受難
墓参りから帰ったぼくを待っていたのは、意外な人物だった。
移動の疲れで重くなった体をなんとか家の前まで持ってきたら、部屋の前に誰かが体育座りをしている。
人間っていうのは不思議なもので、第六感というのか、虫の知らせといったものがあって、自分に降りかかることを予知できる時がある。
僕の家の前に座り込んでいる人を見た瞬間、まさに予知したのだ。
きっと良くないことがあると。
恐る恐る近づくと、座り込んでいる人が何者であるかがわかった。
僕はその目の前にいる、お出迎えの人の肩に手を置いた。
「何をしているのかな、神崎さん」
「総君、おかえり。」
とりあえず言いたいことは置いておいて、僕は疲れた体を休ませたくて部屋に入った。
神崎さんは、何も言わない僕を訝しげに顔色を窺っているいたいだ。
「さて、話を聞きましょうか。」
荷物を降ろし、楽な格好に着替えてから、神崎さんと向かい合って僕は言った。
神崎さんといえば、まってましたと言わんばかりに話し始めた。
どのくらい家の前にいたのか気になったが、知ったところでどうしようもないと思い直して、話したくて仕方がなさそうな彼女の話に耳を傾けた。
話の要約はこうだ。
父子家庭の神崎さんの父親が、今日急に再婚したいと言い出し、明日その相手に会って欲しいといわれ、突然の話に動転した神崎さんは、父親を蹴り飛ばして家を飛び出してきたのだ。飛び出してからゲーセンで時間をつぶし、今日僕が墓参りから帰ってくることを思い出して、家の前で待ち伏せをしていたらしい。
「それでね、その再婚相手ってのが、同じバツ一の子持ちで、その子どもが私と同じ年なんだよ、信じられる、ねぇ。聞いてる総君。」
話の内容は重い部類に入る話だと思うのだが、神崎さんはいとも簡単に軽く話した。
でも、いつもにまして早口になっているのは、きっとショックだったからだろう。
僕の家の前に来る前に、頭の中を整理して、話すことを考えていたからなのかもしれないが。
「それでね、私頭きちゃって家を飛び出したはいいんだけど、お金そんなにもってないし、今日は父親の顔見たくないと思って。」
この流れはまずい。直感がした。神崎さんが何故、幼馴染が2人もいるのに僕の家に来ているかを考えれば話は簡単だ。
「それで、誰かに泊めてもらおうと思ったんだけど、岬や泰介だとすぐに迎えにきちゃうから駄目だって思って、誰かいないかなって思ってたら、総君が今日帰ってくるのを思い出して家の前で待ち伏せしてたってわけなの。」
神崎さんは言いながら、「いいよね」って聞こえそうな表情をしている。
僕の第六感も捨てたものじゃない、見事に予知したんだから。
「えっと、とりあえず神崎さんが家に来た理由はわかったよ。」
「それじゃあ・・・」
「いや、泊めるってのはちょっと無理でしょう。」
一生懸命喋って、提案が受け入れられたと喜んだ瞬間に風向きが急に変わったから神崎さんはものすごく落ち込んだ様子でうつむいた。
「いやね、別に泊めるのが嫌なわけじゃないんだよ。頼ってくれたのも、それなりに光栄に思ったんだけど、16歳になる男女が一つ屋根の下で2人っきりってのは流石にまずいでしょう。」
急に押し黙った神崎さんの様子にあせった僕は、考え付く限りのフォローを口走っている。何故か必死さから汗が滲む。人付き合いをあまりしてこなかった僕には、女の子が泣いたり落ち込んだりしているときどうしていいかが全くわからない。涙は女の武器だってよく本で読んだことはあったし、実際本の人物はたいてい慌てる。
「それに着替えとかも男モノしかないし、ベットも布団も一組しかないしさ。」
真実を話しながら、一部嘘を含ませながら、神崎さんを説得する。
「布団はあるでしょ、泰介が何回も泊まりにいったって言ってたもん。」
しまった。わかるはずないって鷹をくくっていたが、泰介がそんなに話しているとは思っていなかった。
「いや、それはね・・・」
「そっか、総君が迷惑しているって今の嘘でわかっちゃった。ごめんね、急に無理言って。」
そう言うなり、神崎さんは立ち上がり玄関に向かって歩き始めた。
その背中はなんとも物悲しい感じだ。
神崎さんの性格からして、家に帰るとも思えないし、幼馴染を頼るつもりがないこともさっきの話からわかっている。僕といえば、なんとも居た堪れない気持ちになっていた。
あぁ、また神崎さんが僕の日常を壊していく。
「待って。」
優に後ろから掛けられた声に、神崎さんはビクッとなって立ち止まった。
「とりあえず今日一日だけならいいよ、このまま追い返すのも後味悪いからね。」
なんとも格好悪いと思った。一度はめんどうだし、さっさと追い返そうとしか思っていなくて、実際そうやって対応しておきながら、ぎりぎりになって「しょうがないなって」感じに許すなんて。
「その代わり、夕飯は神崎さんに作ってもらうからね、それと明日には必ず家に帰ること。」
神崎さんはまだ玄関につながる廊下に立ち尽くしている。
僕は、何か返答がほしいと思って神崎さんに近づいていく。
近づくにつれて、神崎さんが小刻みに震えているようにも見えた。
「とりあえず座り・・・」
座を勧めるセリフは最後まで言えなかった。
神崎さんが急に振り返ると、僕に飛び込んできたからだ。
「総君、ありがと。」
この位置だと表情はわからないけど、神崎さんが泣いているような気がして、僕は恐ろしくやわらかい感触や抱き合っている喜びなんて感じることもできずに、「うん」って言うのが精一杯だった。
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