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前世と現世は別物です。

最終話です。

 鈴原誠騎フルボッコ事件(晴野先輩命名)から数日後。

 

 何故か私の目の前には晴野先輩がいらっしゃいます。

 何故だ。


「なんか嫌そうな顔してるよね殿(との)ってば」


 誰だよ殿って。


「外瀬さんの名字から取ったらしいよ。『殿』って渾名(あだな)は」


 口に出す前に晴野先輩の隣にいた篠江先輩から教えられた。

 やはり私か。


「……えーと、先輩方が後輩に一体何用でございましょうか……」


 動揺しすぎて言葉(づか)いがおかしくなるではないですか。


 時間は放課後。

 例によって友人と帰ろうとしていた所を呼び止められた。

 そしてこれまた例によって第二資料室で向き合っていた。


「誠騎が君のことを知りたがっててね」


 晴野先輩がそんなことを言う。

 思わず部屋の入口を見た。


「あ、誠騎なら今日はバイトがあるから先に帰ったよ」


 安心してね、と晴野先輩は言うが、内容的に今だけ安心しても意味がない。


「できれば未来永劫教えないでいただけると助かります」

「約束だから教えないよ。()()()()()、ね」


 含みを持たせる言い方に、イラッとした私は悪くないと思う。


 それは(すなわ)ち、

誠騎(本人)が自分で調べて近付いたらその時は諦めてね☆』

 ということですよね!?


 巻き込んだなら最後まで責任取ってくださいよ!!

 いやそれ利用したのはこっちだけど!!


「一応誠騎は反省はしてるんだよ。ただ、殿に謝りたいらしくてさ」

「今先輩から聞きましたので本人直々の謝罪は不要だとお伝えください」

「……あなたがそこまで誠騎に会いたくないのは、セラフィーナとして扱われるのが嫌だから?」


 篠江先輩が、そう聞いてきた。


「……そうではありませんが……」

「が?」


 言葉を濁そうにも、先輩は逃がしてくれなさそうだ。

 ……正直に、話すべきだろう。


 セラフィーナとは違うと理解はしていても、次の誕生日を迎えられるか不安で仕方ない、と、正直に告げた。

 セラフィーナが、最期に会った人物がセオドアだったから、つい鈴原先輩を避けてしまうということも。


「でも、それだと羽隅先生とお兄さんも死亡フラグ立ってるよね? それは気にならないの?」

「羽隅先生は、先月誕生日だったんですよ。で、王妃様の死亡年齢を越えました」


 首を傾げる晴野先輩に説明するが、まだ意味が分からないらしい。


羽隅先生(王妃様)は死亡フラグを回避した。(王様)も原因となった人が生きているので必然と死亡フラグは回避された、と思いました」

「なら、その延長で殿(セラフィーナ)も死亡フラグは回避されたんじゃないの?」

お姫様(セラフィーナ)が死んだのは好きな人(セオドア)への意趣返しですから、そっちはあんまり関係ないんですよ」


 かつて見た(過去)を思い出し、私は彼女(セラフィーナ)の本音を暴露する。


「……自分より国を、国民を選んだ好きな人。国の上に立つ王族として、彼の行動としては容認できるけれど、個人的な感情では許せなかった」


 貴方は王ではなく国を――民を選んだのね。


 その言葉の中に隠された恨み言。


 貴方は私を選んではくれないのね。


 ならば貴方の目の前で死にましょう。

 そうすれば、せめて忘れることはできないでしょう?


「……お姫様は病み気質(ヤンデレ)だったんだねぇ……」


 遠い目をして晴野先輩が呟いた。……何か似たような経験をしたのだろうか。返答が怖いから聞かないけれど。


「私自身が病まないとは言い切れないので、できれば誕生日まで鈴原先輩には接触したくないんですよね……」

「ちなみに外瀬さんって何月生まれ?」

「四月です」

「俺達卒業してんじゃん!!」


 ……ちっ、バレたか。


 危うく舌打ちしそうになって止めたが、篠江先輩には気付かれてしまったようだ。


「卒業まで有耶無耶にしたい気持ちは分からないでもないけど。卒業しても、絶対に遭遇しないなんて言えないでしょう? むしろそこまで引き延ばしたら、反動で誠騎がヤンデレ化するかも」

「ああ、それは俺も否定できないわ」


 なにそれこわい。

 そこは否定してくださいよ。


「無理にとは言わないけどさ。あれから誠騎も夢を見なくなって思うところがあったみたいだから、前世関連以外の話だったら試しに口を()いてみてやってくんない?」

「懲りずに前世の話をしてきたら、言ってくれれば締め上げるから」


 珍しく晴野先輩が取り成してきたと思ったら篠江先輩が笑顔で続けてきた。

 

 仲が良いですね、と言ったら酷い目に()わされそうなので口にはせず、晴野先輩の言葉を思い出して考える。


 前世を抜きにしたら私と鈴原先輩は会話する意味がないんじゃなかろうか、とか。


 謝りたい、ということはやはりまだ鈴原先輩は前世のことを引きずっているのではないか、とか。


 結局考えた所で堂々巡りにしかならないので、最終的に私は妥協することにした。






 ──まあ、前世と現世は別物ですから。


 否ではなく、是と応えても構わないだろう、と。


 私はようやく、頷いた。

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