幕間 たらいのうどん!
短い幕間を挟みました。
「我は前鬼なり!前鬼はたらいに入ったうどんが食べたいなり!!」
海に抱き抱えられた前鬼が、突然大声を上げた。
「何だよ!たらいに入ったうどんって?」
「何でうどんがたらいに入っているんだ?」
空と優がキョトンとして前鬼に尋ねる。
「美しの郷で女将が教えてくれたなり!この地のたらいうどんは絶品らしいなり!!」
「妾は後鬼なり!後鬼もそのたらいうどんを望むなり!!」
後鬼も続いた。
「ならば、支払いは兄貴なり!!」
海も悪のりする。
「久しぶりにそのやり取りを聞いたな!」
空が笑った。
「よし、美しの郷では迷惑をかけたから、俺の奢りだ〜!たらいのうどんを食べに行こう!!」
優が拳を突き上げた。
その姿は、美しの郷でギクシャクとしてしまった感じは微塵もなく、普段の関係に戻っていた。
「これが『たらいうどん』なりか?」
「思った以上にシンプルなり!」
前鬼と後鬼が歓声を上げた。
机の上に『ドン』と置かれた、大きなたらいに入れられたうどんを見て、空達も目を見張った。
「つけ麺なんだな!」
「おツユがいい香り!」
「早速喰おうぜ!」
海に抱えられた前鬼と後鬼が、たらいうどんを出汁に付け、一口啜る。
「美味いなり!」
前鬼がカッと目を見開く。
「上品なお出汁に、喉越しの良い麺が合うなり!!」
後鬼がもう一口と海にせがんだ。
海が甲斐甲斐しく前鬼と後鬼の口元にたらいうどんを運びながら、合間を見て自分もうどんを啜る。
「確かに美味いな。だが、何で器がたらいなんだ?」
空がたらいうどんの謂れを調べる。
「うどんも美味いけど、俺はこのサワガニの素揚げが気に入った!」
優がバリバリとカニを食べながら笑う。
「元々は寿司桶に使われる木の桶で豪快に食べていたのが、たらいで食べているように見えたので、たらいうどんの名が付いたらしいよ」
空がメニューの裏の説明を見て呟いた。
「なるほど。大人数で囲んで食べるからこのスタイルになったんだな」
優と海も、メニューに書いてある説明を覗き込む。
「ねえ、下の谷川に降りてみようよ。出汁に使われるジンゾクっていう魚がいるみたいよ!」
「水が綺麗。透き通って、川底が見えるわ!」
海が大はしゃぎで、谷川に入った。
「苔で滑るから気をつけろよ!」
「大丈夫よ。気持ちいいから空兄も入りなよ」
空が眩しそうに海の足元を見て、『よし、俺も…』と靴を脱いだ。
「だけど、明らかに水量が少ないな!」
優も靴を片手に周りを見渡した。
「何故か市場村の周辺だけ、雨が降ってないのよね」
隣でうどんを食べていた家族の会話を思い出して、海が心配そうに呟く。
だが、前鬼と後鬼の明るい声が、そんな雰囲気を吹き飛ばす。
「あの石の陰に魚がいるなり!」
「カニもいるなり!!」
前鬼と後鬼も楽しそうに笑いながら、水辺の自然を満喫していた。
空も海も優も、美しの郷で受けた精神的ダメージを癒やすと、次の巡所がある市場村を目指して歩き出した。
ルート的に微妙に苦しいのですが、前鬼が「たらいうどんが食べたいなり!」と駄々をこねたため、少し寄り道をしました…




