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【完結】伯爵令嬢セシリアは今日も修羅場に遭遇する  作者: 木風


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第十話 国王陛下と晩餐を共にしましたが、ハンバーグの起源について語られました

「これから晩餐なんだ。セシリア嬢も一緒にどうだ?」


 私はアドリアン殿下を見る。

 殿下も私を見る。

 国王からの晩餐の誘い……たかが伯爵令嬢の私に断れるはずがない。


「……光栄ですわ」


 口ではそう答えながら、心の中では別のことを考えていた。

 やはり、あの騎士を無視して帰ればよかった。


 案内されたのは、普段国賓を招くような大広間ではなく、王族が日常的に使っているらしい小さめの食堂。


 小さめと言っても、伯爵家の食堂よりずっと広い。

 長いテーブルの中央には花が飾られ、三人分の食器が並べられている。


「王妃は今夜、別の晩餐会に出ていてね。今日は三人だ。堅苦しく考えなくていい」


 国王陛下はそうおっしゃるけれど、相手は国王である。

 堅苦しく考えるなという方が無理だ。


「父上は普段からこんな感じだ。気にしなくていい」

「殿下がおっしゃると、余計に不安になりますわ」

「なぜだ?」

「これまでの実績でしょうか」

「それは僕の話だろう!」


 向かいに座った陛下が楽しそうに笑っている。


「アドリアンが令嬢を連れて食事をするなんて久しいな」

「僕が連れてきたわけではありません。父上が誘ったんでしょう」

「そうだったか」

「そうです」


 殿下が少し不機嫌そうに答える。


「だが、最近よくセシリア嬢の話をするからな」

「父上」

「魅了された時に助けてもらったとか」

「父上!」


 私は殿下を見る。

 その後の魅了騒動のせいで印象が薄れてしまっていたけれど、王太子の婚約者が托卵を仕掛けたなど、大事件なはず。


「ずいぶん詳しくご報告なさっているのですね」

「違う!アメリアの件で報告の必要があっただけだ!」

「そうですか」

「その顔は信じてないだろう!?」


 最近感覚が麻痺していたのかもしれない。


 やがて料理が運ばれてくる。

 最初に置かれたのは、色とりどりの野菜を盛り合わせた皿。

 その上には白っぽい、とろりとしたソースがかかっている。

 陛下がどこか得意げな顔をした。


「セシリア嬢。これは知っているかな?」

「サラダですわね」

「いや、そちらではなく、このソースだ」

「マヨネーズですか?」

「……知っているのか?」

「ええ」


 陛下が止まった。

 逆に、なぜ知らないと思われたのだろう。


「我が家でも、茹でた野菜や魚料理などによく添えられます」

「……そうか」

「父上が若い頃に考案したらしい」

「まあ。そうなのですか?」


 それは知らなかった。

 陛下の顔に、少し元気が戻る。


「卵黄と油、それに酢を使ってね。厨房へ入って料理人たちに作り方を教えたんだ」

「父上は昔、厨房を三日ほど占拠して、前国王である祖父に叱られたそうだ」

「余計なことを言わなくていい」

「本人から聞きました」

「父上め……」


 国王陛下が厨房で何をしていたのだろう。


「もっとも、似たようなソース自体は昔からあったらしいんだが」

「ございましたの?」

「あった」


 それでは、考案していないのでは。

 言葉には出さなかったけれど、陛下もそれを察したらしい。


「少し配合が違う。名前も今とは違った」

「では、マヨネーズという名前を陛下が?」

「そうだ!」


 今度こそ胸を張った。

 立ち直りの早さまで、殿下に似ていらっしゃる。


「父上は料理に妙な名前をつけるのが好きなんだ」

「妙とは何だ。由緒ある名前だぞ」

「どこの由緒です?」

「それはあとで説明しよう」


 後で、とはなんだろう。

 妙な名前の料理に、由緒も何もないと思うのだが……


 サラダを食べ終える頃、次の皿が運ばれてきた。

 中央に置かれたのは、表面をこんがりと焼いた挽肉料理だった。

 茸を使った濃い色のソースがかけられている。


 アドリアン殿下が嬉しそうにこちらを見る。


「これはどうだ?珍しいだろう?」

「ハンバーグですわね」

「……知っているのか?」

「ええ」

「そうか……」


 今度は殿下まで残念そうである。

 落ち込み方まで親子で似ているのは、やめてほしい。


「王都のレストランでも見かけますわ」

「そうなのか?」

「割と普通に」

「僕は王宮でしか食べたことがなかった……」


 王太子殿下の方が世間知らずだった。


「美味しいぞ」

「存じております」

「先に言わないでくれ。勧めたかったんだ」


 そんな事情は知らない。

 私が悪いわけではない。

 ナイフを入れると、中から肉汁が溢れる。

 確かに美味しい……さすが王宮である。


「いかがかな?」


 陛下に尋ねられ、素直に頷いた。


「今まで食べた中で一番美味しいですわ」

「そうだろう!」


 満足そうである。

 そして、なぜか陛下が姿勢を正した。


「ところでセシリア嬢。その『ハンバーグ』という言葉の由来を知っているかな?

