事件8-2『そばにいる友』
〈前回のあらすじ〉
戦闘中に高熱で倒れたレッド。氷漬けにされたブルー。
ゴールドファイブにかつてない危機が訪れていた。
病室のベッドで横になっているりゅうま隊長。全身から汗をかいていて、とても苦しそうだ。
私はその横の椅子でそれを眺めていた。
病室の窓にかけられた緑のカーテン。その隙間から差し込む光が、りゅうま隊長を照らす。
「んん……うぅ……」
りゅうま隊長が目をパチパチとして身体を起こした。
「駄目ですよ。無理しちゃ……」
「ここは……」
りゅうま隊長はキョロキョロと辺りを見回す。
「そうか……、俺は倒れて……、ヒドーダ怪人は!?」
「一旦は退却しました。しかし、次またいつ現れるかは……」
「こうしちゃおれん!」
りゅうま隊長がベッドから降りようとする。私はすぐに気づいてそれを止める。
「だから駄目ですって! 安静にしてなきゃ!」
私の静止を受け、りゅうま隊長は動きを止めた。
「医者が言ってました。働き過ぎだって。疲労で倒れたんです。隊長は」
言われてみれば、隊長がちゃんと休んでいるのを見たことがない。口を開けば、正義、平和、努力、使命。たまの休みもトレーニング、訓練、そればかり。倒れるのも当然だ。
「もっとちゃんと休んでください。ゴールドファイブは五人居るんです。その意味を考えて……」
「駄目だ!」
りゅうま隊長が叫んだ。今までにないほど怖い顔で少し気圧される。
「隊長……?」
「すまない、病院で大きい声を出すものでは無いな」
なんだか空気が重い。私はそんな空気を変えようと、必死に脳内で話題を探した。
「そうだ、さっきの女の子。なんだかりゅうま隊長を知っているように見えましたけど……、知り合いですか?」
すると、あからさまにりゅうま隊長の顔が、より一層曇った。
「ああ、知っているさ……。あの子は、いや、あの子たちは、俺の忘れてはならない人だ」
それからりゅうま隊長は、私にあの子との出会いのことを話してくれた。
「あれは、まだゴールドファイブのメンバーが揃っておらず、俺が一人で戦っていた頃のことだ」
◇ ◆ ◇
この俺、高松りゅうまは、ヒドーダ怪人発生の報を受け、とある街の商店街に駆けつけた。
商店街は突如現れた怪人のせいでパニック状態だった。人々は逃げ惑い、辺りに悲鳴が響く。
その商店街の真ん中で、せいろ蕎麦のせいろが積み重なったような顔の怪人が暴れていた。
頭のてっぺんに盛られた蕎麦からはとてもいい香りがしていて、身体のあちこちにネギやワサビなどの薬味や天ぷらがくっついている。
「現れたな! ヒドーダ怪人!」
「なによアンタ! 今アタシは人々を苦しめるお仕事の真っ最中なの! 御用なら後にしてくれないかしら?」
ヒドーダ怪人はそういってなおも周囲を破壊し続ける。
「そうはいかん! 貴様の好きにはさせんぞ! ゴールドチェンジ!」
俺はゴールドレッドに変身し、ゴールドソードを構えた。
「あーもう! うざったいわね! いいわ! こうなったら、この蕎麦ヒドーダ様が相手になったげる! 信州長野の蕎麦の味、とっくりと味わいなさい!」
すると、蕎麦ヒドーダは全身から無数の、蕎麦のような触手を伸ばして攻撃してきた。
触手はムチのようにしなり、柱や地面にぶつかるたびに周囲が破壊されていく。
触手は俺の方にも伸びてきたが、俺はそれをゴールドソードを振り回してバッサバッサと切り捨てた。
「ぐぬヌ〜〜〜ドル! アンタ生意気ね! でもこれならどう? ワサビーム!」
すると、蕎麦ヒドーダの身体にくっついたワサビから、緑色の光線が発射された。
俺は躱しそこねて、そのビームを喰らってしまう。すると、急に鼻がツーンとして口内に独特の辛みが駆け巡った。
俺は思わずマスクの下で涙を流す。
「くっ……、なんだこれは……」
「驚いたようね。長野は蕎麦だけじゃない、安曇野のワサビも美味いのよ!」
……それは何か関係があるのだろうか。
ワサビのツーンとする痛みに耐えているうちに、蕎麦ヒドーダが何かを探し始めた。
「さてと……、あなたにかまけてる暇は無いわ。さっさとクルシミウムを集めないと……、でも今のでだいぶ人間は逃げちゃったかしら……」
(クルシミウム? 何だそれは?)
