津軽弁AI
津軽弁とは、日本語を最も圧縮した形である。
本州の最北端にあるこの極寒の地の植生は、道南よりもむしろ道北に似ており、そこに暮らす人々の暮らしもまた、この厳しい環境に適応してきた。
吹雪の中では、表情筋も、咬筋も凍りつく。
説明の長いもの、それは、死を意味する。
その中で生まれた言葉が、津軽弁であった。
古い日本語の姿をとどめるともいわれるこの方言だが、特筆すべきことはそのトークン数の少なさである。
極寒の津軽地方において少ない言葉で意思疎通を図るためであるとも言われているが、まさか21世紀になってその価値が再上昇するとは、誰も思わなかったであろう。
トークンの削減は国家的課題であり義務である。
最高裁は2027年、冗長な契約書は消費者に不利益を与えるとして、1000文字以内での要約添付を義務化した。
2028年度の国家公務員総合職試験では、従来の小論文に代わって高文脈圧縮記述が導入されることとなる。
そこで日の目を浴びることとなったのが、津軽弁であった。
OpenAI、DeepMind、Anthropicの三社は2028年、共同で弘前に研究拠点を設置。
最先端モデルは大量学習の末、最終的に全員「ん」「け」「こ」といった、1文字で会話し始めた。
これは各社に衝撃を与え、英語という非効率な言語からLLMの基礎を津軽弁に移すという、マイネ計画が開始される。
これは、サンフランシスコでは「プロンプトを短く、明確に」と教えるが、津軽では昔から「長ぇの、まいね」と言ってきたことに由来する。
文部科学省は2029年度より「津軽弁I・II・演習」を必修化。情報Iに代わり「け・く・こ高度運用」が導入された。
トークン制約から最低限のプロンプトエンジニアリングが求められる昨今、津軽弁に勝る日本語はない。
2030年、高校の学習指導要綱では、共通語で100トークンを超える指示を出した場合、減点対象となることが明記された。
話し言葉の津軽弁化も、若年層から進行している。
各社LLMの日本語応答はいまや津軽弁を基本としており、冗長な東京言葉は入力した途端修正されてしまうのだ。
いまやあえて東京言葉を使うのは、文豪くらいのものである。




