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墓参り

夏休みも半分に差し掛かる頃、僕は両親の墓参りをしに来ていた。

両親は関東の田舎で、同級生だったらしい。その頃の話は人伝いに聞いただけで、ちゃんとした話を本人たちから聞いたわけではない。7歳になるまでお世話になった、母方の祖母が話してくれたのだ。


2時間かけてついた駅からは徒歩で墓地に向かう。都会では感じることのない風の気持ちよさが頬をなでる。ここぞとばかりに鳴き続ける蝉を騒がしくは感じないのは、空間が開けているからなのかもしれない。


「ここはいつきても変わらないな・・・」


11年通い続けたこの道は、季節を違えど同じ調子で僕を迎えてくれる。

不思議と悲しみはない、お盆というのは霊が帰ってくるというけど、久しぶりに両親に会う感覚に似ている。


30分も歩けば、墓地がある寺が見える。少し小高い丘の上にあり、敷地を取り囲むように木々が聳え立っている。


「総くん、よくきたね。。」


「ご無沙汰しています、住職。」


この寺の住職さんだ。この人は実は、両親と同じ学校出身なのだそうだ。仲はよかったみたいで、両親の葬式の時に、念仏を唱えながら静かに涙を流していた。


「住職はやめてくれよ、ものすごく年寄りのはげみたいじゃないか。」


「すいません、香耶さん。」


うちの両親と同年だから40まじかだろう。そうは見えないのが不思議だ、年齢を感じさせない顔立ちに、住職なのに髪は普通に長い。おじさんという感覚よりも、お兄さんみたいな感覚だ。

墓石の前までの道、僕と香耶さんは近況報告をしながら歩いた。僕の、数少ない身構えないですむ相手だ。墓に着くと、香耶さんは僕を一人にしてくれた。


「久しぶり。」


冴木家の墓、冴木グループの墓というには質素な墓だ。香耶さんが掃除をしていてくれているみたいで、去年来たときと変わりない姿だ。


「父さん、母さん、僕は16歳になったよ。背もけっこう伸びたでしょ?高校生になったんだ、友達も出来たんだ。辛いこともたくさんあったけど、今は楽しくやってるよ。」



1年の出来事、思ったことなどを、まるでまとまりや順序立てなく話し続ける。もちろん返事も反応もない。ただ佇む黒い石に向かって、一生懸命に話す。


2時間もそうしていただろうか、日が傾いている。


「それじゃあ、僕は行くね。また・・・来るから・・・」


墓に向かって手を振る。いつのまにか、墓参りの人たちがちらほら居た。実際にははじめから居たのかもしれないけれど、ここに居る人それぞれが、ここにいてここに居ないから気がつかなかっただけだろう。

音を立てないように、視線を下に向けながらその場を後にした。


「総くん、ゆっくり話せたかな。」


寺から帰る時に、香耶さんが見送りをしてくれた。


「はい。」


歯切れのいい返事を返すと、目を細めて穏やかに香耶さんは微笑んでくれた。そして「よかった」と聞こえるか聞こえないかというほど、小さな呟きをした。


「それじゃあまた来年に来ます、それまで二人をお願いします。」


「うん、待ってるからね。僕も、二人もね。」


「はい。」


ここ数年は、両親の墓に行っても話すことはそんなにもなかった。

読んだ本のこととか、新しく覚えた料理とかそんな事しか、僕の生活にはなかったから。

今年、入学から4ヶ月の間に色々あった。

神崎さん、賀川さん、泰介との出会いが、今までの代わり映えのない生活を劇的に変化させたからだ。

寺の門をくぐったとき、両親の声が聞こえた気がして振り返った。

振り返ってもそこには誰もいなく、少し温かい、ゆっくりとした風が吹いただけだった。




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