蕎麦ヒドーダだ辺りをキョロキョロ見回す。そして、何かを見つけるとニヤリと笑った。
「逃げ遅れた子、みーつけた!」
ハッとして俺は蕎麦ヒドーダの視線の先を見る。お店の入り口付近、庇を支える柱の陰、高校の制服を着た二人の女の子が隠れている。
「危ない! 逃げろ!」
次の瞬間、蕎麦ヒドーダは触手を伸ばしてその柱を破壊した。真上の庇が崩れ、瓦礫となって振り注ぐ。
女の子のうち一人はすんでのところで逃げて、巻き込まれずに済んだが、もう一人は瓦礫の下敷きになってしまった。
「美依!」
逃げた方の女の子が積み重なった瓦礫に向かって叫ぶ。
「いい表情だわ! 極上のクルシミウムが集まってくる! 蕎麦の薬味に出来そうなくらい!」
俺の心に怒りが巻き起こった。
「……許さん! 貴様だけは!」
俺は震える手でゴールドソードをグッと握りしめると、ワサビで鼻がツーンとしていたのも忘れて蕎麦ヒドーダで向かって行った。
蕎麦ヒドーダがこちらを見て驚く。
「ちょっと! 急に何!? こっち来ないで!」
蕎麦ヒドーダは全身から触手を伸ばして俺を足止めしようとするが、俺は向かってくる全てを触手を、先ほど同様にバッサバッサと切り捨てていく。
「これで〆だ! ゴールドスラッシュ!」
俺は蕎麦ヒドーダの腹部を斬り裂いた。
蕎麦ヒドーダが腹部から火花とおびただしいほどの蕎麦粉を散らして倒れる。
「実は結構……うどんも……大好き……! アー麺!」
蕎麦ヒドーダはそう言い遺して、爆発四散した。
俺はすぐに下敷きになった女の子の元へ駆け寄ると、瓦礫を一つずつ持ち上げて除けていく。
そばでは女の子が瓦礫の山を見つめて啜り泣いている。
「君はすぐに救急車を呼んでくれ! 早く!」
――その後、下敷きになった少女・板村美依は救急搬送されたが、昏睡状態となってしまった。
◇ ◆ ◇
「……さっきの子は来舞ともよ。当時その子のそばに居た親友で、今も毎日のようにこの病院に通って、昏睡状態の美依くんの様子を見に来ているんだ」
りゅうま隊長が悔しそうに唇を噛む。今でも守れなかったその子のことを後悔しているに違いない。
「本当ならあの子は、今頃一度きりの青春を謳歌しているはずだったんだ。それなのに、俺が守れなかったせいで……」
「そんな、隊長のせいじゃ……」
前に三羽ルカちゃんが無くなった事件のときも、隊長はこんなふうに悔しそうにしていた。
りゅうま隊長にとっては、誰かを守れないということが一番の苦しみなのだ。その守れなかったトラウマが、今もりゅうま隊長を突き動かしているのだ。
「俺が守れなかったせいで、未来を失った罪無き人間がたくさん居る。それなのに、その俺が休んだり遊び呆けたりして良いはずがない! 俺は戦わなければならないんだ!」
りゅうま隊長そういって拳を握りしめる。
「でも……、休まなかったらまた倒れちゃいます! それじゃ守れるものも守れないですよ! さっきだって、あのまま戦いが続いていたら……」
「それは……」
私の言葉を聞いて、りゅうま隊長が口籠る。
「とにかく今は休んでください。そんな状態で戦いに参加されてもかえって迷惑です」
私は強い口調でそうキッパリと言い放った。少し可哀想だが、りゅうま隊長はこうでも言わないと休んでくれない。
りゅうま隊長は何も言わず、ただ黙ってベッドに潜り直した。
私はそれを確認して病室を後にした。
◇ ◆ ◇
私が病院の廊下を歩いている途中、ドアの隙間が開いている病室を見かけた。
私はなんとなく気になって、その隙間を覗いた。
その病室は他の病室とは違いベッドが一つしか無く、横に特殊な装置が置かれている。
様々な管がその装置から伸び、ベッドに寝ている一人の少女に繋がれていた。
ドラマやニュースで見たことがある、あれはおそらく生命維持装置というモノだろう。
(ん……、もしかして……)
生命維持装置に繋がれた少女が眠っているベッドの横の椅子に、座り込んでその少女の手を握るもう一人の少女の姿が見えた。とても切なそうな、儚げな目をしている。
そのもう一人の少女に、私は見覚えがあった。
さっき冷蔵庫ヒドーダに襲われていた来舞ともよさんだ。ということはあっちで寝ているのは、板村美依さんだろうか。
(あっ)
うっかりともよさんと目が合ってしまった。ともよさんが不思議そうにこちらを見る。
「あなたは……」
私はもうしょうがないと思って、ドアを開け病室へ入った。ともよさんは美依さんの手をそっと離してベッドに戻すと、こちらへ歩いてきた。
「すみません、覗き見なんてして……」
「ゴールドファイブの関係者ですよね? さっき、あの場に居ましたし?」
私はコクリと頷く。
「ともよさん……ですよね?」
「なんで私の名前を?」
しまった。うっかり口が滑った。
「あ、えっと……、すみません。りゅうま隊長から聞いたんです。それで……」
「あー、なるほど……、先ほどはりゅうまさんに助けていただいたのにお礼を言えなくてすみません。逃げるのに必死で……、りゅうまさんに感謝していたと伝えておいてください」
「ああ、はい、分かりました」
淡々とした会話が続く。お互い気を遣いあっていて、妙に心地が悪い。
そんなことを思っていると、ふと、ともよさんが窓の方へ歩いていって、その窓のカーテンを開け、更に窓を少しだけ開けた。心地よい風が窓の隙間から病室に入ってくる。
そして、窓の外を眺め私に背を向けたまま、ポツリと呟いた。
「あの……、未来って信じますか?」
「え……?」
ともよさんの急な質問に、私はただ戸惑う。
「すみません……、急にこんなこと聞いて。りゅうまさんから聞いているんですよね、美依のこと」
「ええ、まぁ」
「会いたいんです。もう一度。もし目を覚ましてくれたら、語り合いたい夢がたくさんあるんです。だから、もしその未来に行けるなら……」
そのとき、私のブレスにいとしさんから通信が入った。
「冷蔵庫ヒドーダがまた現れたでござる! 現在交戦中! 場所は先ほどと同じ! すぐに来て欲しいでござる!」
まずい、おそらく敵はさっき凍らせたブルーを氷ごと破壊して粉々にする気だ。
「すみません! 私、行かなきゃ!」
「……分かりました。どうか気をつけて」
私はすぐに病室を飛び出して、怪人発生現場へと向かった。
〈つづく〉




