22 ご挨拶
「ジャンヌ!どうしよう」
浮かれたパーティから一夜明けて……冷静になると、私はある心配が出てきた。ラフのご両親にご挨拶も何もしていないのに、婚約だなんだと勝手に言ってしまって私はどう思われているのだろうかということだ。
ラフは公爵家、我が家は伯爵家。結婚できなくもないが、微妙な身分差だ。我が家からしたら玉の輿だが、向こうからしたらメリットも何もない。
もちろん、彼が公爵家でお金持ちだから好きになったわけでは決してないが……世間的にはそうなのだ。
「ラフのご両親からしたら、私ってかなり失礼なんじゃないかしら」
「あれだけお嬢様にベタ惚れなんですから、ラファエル様が上手く説明されているでしょう」
「いや、でも!」
私は血の気が引いてきた。大好きな人のご両親……できれば好かれたいではないか。
「お父様!お父様っ!」
私は最低限の身なりを整えただけで、急いでリビングに降りた。
「ロザリー、おはよう。おや、なんだい?朝から賑やかだね」
「ラフ……ラファエル様のご両親にご挨拶してないの!どうしましょう。嫌われちゃったかもしれない」
私がおろおろとする姿を、お父様はハハッと笑った。
「昨日は大人になったと感慨深かったが、君はやはりまだまだ手のかかる娘のようだ」
お父様は眼を細めて、私の髪を優しく何度も撫でた。
「心配しなくていい。そんなことだろうと思って、昨日会場でご挨拶は済ませた。お二人ともロザリーを歓迎してくださるそうだ」
「本当……ですか?」
「ああ、ラファエル様が君を好きだと知っていたそうだ。息子を頼むと逆に頼まれたくらいだ」
「お父様っ!ありがとう、大好き」
またラフとアランブール公爵が一緒に、我が家にご挨拶に来てくださるらしい。
♢♢♢
「ロザリー嬢、きちんと話すのは初めてだね。私はラファエルの父親のピエール・アランブールだ。会えて嬉しいよ」
ラフにそっくりながらも、年を重ねられている分ダンディで落ち着いていてセクシーだ。私は初めて近くで見るラフのお父様についポーッと見惚れてしまった。ラフは完全にお父様似ね。
「よ、よろしくお願い致します」
緊張しながら彼に差し出された手を取って、握手をした。
「ふふ、ラファエルに聞いてた通りとっても可愛いね。こんな可愛い君が私の義娘になるなんて幸せだよ」
「…………っ!」
優しく微笑むアランブール公爵が素敵すぎて、言葉を失う。ラフも年を重ねたら公爵みたいにダンディになるのかな。
「父上、そろそろ離してください」
ピクピクと眉を吊り上げて、低く怒った声を出したのはラフだ。
「父親にまで妬くとは……お前は本当に余裕がないな」
「なんとでも言ってください」
彼は公爵から私の手を強引に引き剥がした。それを見て公爵ははぁ、とため息をつく。
「ロザリー嬢、考え直すなら今だよ。こんな狭量な男が夫で本当にいいのかい?」
「ち、父上!何を言うんですか!?ロージー、まさか考え直すなんて言わないよね?悪いけどもう君が嫌だって言ったって離してあげられない!!」
彼は急にサーッと青ざめ焦りだし、大きな声でそう言った。
「どんな彼も好きなので……大丈夫です」
私が真っ赤になりながらそう伝えると、ラフも同じように頬を染めた。お父様も公爵もそんな様子の私達を見て、優しく微笑んだ。
「ロザリー、愛する人を見つけてよかったな。公爵、ラファエル様……娘をどうぞよろしくお願い致します」
「はい。私の全てをかけて幸せにします」
「息子がこんなに表情豊かになったのは彼女のお陰です。アランブール家全員、ロザリー嬢を大切にします。どうか安心なさってください」
そしてその日のうちに正式に婚約をして、半年後に結婚という流れに決まった。
弟のシルヴァンは格好良いお義兄様ができたと大喜びし、結婚を喜んでくれた。あんなに私と結婚したいと言ってくれてたのに……少しだけ寂しい。でも、彼が祝福してくれたことは嬉しかった。
そして後日ラフのお母様と妹さんにもお会いしたが、二人ともとても良い方で私を歓迎してくれた。ラフが私を好きなことをご存知だったそうで、むしろ「結婚してくれてありがとう」と感謝された。
