この女は何を言っているのか、アユのことを知りもしないで、周りの状況を見もしないで、戦いたくないですと言えばモンスターが見逃してくれるとでもいうのか。

 カオルはゆっくりと立ち上がった。


『よせっ、カオル』


 テューレイの声が頭の中で響いた。

 その声でカオルは我に返った。目の前の斉藤女史の顔がひきつっている。周りの視線が自分に集中していた。


「何よあんた……何なのそれは!」


 斉藤女史の視線はカオルの頭上を見ていた。それに気付いたカオルは上を見た。

 そこには炎の塊が浮かんでいた。

 スプリンクラーが弾け飛んだ。消火剤が勢いよく吹き出し、非常ベルが鳴り響いた。


「化け物っ!」


 斉藤女史はジリジリと後退り、少し離れたところで身を翻すと、倒けつ転びつ逃げて行った。


「あたし……最低だ……」


 炎の塊は次第に小さくなり、消えていった。


 消火剤の泡を浴び続けているカオルは、涼子や滝本が駆けつけるまで、泣きながら立ち尽くしていた。





お読み頂きありがとうございます。


見直しはしているのに抜けが多いなあ。


少しづつ改訂入れます。

小出しにするのも考えものです。

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