エリシウム防衛戦Ⅰ
エリシウム軍のトライエース「桜花」を駆る唐松真由は、ビルの間を移動する敵機に向かって、スナイパービームライフルの照準を合わせた。
本来は上空の敵を狙い撃つための距離に設定していたのだが、海岸からの奇襲の連絡を受けて、設定を変えなければならなかった。何とか間に合ったはいいものの、敵の接近が思ったよりも早く、万全とは言えない状態での迎撃となった。
「もう、こんなことなら設定の弄り方、真面目に練習しとけばよかった」
「真由、減らず口を叩いている暇があったら、一機でもいいから墜として!」
「わかってるよ。樹里!」
同期の仲間からの通信にイラつきながら手を動かす。
しかし、チラチラと移るビル群が気になって引き金を引くことができない。そんな中で、樹里の武器からビームが発射されたのが画面端から飛び出た光でわかった。
「よ、よく撃てるな」
「撃たなきゃ私たちの街がボロボロになるだけじゃすまないでしょ! わかったら、どんどん撃つ!」
樹里の攻撃がビルを掠めて、ちょうど出て来た敵機の頭部へと直撃する。メインカメラがやられた影響で、バランスを崩し、ビルの中へと突っ込んでいった。
その光景を見た真由は背筋を這いあがる何とも言えない感覚に戸惑いを覚えていると、樹里の機体の更に向こう側から同じようにビームが飛んでいくのが見えた。
「樹里の言う通りだよね。うちもちょっとビビってたけど、こうなったら撃って撃って撃ちまくるよ!」
もう一人の僚機を駆る高田朝美が放ったビームは、樹里が堕とした敵機の後に続くトライエースが足を止めたところを容赦なく撃ち抜いた。背面についていたブースターに直撃し、小規模な爆発を二、三起こした後、地面へと躓くようにして突っ込んでいく。
「あぁ、もう。こうなったら、僕も――――あ゛!?」
意を決して操縦桿を力強く握り込んだ真由は、自身が引き金を引くよりも先に別のボタンを押し込んでしまったことに気付く。次いで画面上部の左右から放たれる物体とその後を追うようにたなびく煙。
それは本来の作戦で使う予定だった地対空迎撃用ミサイルであった。ターゲットは最初に樹里が倒したトライエースに固定されている。
やばい、と思った時にはミサイル四発が高速で着弾の後、爆発四散した。
画面の拡大倍率を戻した真由は、ビルが煙を上げて崩れていく光景を見て、呆然としてしまう。
「(――――あれ、いったいいくらするんだっけ?)」
少なくとも二億は軽く超えそうなビルが倒壊する。ただ、その膨大な瓦礫の質量に低空を飛んでいたトライエースたちは為す術なく叩き落されていった。
「すっご。真由、ミサイルで建物崩すとかマジ!?」
朝美の驚愕する声が通信で届くが、間違えて撃ったとは口が裂けても言えない。どうかえしたものかと考えていると、別の所からも通信が飛んでくる。
「――――おい、新兵。今、ミサイル撃ったのはお前か?」
「ひぃ、そ、そうです。私です!」
教育隊の頃に世話になった上官の質問に、悲鳴に近い声で返事をしてしまう。どんなお叱りが待っているのかと身構えていると、予想に反して明るい声が飛んできた。
「はっ、ビギナーズラックかわからねえがよくやった! これで少しは時間が稼げる。この地域の防衛線の大手柄の一人に、お前を推薦しといてやる。下らないことで死ぬんじゃねえぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
教育隊にいる頃には褒められることなど、最後の時以外には片手で数えるほどしかなかったというのに、現場に出て褒められたことがこんなにも嬉しいとは真由自身思っていなかった。
「今ので、他のビビってた奴も目が覚めたみたいだ。礼を言う」
その言葉を示すかのように、後続で続いてきた敵機に向かって建物の被害など考えずに放たれるビームの弾幕。流石に市街地をこのまま進むのは危険と判断したのか、敵機が散開した。
「地下司令部から、援軍が何機か出撃する。敵と間違えて攻撃しないよう注意せよ」
部隊を指揮する隊長から通信が入る。
真由は高揚して震える指で操縦桿を握り、レーダーに映る最も近い敵機の方向に視線を移した。




