封印の旅『妖怪屋根こじき』 その1
「ここが市場村か」
「飲み水は大丈夫らしいが、畑の野菜が茶色く変色してるから、水不足は深刻みたいだな」
空と優が周りを見ながら話し合う。
「でも、この辺りだけ雨が降らないって、何だか不自然よね」
「邪鬼の臭いがするなり!」
「調べる必要があるなり!!」
海と前鬼、後鬼も心配そうに周りを見渡す。
「よし、村を調べてみよう!」
村に入ると騒ぎ声が聞こえてきた。
「こいつ、ズルいぞ〜!」
「その食べ物を寄越せ!!」
騒ぎ声のする方を見ると、村の子供達が屋根の上にいる一人の見窄らしい男を取り囲んでいた。
その見窄らしい男は、両手に食べ物を抱えて子供達を見下ろしてる。
やがて、『お前達にはやらん!』と言い残すと、その姿がかき消えた。
「あの男は何だったんだろう?」
「顔が見えなかったし…突然消えたよな?」
空と優が顔を見合わせる。
「彼奴は妖怪なり!」
「じゃが、邪の妖怪には見えなかったなり!!」
前鬼と後鬼が海の腕の中から声を上げた。
「なら、良い妖怪ってこと?」
海が前鬼と後鬼に尋ねる。
「それはわからないなり!」
「少なくとも、人を傷つけるモノではないなり!!」
「へー、そんな妖怪もいるんだ」
海が感心したように、妖怪が消えた屋根を見つめていた。
「おっ母、無理すんな」
ある一軒の農家から、心配そうな子供の声が響く。
「畑の水やりは俺がやるから、おっ母は寝ててくれ」
「だけど、雨が降らないから水を汲んでくるのも大変だよ」
「それで無理したから、おっ母が身体を壊したんじゃないか。後は俺に任せろ!」
空達がその声がした方を見ると、一人の子供が水桶を抱えて走り出して行った。
「やはり、雨が降らないから村人が困っているんだな」
空が、親孝行な子供の背中を見て呟いた。
「あ、あれを見て!」
海が指差した先では、先程の見窄らしい男が屋根の上に座っているのが見えた。
『この家は居心地が良さそうだ!』
その声が響くと、縁側に男が持っていた食べ物を置いた。
「おっ母、水やり終わったよ!」
先程の子供が帰ってきて、縁側の食べ物を見つけた。
「おっ母…食べ物が縁側に置いてある?」
男の子が、その食べ物を母親に見せると、「お前の親孝行を屋根こじき様が認めてくれたんだよ」と涙ぐんだ。
「屋根こじき様?」
「親孝行な子供がいる家の屋根に住み付く妖怪で、屋根こじき様が付いた家には幸せが訪れると言われているんだよ」と、その男の子を抱きしめた。
物陰からその様子を見ていた空達が、明るく笑いあう。
「なるほど、屋根こじき様とは、座敷童子みたいな妖怪みたいだな」
「あの親子が幸せになれたら良いね」
『天照大神に龍王、そして役小角の加護を持つ修験者よ!少し話を聞いてくれ!!』
その声に顔を上げると、先程の屋根こじき様が空達を見下ろしていた。
『其方達から強い加護を感じる故、この村を助けてもらえないだろうか?』と、屋根こじき様が頭を下げた。
周りを見渡すと、一体だけでなく、女性や子供の屋根こじき様が何体も現れ、空達に頭を下げていた。
「まずは話を聞かせてください。俺達の加護とこの村にどんな関係が?それに、何故あなた方が村人を助けようとするのでしょうか?」
空が屋根こじき様に問う。
『我らは、この村に棲まいし妖怪。この村の住民の活力が我らの力の源となる。故に、この村を襲いし災難は捨ておけぬのじゃ』
一体の屋根こじき様が空に答えた。
そして、別の屋根こじき様が形の良い山を指差した。
『あそこに見える山を城王山と言い、山頂近くに、新田池と言う池がある。城王山は役小角が修行したと言われている山で、山頂にある社には、天照大神が祀られておる。また、この社にある新田池は、山頂付近にありながら龍神の加護により枯れたことがないのじゃ』
「なるほど、確かに俺達に縁が深い山みたいだな」
「龍王にはお世話になったもんね」
「俺も小角のおっさんには世話になっているからな」
「よし、俺達が出来る事があるなら、協力しょう。それに、次の巡所はあの城王山にあるから、その影響かも知れないからな」
空が屋根こじき様に向き直る。
「それで、具体的には何をすれば良いのですか?」
『どうやら、新田池に大河童が棲みついたらしく、この大河童の妖力で、この付近の雨が吸い取られているようなのじゃ。其方らに、この大河童を退治してもらいたいのじゃ!』
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村から離れられないと言う妖怪屋根こじき様の依頼を受け、空達が城王山を登っていると、何処からかシャンシャンと響く御囃子に乗って、雅な唄声が聞こえてきた。
まいりゃんせ〜 まわらんせ〜
お四国さんをまいりゃんせ〜
お大師さんとまわりゃんせ〜
同行二人でまいりゃんせ〜
願をかけかけまいりゃんせ〜
結願願ってまわりゃんせ〜
「あら、舞姫のお出迎えだわ!」
海が嬉しそうに周りを見渡す。
「この山も弘法大師と縁が深いのかな?」
空も舞姫の踊りを眺める。
「この山には、遠い昔に来たことがあるなり!」
「小角様がこの山で修行を積んだことがあるなり!!」
前鬼と後鬼が懐かしそうに辺りを見渡した。
「この地を穢すものは許さないなり!」
「妾達と小角様の想い出の地なり!!」
やがて、山頂が近づくと水を湛えた池が見えてきた。
「あれが新田池か!」
「確かに、雨が降らないのに水があるわね!」
「だけど、大河童が住むと言うわりには小さくないか?」
空達が新田池の前に立ち、周りを見渡した。
「あれが答えかな?」
空が視線を向けた先には、小さな祠と岩戸があった。
「なるほど。巡所の封印が弱まって、厄災の力が漏れ出したのか」
「なら、今回のボスが大河童と言うことね」
「「「よし、行こう!!!」」」
空達が岩戸の前に立ち、御朱印帳を取り出した。
やねこじきは、徳島県阿波市市場町の伝統行事です。
本作の妖怪屋根こじき様との関連はありません。
やねこじきは、蜂須賀家政が市場町を訪れた際に、住民が手作りした人形を飾って歓迎したのが始まりとされています。この際に、飾り付けられた人形を見て、あれは何かと問われた村民が「やにこいもので(阿波弁で粗末なもので)」と謙遜したことからこの名が付いたと言われています。




