37 エルローザ
「ミレイユ、次は私が遊びに行くわね。」
「ええ、ローザお姉様!お待ちしておりますわ!」
「あんまり無理をしないで、身体を大切にね。」
「大丈夫ですわ。ヒューゴ様もいますもの。」
「勿論だよ、ミレイユ。エルローザさん、今日はありがとうございました。ジル、さっき話した本は今度送るよ。」
「ありがとうございます、叔父上。」
サジテール侯爵邸を訪問していたヒューゴとミレイユの帰りである。ジルベールは8歳になっていた。
「ねえ、ローザお姉様」
「どうしたの?」
「お姉様も、私のお腹を撫でて下さらないかしら?」
「ミレイユ‥‥でも、私は‥‥‥‥。」
ミレイユの頼みに、エルローザは躊躇する。
「ジルベールも、ロクサーヌもアナトールも撫でてくれたわ。」
「ええ、それは。そうなのだけれど。」
「エルローザさん、もし不快でないのならお願いします。」
「ヒューゴ様‥、不快だなんてそんなことは。でも、良いのかしら、私で。」
「「もちろん!」」
「ローザ、大丈夫だ。」
「セヴラン‥‥ええ、私でよければ喜んで。」
セヴランに肩を抱かれて、エルローザは頷いた。そっとミレイユのお腹に触れる。
「元気で生まれてくるのよ。みんなあなたに、あなたたちに会えるのを楽しみに待っているわ。」
祈るように話しかける。ミレイユのお腹の中には、新しい命が宿っていた。
「ありがとう、お姉様。」
「身体に気を付けてね、ミレイユ。この子がどちらに似ているか楽しみね。」
「ロクサーヌとアナトールの瞳はお姉様と同じアメジストだったわね。ヒューゴ様の瞳に私の髪色か、私の瞳にヒューゴ様の髪色か‥‥どちらでもきっと愛らしいわ!」
「ええ。その子に会えるまで、ちゃんと元気でいるのよ?ヒューゴ様、よろしくお願いいたします。」
「もちろんです。さあミレイユ、そろそろ帰ろう。」
「はい。セヴラン様にローザお姉様、それにジルベールも、本日はありがとうございました。」
「叔父上、叔母上、お気を付けて。」
「ロクサーヌとアナトールにもよろしく伝えておいてください。」
「はい、分かりました。」
「では、また。」
そうしてヒューゴとミレイユはサジテール侯爵邸を後にした。
「母上」
「なあに?」
「母上も、双子、なのですか?」
「ええ、そうよ。話したことは‥‥無かったわね。ごめんなさい、隠していたわけではないの。」
「いえ‥‥その‥」
「ジル、気になるならそう言って良いのよ。あなたに聞かれて嫌なことなんてないわ。」
エルローザはジルベールと目を合わせて優しく微笑んだ。
「母上の双子は‥‥?」
「私が子どもの頃に、亡くなっているの。」
「あ、それで‥さっき、叔母上のお腹を撫でることを躊躇ったのですね。」
「ええ。」
「すみません。」
母に辛いことを聞いてしまった、とジルベールが視線を下げる。エルローザはそんなジルベールを抱きしめた。
「謝らないで、ジル。あなたに話していなかった私が悪いわ。」
「そんな、母上は悪くありません!」
「それならお相子ね。ジルがもう少し大きくなったら、私の兄の話を聞いてくれる?」
「はい。」
「ありがとう。」
でもまだ、もう少しだけ、子供でいて欲しい。エルローザはそんなことを思った。子供の成長は早い。すぐに大きくなってしまう。どんな大人になるのだろうという期待と、まだ手のかかる子供でいて欲しい寂しさが半分ずつ、エルローザの胸にあった。
「ふたりとも、この後時間はあるか?」
「ええ。」
「はい。」
「では、折角だ。みんなでお茶にしよう。」
「そうね。ジル、あの子たちを呼んできてくれる?」
「はい。きっとまた温室にいると思いますので。」
エルローザとセヴランは温室に向かった息子の背中を見て、微笑んだ。
「君に似て真面目な子だ。」
「あなたに似て、優しい子です。」
ふたり揃って親バカになったな、とセヴランがエルローザの腰を抱いて、テラスへ向かった。
エルローザは3児の母になっていた。長男ジルベールの下に男女の双子を産んだ。双子はアメジストの瞳と、濡れ羽色の髪で、姉はロクサーヌ、弟はアナトールと名付けられた。今年で4歳になる子達だ。
ウィリディス帝国で、人がみなルースを使用できるのは、神の祝福だと考えられていた。
最初に祝福を受けたのが、双子の兄弟だと言われており、この双子が国を興したとされている。
神殿や王宮にも、天使が双子に祝福を贈る絵が飾られている。
昔からこの地域では、双子が特に喜ばれた。
天使の祝福を受けた、と。
「セヴラン、あなたに会えて、あの子たちに会えて。本当に幸せです。」
「ローザ。俺だって、君に会えて、あの子たちに会えて幸せだ。愛している。」
「愛しています。これからもずっと。」
天使の祝福を、どうかあなたに。
本編は以上でございます。
もう少し、エルローザとセヴランが恋人になっていく様子や新婚生活を書きたかったのですが、それは外伝として書こうかと思っています。
私がローザを好きすぎたのか、セヴランがどうしても(ローザに対して)ポンコツになりがちでした。もう少しかっこよく書きたかった気もしますが、そういう抜けがあったからこそ話が進んだのかと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
評価いただけば幸いです。
では、また。