「由来ですか?考えたこともなかったです」

「そうだろう」


 お会いしてから、今が一番嬉しそうである。

 先ほどマヨネーズとハンバーグを知っていると答えた時より、明らかに目が輝いている。

 なんなら瞳孔も開いてるかもしれない。


「そのハンバーグという言葉の由来はな、ハンブルクという街なんだ」


 はんぶるく……?聞いたことがない。

 けれど、先ほどのステータス・オープン男と似た匂いを感じてしまう。


「どちらの国でしょうか?」

「国ではない。地球にある、街の名前だ」

「ちきゅうとは?」

「地球は世界だ」


 急に壮大な話になり、フォークが止まった。

 やはり、中庭で聞いた話と似ている気がする。


『剣と魔法の異世界です!』


 まさか。


「陛下……ひょっとして、前世の記憶がおありですか?」

「……なぜ分かった?」

「先ほど中庭で、同じようなことをおっしゃる騎士に会いましたので」

「同じようなこと?」

「何もない空間に向かって、『ステータス・オープン』と」

「いたのか!?」


 陛下が勢いよく身を乗り出した。


「父上、落ち着いてください」

「どこの騎士だ!?」

「今頃、退団願いを書いていると思いますわ」

「なぜ!?」

「お話を伺ったところ、どうやら刺繍職人の方が向いているようでしたので」

「ステータス・オープンから刺繍職人になるまでに何があったんだ?」


 もっともな疑問だが、前のめりになるのが殿下と非常によく似ていて、そっちの方が気になってきた。


「色々ございました」

「色々で済ませるのか」


 殿下が呟く。


「しかし、そうか……他にもいるのか」


 陛下はどこか感慨深そうに遠くを見つめる。


「ということは、陛下も転生者というものなのでしょうか」

「その言葉を知っているのか?」

「先ほど知りました」

「今日だけでずいぶん詳しくなったな」

「知りたくて知ったわけではございません」


 できれば何も知らずに帰りたかった。

 けれど、もうあの頃の私には戻れないのかもしれない。


「父上は昔から時々、地球という場所の話をするんだ」


 アドリアン殿下は特に驚いていない。


「ご存じだったのですか?」

「ああ。幼い頃から聞いていたから、そういうものだと思っていた」

「信じていらっしゃる?」

「父上が嘘をつく理由もないしな」

「では、先ほどのハンブルクという街も、本当に?」

「私が十七の頃に前世を思い出してね。当時は、この知識を使えば歴史に名を残せると思ったものだ」

「歴史に」

「ああ。まずは食文化を変えようと思った」


 なんとなく、この先が読める。


「最初がマヨネーズですか?」

「そうだ」

「でも似たようなものは既にあった」

「……あった」

「次がハンバーグ?」

「挽肉料理も既にあった」

「ございましたのね」

「あったんだよ」


 陛下が目頭を押さえる。

 アドリアン殿下が笑いを堪えていた。


「父上はそのあと、シャンプーを作ろうとして、石鹸職人に『髪用ならもうあります』と言われた」

「アドリアン。やめなさい」

「歯ブラシも」

「もういい」

「ございましたの?」

「……あった」


 思った以上に何も生み出せていない。


 そこへ、デザートが運ばれてきた。

 小さな器に、黄色い柔らかな菓子に、上から茶色い蜜がかかっている。


 また知っている。

 けれど、今度は少し黙っておいた方がいい気がした。


「セシリア嬢。こちらは?


 やはり聞かれた。

 陛下が期待に満ちた顔でこちらを見る。


「……プリンですわね」

「知っているのか……」


 本当に、申し訳ない。


「茶会などでもよく出ます」

「そうか……」

「父上、落ち込まないでください」

「昔は珍しかったんだ」

「何年前ですの?」

「二十年以上前だな」

「それだけ経てば、広まっていて当然では?」

「……確かに。これも似た菓子が昔からあった。ただ、私がプリンと呼んだ」

「また名前だけですの?」

「セシリア嬢、だんだん遠慮がなくなってきたね?」


 いっけない。不敬不敬。

 気を付けなければ……相手は国王陛下なのだから。


「申し訳ございません」

「いや、いい。面白い」


 笑っているので許されたらしい。

 そして、始まる前はあんなに帰りたかったのに、想像していたよりは楽しかった。

 ただ、王族の秘密らしきものをいくつも知ってしまった気もする。


「では、セシリア嬢。また食事に来るといい」

「ありがとうございます、陛下」

「次は本当に珍しいものを用意しておこう。カレーなどはどうだ?ん?」

「父上、もう諦めてください」


 殿下に促され、食堂を出る。


「やはり、あの騎士を無視して帰ればよかったですわ」

「父上にはどちらにしても会っていただろう」

「そうでしょうか」


 ようやく王宮の出口が見えてきた。


 今度こそ帰れる。

 今度こそ、何も起きないでほしい。

 王宮の玄関まで来ると、外にはすでに我が家の馬車が待っていた。

 馬車へ向かおうとしたところで、アドリアン殿下が「あ」と声を上げた。


「どうされました?」

「忘れるところだった」

「何をです?」

「その……」

「はい」

「週末の夜市に、君を誘っても良いだろうか?」

次々に修羅場に遭遇する令嬢…次はどんな修羅場に遭遇するのか…

気になったら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

もし、こんな修羅場を見てみたい!などありましたら、感想でもらえると嬉しいです!

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王様かわいそうwwwwwwwwwwww
陛下は自分が発信した料理が市井まで広がっているのだから、もっと誇っても良いのでは。そりゃあ二十年も経てば美味しい物は広がりますよ。嬉しくない? タルタルソースと茶碗蒸しはもう有りますか?ハンバーガーは…
いっけなーい⭐︎不敬不敬(๑˃̵ᴗ˂̵) が貴族ミームに なるくらい、転生者が多い…?www
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