その時に彼の愛馬にもやっと会うことができて、仲良くなることができた。よく走る強い馬な分気に入らない人の前では気性が荒いと聞いて心配していたけれど、私の前ではすごく大人しく甘えてくれた。どうやら馬も『飼い主』に似るようだ。
♢♢♢
そして今、私はマッチングの用紙を提出しに王宮に来ている。コンテストであんなに派手に婚約したので、出す必要はないのかもしれないけれど……決まりは決まりなので一応『婚約したい』に丸をつけて出すことにした。
ラフにどうしたらいいかな、と相談したら彼は三回目のデートが終わった時点ですぐに『婚約したい』に丸して提出済みだと当たり前のように言っていたから。
用紙を提出し終わると、私が来るのを知っていたかのようなタイミングでパーシヴァル殿下がひょっこりと顔を出された。
「やあ、ロザリー嬢。奇遇だね。お茶でもどうかな?」
「殿下っ!ご機嫌うるわしゅうございます。先日のコンテストでは大変お世話になり……」
私が挨拶とお礼をしようと話し出すと、彼は「あー……挨拶はよいよい」と面倒くさそうに仰られた。いや、国の第一王子がそこを面倒くさがるなんて。
「話したいことがある。おいで」
そう言われてしまえば断れるわけがない。私はとぼとぼと後ろをついて行った。
「ラファエルとはどうだい?仲良くやっているか?」
「ええ、とても順調ですわ」
「まあ、そうだろうな。最近あいつは顔が緩みっぱなしで気持ちが悪いからな。まあ、無表情な時より何倍もいいが」
殿下はケラケラと面白そうに笑っていたが、急に顔を引き締めた。
「マリヴォンヌ嬢の処分が決まったよ」
「処分が……そうですか」
その処分はなかなかに重いものだった。彼女は歌姫になりたいばかりに、今回のコンテストで私の票を隠しどんな歌を披露したとしても票を入れるように金をばらまいて頼んでいた。そのことの証拠を全て掴んだらしい。それに加えて、私のドレスを破いたのも彼女が金で雇った男だったことがわかった。
「彼女だけじゃない。カスタニエ公爵家全体での大規模な不正だった。父上は許しがたいと、国外追放を言い渡したよ」
「こ、国外追放ですか!?でも我が国の伝統ある公爵家なのに……」
「関係ない。歌姫は色んなことを優遇される……それを手に入れようとして不正をした罪は重い。それに王家主催のコンテストに泥を塗った訳だしね」
たしかにそれはそうだ。王家への反逆とも捉えられかねない。
「君がコンテストに出ると聞いて、負けると思い焦ったらしい」
「え?でもマリヴォンヌ様は私のことを下手だといつも言われていました」
「それは嘘だ。幼い頃、君の歌声を聞いて勝てないと思ったそうだ。それでわざと酷いことを言ったら……君は歌えなくなった。それで安心していたのに今回コンテストに君が出てきたので、不安で不正をしたそうだ。この話を聞いた時のラファエルの怒り具合は半端じゃなかったぞ」
まさか……そうだったのか。彼女が私をそんな風に思っていたなんて知らなかった。
「彼女は歌が上手です」
「……そうだね。技術的に申し分ないし、華やかな歌声だ。恐らく前回のコンテストでは不正はなく、実力で一位だったはずだよ。もう証明しようがないけれどね」
こんな卑怯なことをしなくても、彼女と私は良いライバルになれたはずなのに。お互いないものを持っていたのに……そう思うと少し切なくなった。
「彼女は歌姫になったら、ラファエルに求婚すると言い回っていたそうだな。ふふ……だからロザリー嬢は今回コンテストに出たのか?」
「えっ……あっ……いや……」
そんなところまでばれているのか。私は頬が真っ赤に染まった。
「ゔぅっ……はい、そうです」
「はっはっは、熱いことだ。ラファエルなら例えあの女に求婚されていたとしても、ありとあらゆる手を使って頷くことを阻止していただろうがな。しかし、この事実を知ったらあいつは飛び跳ねて喜ぶに違いない」
殿下は真っ赤になった私を見て、優しく微笑んでくれた。




