封印の旅『妖怪屋根こじき』 その2
3人が御朱印帳を掲げると、『ゴゴゴ』と岩戸が開き、洞窟が現れる。
慣れた足取りで、空達が中に入って行った。
「ジメジメとした洞窟だな」
「いつもと違って、薄暗いな」
「何だか嫌な感じがするわ」
いつもと違う巡所の様子に、空達が戸惑いを見せた。
そこに『カサカサ』と、微かな音が響く。
「何かが出たなり!」
「あれは…邪羽蟲の大軍なり!!」
前鬼と後鬼が地を這う黒いソレを見て叫ぶ。
『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』
邪羽蟲の大軍が、空達に向かって這い寄ってくる。
「いや〜!!!!」と、海の悲鳴が響き渡った。
後鬼が邪羽蟲と言ったソレは、どう見てもヤツだった。
ただし、小型犬ほどあるそのサイズを除いて…だが。
「これは苦労しそうだな!」
空がうんざりしたように呟く。
「ああ、意外と装甲も硬いぞ!」
繰り出した飛斬が弾かれて、優が驚く。
「ごめん!私は抜けてもいいかしら!」
海が青い顔で尻込みする。
だが…
『バサバサ』『バサバサ』『バサバサ』『バサバサ』
と、邪羽蟲が羽を広げ飛びかかってきた。
足元には『カサカサ』『カサカサ』と、邪羽蟲が這い寄ってくる。
「これは駄目だ!」
「一度、作戦を練り直そう!」
「もうイヤ〜〜!!」
上下から邪羽蟲に攻められ、空達は巡所から逃げ出した。
ーーーー
『それで逃げ帰ってきたと?』
妖怪屋根こじきが、呆れたように空達を見た。
「あれは無理よ!!」
海が必死で抗議した。
「だが、巡所の封印も必要だから、何とかしないとな」と、空が難しい顔で呟く。
「アイツら飛ぶし、装甲も硬いし…何より気持ち悪くて近づきたくないからな〜」
優も困り顔で続く。
『其方ら、加護を持っておろう。何故それを使わん?』
見ると、一際年老いた妖怪屋根こじきが現れ、空達に問いかけた。
『これは、長老様』
その場にいた妖怪屋根こじきが、揃って跪いた。
「加護と申されますと?」
空が長老様に問う。
『やれやれ、そこからか。仕方ない。ワシが話をつけておく故、もう一度城王山に行くがよい』
「え!また行くの?」
海の顔が青くなった。
『龍王の加護を持つ娘よ、其方には特に重要な役割りがある』
長老様が海に何かを告げ、空達を城王山に送り出した。
ーーーー
再び岩戸の前で、御朱印帳を取り出し巡所の中に入る空達。
『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』『カサカサ』
「出た〜!!」
海が前鬼と後鬼をギュッと抱きしめた。
「我は前鬼!前鬼は戦鬼なり!!」
「妾は後鬼!後鬼は護鬼なり!!」
前鬼と後鬼が大きくなり、海の前に立った。
「よし、長老様を信じてやってみよう!」と空と優が九字印を切った。
「「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」」
空の九字印に、毘沙門天 が応える。
『妖怪屋根こじきの長老からの達ての願い故、我が眷属を使わす』
光の道が現れ、百足の大軍が邪羽蟲に襲いかかった。
優の九字印に応え、地下から声が響く。
『ワイは多邇具久神 や!ここが長老様が言ってた、邪羽蟲が食べ放題の穴場か?』
闇の道が現れると、ヒキガエルの大軍を引き連れた金色のヒキガエルが現れ、邪羽蟲を貪るように食べ始めた。
『長老から、好きなだけ食べてこいと言われたから、遠慮なく頂きまっせ!!』
百足もヒキガエルも邪羽蟲の天敵であり、見る間に邪羽蟲の数が減っていった。
だが…邪羽蟲が地面を這い回り、その邪羽蟲に百足とガマガエルが襲いかかるその光景…そして、『ゴソゴソ バリバリ』と嫌な音があちらこちらから響く状況は、うら若い海にはあまりも刺激が強すぎた。
「もうイヤ〜!!助けて〜」と、両手で耳を塞いで泣き叫んだ。
「どうしたなり!其方は攻撃されておらぬなり!!」
前鬼が心配して声をかける。
「いや、この攻撃は精神的にキツいなり!!」
後鬼が海を庇う。
「あれを見るなり!ボス部屋の入り口が見えたなり!!」
前鬼が指し示した先に、ボス部屋への入り口が現れていた。
海が前鬼と後鬼を従えて、慌ててボス部屋に駆け込んだ。
「警戒しないと危ないなり!」
後鬼が海に注意するが、ボス部屋には邪羽蟲はいなかった。
「助かった」
海がホッと息を漏らす。
そこに『ケケケケケ』と甲高い鳴き声が響く。
そこには、身の丈が2間(約3.6m)はありそうな大河童が海を睨んでいた。
「奴がボスなり!」
「手強そうなり!!」
前鬼と後鬼が警戒する。
だが、海はその大河童を見て、「良かった。普通の妖怪だわ!」と薙刀を握りしめた。
「お前のせいでこんな目にあったのよー!!」
海は、今までの恐怖を吹き飛ばすように、大声で叫びながら目にも留まらぬ速さで大河童を真っ二つに切り裂いた。
その羅刹の如き強さに前鬼と後鬼が『ガタガタ』と震えた。
「よし、ボスの大河童を退治するぞ!」
「俺に任せろ!!」
空と優が遅れてボス部屋に入り、すでに真っ二つになっている大河童を見てポカンとする。
「やはり、海を怒らせてはならぬなり!」
「怖がらせるのも危険なり!!」
空と優に前鬼と後鬼がそっとつぶやいた。
ーーーー
封印が終わり、日孁が帰って行った。
空達が岩戸から外に出ると、村人達が待ち構えていた。
「修験者様。屋根こじきの御告げがあり、ここに集まりました」と村長が告げた。
そこに、天から声が聞こえてきた。
『海よ、妾の御力を纏いなさい』
それは、竜宮の試練で出会った竜女の声だった。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…『仏身一体、竜女纏身!!」
『ピョー ピロ ピロ ピー』
何処からか笙の音が響き渡る。
『テン テン テテテン テン テテテン』
その音に合わせて、村人達が小さな太鼓を叩きながら、海を中心に輪を描く。
すると、何処からか舞姫が現れ、笙と太鼓の音に合わせ、海を中心に舞い出した。
海を纏う御力が羽衣に変わり、その周りを舞姫が舞い踊る。
竜女の御力を纏い踊る海が、村人に声をかけた。
『皆の者、新田池の水を掬い、天に撒きなさい』
『テテテン』と言う太鼓の音に合わせ、羽衣の袖を天に靡かせる。
『神技 龍祈散雨』
すると、天に撒かれた新田池の水が呼び水となり、雨雲となって空を覆った。
やがて、『ポツリ ポツリ』と降り出した雨が『ザー ザー』と本降りの雨となる。
「おぉー雨だ 雨だ!」
「恵みの雨が降った!」
村人達は雨に濡れながらも、久しぶりの雨を噛み締めるように、いつまでも雨乞いの『じょうれい踊り』を踊り続けていた。
用語解説 基本的にはWikipediaを参考にしています
(1)【毘沙門天】
四天王や十二天に数えられ、北の方角を守護する。なお、四天王として祀られる際は「多聞天」と呼ばれる。
百足を眷属とするのは、日本独自のものである。
(2)【多邇具久神】
日本神話に登場するヒキガエルの姿をした神様




